ボツ作品部屋

□スウィーツ改良版
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「…なぁ王女さんよ」
椅子に座って、エプロンを着けているビビを見ながら声を掛けると、
「あの…、Mr.ブシドー⊃」
申し訳なさげな顔付きで俺を見てきた。
「その…、出来たらその王女さんって、やめて欲しいんだけど…w」
今度は困惑顔で言ってきたビビが俺に体ごと向いた。
「この船のみんなは私を王女扱いしないでくれるし、私が気を遣うのも怒ってくれる。だからMr.ブシドーにも王女扱いはなしで、普通に接して欲しいんだけど…w」
俺に意見するのはまだちぃと抵抗があるらしく、かなり萎縮した態度で言ってくる。
だが確かにこいつが船に乗って三日経ったが、滅多に呼びはしねぇもんの俺だけが未だにこいつを王女さんと呼んでいて。
「…じゃあビビ」
「!。はいっ!」
名前を言うと、返ってきたのは嬉しそうな返事と笑顔だった。
そのビビに、
「おめぇ、菓子なんて作れんのか?」
さっき訊きそびれた思った疑問を訊いてみた。
「う…っw」
途端、エプロンを結ぶ手を止めて、気まず気な、ちぃと強張った表情を向けてきた。
「つ、作った事は無いけど、サンジさんにレシピを書いてもらったからっw。その通りに作れば初めてでも上手く作れると思うわっ?w」
「………w」
強張る顔に笑顔を貼り付けて、材料と道具を用意し始めたビビに、多少の不安は感じたものの、まぁ黙ってやらせる事にした。

動く度に揺れる水色の長ぇ髪の毛をなんとなく見てっと、コツコツと卵を割る音が聞こえ始めた。
が、
「あっw。あっw」
卵が割れる音がする度に、ビビが一々焦ったような声を上げる。
(…何やってんだ?)
ちぃと気になって後ろから覗き込んでみると、ボウルの中に入った卵は全部割れ崩れ、殻の欠片まで一緒に入っちまっている。
「あ…はは…w。玉子って結構割るの難しいのね…w」
「………w」
後ろから覗く俺に気付いたビビが振り向きながら見上げてきて、気まずげに焦り笑う。
(…序盤からこれで、マジで大丈夫なのかよ…w)
不安に思いながらもまた椅子に座って様子を見る。
が、その後も卵を混ぜてる時に手を滑らせて溢すわ、小麦粉はぶちまけるわと、これで上手く菓子が出来りゃあ奇跡だと思える程、初っぱなから失敗の連続ばかりで。
(…こりゃあ不器用なんてもんじゃねぇだろ…w)
運動神経はまぁ悪くはねぇ感じだが、やはり王女にこういう事はさせてねぇんだろう事が見て取れる。
そんな、"王女"って身分の女が、闇組織のバロックワークスに侵入し、王女の身分で武器を持って戦うなんざ、並みの覚悟じゃ出来ねぇ事だ。
(…………)
四苦八苦して料理をしている細ぇ後ろ姿からは想像出来ねぇようなもんをその背中に背負って、それでもなお気丈に、国の為に王女自らが動いているその心意気に、感心に似た何かを感じた。
「いたっ!」
(!)
ふいにビビが声を上げ、包丁を片手に戸惑っているようなビビに近付くと、その指から血が流れているのが見えた。
やりやがったと、あの不器用さから多少予測していた事が実際起こった事に、呆れの溜め息が出る。
「たく、何やってんだ」
その手を取って蛇口からの流水で血を洗い流し、見ると結構深く切れている。
「待ってろ、絆創膏取ってきてやるから。おめぇは先ずその包丁を置け」
「ごめんなさい…w」
申し訳無さ気なビビを台所に残して、薬箱から塗り薬と絆創膏を取って戻る。
「ほれ」
「…ありがとう…w」
片手が使えねぇビビの代わりに絆創膏に薬を塗って渡すと、それを受け取ったビビが指に絆創膏を巻く。
そして再度包丁を手に持った。
「……もうやめろ。俺は本当に菓子なんざどうでもいいんだからよ」
これ以上放っといたら、今度は熱湯でも被りかねねぇ。
一国の王女、そしてその国の現状を収束させる為に、無事にこいつをアラバスタまで送り届けるのが今の俺達の役目。
つまらねぇ事で余計な怪我させる訳にはいかねぇから、やめさせようとそう言った。
「嫌よ!!!」
が、いきなりビビが振り向きざま怒鳴り。
眉をしかめ、怒りに似た表情を浮かべて俺を見上げてくる。
「私は最後まで諦めない!!!。どんなに怪我をしたって、危ない目に合ったって、絶対に最後まで諦めたくはないの!!!」
「…………」
そこに立っていたのは強ぇ意思を目に宿した女。
最後まで諦めたくないってのは、国を救う事が根底。
その肩に背負った重い重責にすら屈しねぇ、強ぇ王女。
てめぇのやりてぇ事をし、てめぇだけの夢を追う俺達とは違う、生まれながらに背負った責務にも折れる事無く、国の為に、そしてそこに住む国民の為にてめぇの命を懸けている強く気高い女。
「……悪かった」
こいつの重く、だが誇り高い決意を、こいつの為に言った事とは言え知らず踏みにじった事を詫び、こいつが何事に対してもひたむきな事を認めた。
「…だがこっちも菓子作りくれぇの事で、これ以上おめぇに余計な傷増やさせる訳にゃあいかねぇんだ」
「…………⊃。え…?」
何か言いたげに、だが言えず俯いたビビの手から包丁を取ってまな板の前に立った俺の後ろから、ビビのちぃと驚いたような声がした。
「俺も手伝う。正直厨房に立つなんざゴメンだが、仕方ねぇ」
「…Mr.ブシドー……」
「その代わりおめぇもしっかりやれよ。おめぇが言い出した事なんだから」
振り向いて言うと、ちぃと茫然と俺を見ているビビと目が合って。
「ええっ」
そしてその顔が返事と共に一瞬で笑顔に変わった。
「でもMr.ブシドー」
「あ?」
ビビに替わって苺を切り始めた俺の手元を見て感心していたビビが、少し疑問を浮かべた顔を俺に向けてきた。
「あなたは料理出来るの?」
「………。……出来るように見えんのか…」
「………。…ぷっ。あはははは」
俺の答えに、数秒呆けたビビが吹き出し、そして本格的に笑い出した。
「笑うんじゃねぇよw。…たく…w」
元はと言えばおめぇが菓子なんか作るなんて言うからこんな事になってんだろうがと、苺を切りながら思う。
「…とにかくさっさと作っちまうぜw。台所に立ってるとこなんてあいつらに見られたらどんだけ笑われるか解ったもんじゃねぇw」
「ええっ」
返事だけは威勢良く、だが二人で連携するという緊張感からか慎重さを持ち出したらしく、失敗がかなり減ってきた。
(…やりゃあ出来るんだな…)
横から見る、生クリームを盛るビビの顔は真剣そのもので、ほぼ戦場と化した台所で悪戦苦闘する事一時間…。
「「…出来た…w」」
見た目にゃ世辞にも美味そうと言えねぇが、なんとか形にはなっている菓子を前に、達成感とそれ以上の疲労感を感じながら二人で呆然と菓子を眺めた。

「「いただきます」」
先ずはごちゃごちゃになった台所を片付けて、いよいよ菓子の試食と、ビビとスプーンを入れる。
「「………ん?」」
口に入れたのも同時、そして違和感を感じたのも多分同時だった。
「ぶえっ!!!。何だこりゃ!!w。ビビっ!!w、おめぇ砂糖と塩間違えてんじゃねぇか!!w」
「なっ!?w、砂糖って言って瓶を渡してきたのMr.ブシドーじゃないっ!!w」
食った生クリームは甘味の代わりに軽く塩辛く、生クリーム本来の甘味と付け加えた塩味が合わさって、思いきりくそ不味かった。
俺は一口食った時点でそれ以上食いたくは無かったが、ビビが『国では食糧難に苦しんでいる人達もいるんだから残すなんて出来ないわっ』と意地でも食うもんだから、仕方無く俺も付き合って、分けた半分を無理して食った。
そして欠片屑しか無くなった皿を多少胸焼け起こして見ながら思った。
取りあえず、二度と王女様にゃあ台所に立たねぇでもらおうと。

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