原作サイド─四年後─

□決別
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元々海賊になる気なんざ無かった。
それが今こうして海賊として船に居るのは、あの時ルフィと手を組んだのは、ルフィの強引さと人間性に、仕方なさと楽しさ、面白さを感じたから。
そして世界を回ってりゃ強い相手と巡り会える。
その為にルフィと手を組んだ。
そして一人二人と増えていったこいつらと、『仲間』としてここまで旅をしてきた。
「……ゾロ…」
「…ほんとに下りちまうのか…?。この船を…」
「…ああ」
声を出したウソップと、訊いてきたチョッパーに返す。
「これでもう俺の旅は終いだ。これからはアラバスタで、用心棒として生きる。海賊一味から、本来の海賊狩りロロノア・ゾロに戻る」
「用心棒…?」
「ああ…」
声を漏らすみてぇに言ったチョッパーに頷く。
「アラバスタは一度は乗っ取られた国だ。これからもその可能性はある。四年前白ひげが死んで世界の均衡が崩れた。新世界に入って目に付いたのが小物の海賊や荒くれものさばり始めた事だ。そいつらがあいつの国を狙わねぇって保証はねぇ」
「…確かに…」
俺の言葉にロビンが同意し、そのロビンから全員に、そして真正面に座るルフィの目を見据える。
「それでなくとも度々あいつの国は海賊から襲撃を受けていたみてぇだしな。王下七武海の鰐野郎を政府公認で町に置いていたくれぇだからな。用心棒としてあいつの国に住んで、この力をあいつの為に使いてぇんだ」
眺めるてめぇの手。
俺が唯一出来る事。
この手で、最強を掴んだこの手で、あいつやあいつの大事なもんを護る。
「…悪ぃな、ルフィ」
「…………」
手を見ていたその目をルフィに向ける。
正面から俺を見る、海賊王になった男。
「おめぇが海賊王になった途端に抜けちまうがよ。だが俺はもう決めたんだ」
「…………」
ルフィは黙って聞いている。
真っ直ぐ、真剣な顔で。
その顔に笑みを向ける。
こいつに初めて仲間になる事を告げた時の顔で。
「おめぇなら知ってるだろ」
この四年間、俺は誰よりもおめぇの側に居て、おめぇも誰よりも近く俺の側に居た。
どこかで似ていて、誰よりも背中を預け合って。
おめぇと俺は、この船の中で最も近ぇ存在だから。
「俺はてめぇの生きてぇようにしか生きねぇってよ」
「…………」
真っ直ぐ見てくる目。
四年前、初めてあの海軍基地で出会った時より男になった顔。
その口の端がニッと上がった。
「おう!!」
屈託のねぇ顔で笑って返してくる。
解っていた。
あっさり笑って承諾する事。
俺達は最初に仲間になったんだから。
俺は一番最初にこいつのクルーになったんだから。
おめぇは一番俺を解っていて、俺は一番おめぇを解っている。
「ゾロ」
「、」
ふいに呼んできた顔。
笑いながらも真剣さを持ったルフィの顔。
「俺は今まで何度もおめぇに助けられた。おめぇが一番俺の側で俺を支えてくれた。だから俺は今の俺でいられるんだ」
(─────)
「ありがとな。ゾロ」
「………ああ」
随分立派な事を言うようになりやがった。
それが嬉しいような、そしてちぃと寂しいような気分にさせて。
ちぃと目頭が熱くなる。
胸ん中が熱くなる。
周りの連中も涙ぐみ、俺とルフィ、コックを除く男連中の鼻水を啜る音以外、船の上が静まり返った。
「あー!!、やめやめ!!。俺達麦わら海賊団にこんなしんみりした空気は似合わねぇぜ!!。ようしみんな!!、今日の宴は仲間の一人、ロロノア・ゾロの新しい門出の祝いだ!!。大いに食べて飲んで祝うぜぇ!!!」
「「「「「「「「おーーーーーっっ!!!」」」」」」」」
沈みがちに傾いていた空気がウソップの盛り上げの声で引き上がり、全員が手に持ったジョッキを空高く掲げた。
俺もその中に仕方なく混じり、だが気分は穏やかで、頬の筋肉も多少緩む。

「でもゾロ」
場の空気がまた盛り上がり、ルフィとウソップ、チョッパー、フランキーが騒ぐ中、俺の横に座るナミが声を掛けてきた。
「ビビは知ってるの…?。あんたの気持ちも、アラバスタに残る事も…」
「?。なんだ?」
その問いに、騒いでいた連中の声が止み、ルフィだけがその状況についてこれねぇできょとんとした顔をした。
「いいや」
その、横から俺の顔を覗き込んでくるナミに返す。
「あいつにも言ってはいねぇし、アラバスタに残る事も俺が勝手に決めた事だ」
「…じゃあもしビビにもう別の相手がいたらどうすんだ…?」
言った後一口酒を煽った俺に、騒ぎを止めてこっちを見ていたウソップが訊いてきた。
「…そりゃあ仕方ねぇ。あいつは王女なんだからな。アラバスタを存続させていく為にゃあ、王も迎えなけりゃならねぇ」
「…それはそうだけどよ…」
「でも好きなんだろ…?、ビビの事…。もしあいつに好きな奴がいたらおめぇ…、あいつに告白なんて…」
「構やぁしねぇ」
俺の立場になってか、ちぃと言いづらそうに言ってくるウソップに笑いながら返す。
「俺はこれからもあいつに言う気はねぇ。王女のあいつに海賊の俺がコクった所であいつも迷惑だろうしよ。ただ俺があいつの側に居て護っていてぇだけだ」
「…言わねぇのかよ…」
「ゾロさん…」
「…けっ…。バカが…」
フランキーとブルックが漏らすみてぇに声を出し、コックが静かに罵倒してくる。
「でも海賊が一国に留まるなんて、たとえ用心棒でも政府が黙ってないんじゃない?」
「そうだよな。それでなくても俺達はもう世界中に名の知れ渡った大海賊だし、おめぇはその中でも船長のルフィの次に賞金額が高ぇ参謀的存在なんだからよ。たとえ船を下りてもおめぇはもう麦わら海賊団の仲間として世界は認めちまってるぞ。…言いたくはねぇが俺達と縁を切るんなら話は別だがよ…⊃」
「ああ、解ってる」
ナミとフランキーの言ってきた懸念の言葉は、俺が一番に考えた事だった。
「俺は麦わら海賊団をやめるつもりはねぇ。あいつが船を降りても仲間なように、俺も船を降りてもおめぇらとはこれからも仲間でいてぇんだ」
「当たり前だ!!!。おめぇはこれからも俺達の仲間だ!!!。仲間をやめてぇなんて言ったら俺が許さねぇぞ!!!」
「………。ああ。ありがとうよ船長」
間髪入れず怒鳴ってきたルフィの、そのマジな顔つきに嬉しさが湧いて広がる。
てめぇの都合のいい事しか言ってねぇってのに、そっちを怒りゃしねぇ事に。
てめぇの都合のいい事しか言ってねぇ俺を、それでも仲間だと言ってくれる事に。
「だからもう考えてはある。お尋ね者の海賊が大手を振って一国に留まれる方法はな」
「どうするんだ?」
「まさか…」
ロビンの声に一度そっちに目を遣り、また手に持つジョッキの中の酒にその目を戻す。
「ああそうだ。王下七武海に入りゃあそれが可能だ」
「「「「「王下七武海!!?」」」」」
俺の言った事にナミ、ウソップ、チョッパー、フランキー、ブルックが同時に声を上げた。
「ああ。鷹の目を倒した後、政府から通達が来てな。鷹の目の後釜として、王下七武海に入らねぇかって誘いだ。後釜ってのはちぃと気に入らねぇが、誘いが来るってこたぁそれだけ俺の力が認められたって事だからな。最強の剣士が座っていた座に座るのも悪くねぇかと思ってよ」
酒を煽り、一旦喉を湿らせる。
そこまで認められた事、そこまで強くなった事を改めて実感しながら、ジョッキを下ろして酒を注ぐ。
「船を降りる事をおめぇらに話してから受けるつもりでいた」
「…………」
「…ゾロが王下七武海か…。なんかすげぇな…」
ウソップが信じられなさげな様子ながらも興奮気味に笑う。
「ま、あいつにとっちゃあ勝手に決められて居座られて、有り難迷惑に用心棒なんざ大きな世話かもしれねぇが…、仲間のよしみだ。迷惑でも追い出しはしねぇだろうさ」
「…大丈夫よ」
(、)
てめぇでもてめぇの勝手さに笑いが湧く。
その笑いを酒で押し流すと、横からナミが呟いた。
「だって世界最強の剣士が国を護ってくれるのよ。ビビには何より心強い筈だわ」
「そうだぞゾロ!。ビビきっと喜ぶぞ!」
「………。…は。だといいがな」
力強く言うナミと、それに同意したチョッパーの言葉にちぃと自嘲の笑いが出、それでもそうあって欲しい気持ちもあって。
真っ直ぐ進む船の船首に顔を向けると、周りの連中もそっちに顔を向ける。
後二、三日で辿り着くだろう懐かしい砂の国を思いながら、手のジョッキに入った酒を煽った。

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