ボツ作品部屋

□誕生日
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「……ふふっ∨」
今日は恋人同士朝まで二人切りでいろと、ナミに勝手に貸し切られた女部屋。
床に広げたプレゼントを前に、幸せそうな顔で一つ一つ手に取るビビの姿。
その姿を見ながら、ちぃとつまらねぇ気分になる。
あの中に、俺の分だけはねぇ。
(…………)
幸せに浸るビビから目を離して、ベッドへと近付く。
一応は用意した誕生日プレゼント。
これしか思い浮かばなかった、酒。
女の口に合だろうもんを選んだが、だが酒はてめぇの好みであって、あいつの好みじゃねぇ。
だがそれしか思い浮かばなかった。
「…………」
ぐだぐだ思うならさっさと渡しちまおうとは思うが、気が乗らねぇ。
てめぇの好みで買った酒、あいつの好みじゃねぇ。
まだガキの口で酒の味も解らねぇし、酒自体にも弱ぇあいつに酒のプレゼントなんざ、貰っても嬉くもねぇ、むしろ迷惑にすらなる代物だろう。
"俺がやるプレゼント"って事でもあんまり喜びゃしねぇだろう上に、"物"としても喜ばせられねぇ。
来年もまだこの船に居るかも解らねぇし、こいつが王女に戻ったら、もしかすりゃもう二度とこいつの前で誕生日を祝える日もねぇかも知れねぇ。
(…………くそ…)
なんでもっと早くに言わねぇのかビビに憤りを感じ、その憤りを動力に動いた。
「ほれ」
「え?。?、なに?、お酒…?」
多少ヤケを込めながら、ベッドの下に隠してあった酒瓶を持って近付き、ビビに出すと、目の前に出された酒瓶を見たビビがきょとんとした顔で瓶を受け取った。
「…誕生日プレゼントだよ」
「え…。あなたからもあったの…?。…………」
「…………。また酒かと思ってるだろ」
「…ええw、まぁ…w」
何か思ってやがるみてぇな顔で酒瓶を見ていたビビに、言わなくても解った事を言うと、ちぃと躊躇しながら肯定した。
「俺にゃこれくらいしか思いつかねぇんだよ。悪かったな、てめぇの好みでよ」
「………、ううん、でもMr.ブシドーらしいと言えばらしいから…。ありがとう、Mr.ブシドー」
(…………)
ずっとある気分の悪さに多少物言いも当てつけがましくなり、だがその言葉に笑みで返ってきた礼。
その笑みに一応憤りが治まり始めたてめぇの現金さを覚えながら時計を見た。
時間は11時、誕生日が終わるまでに飲ませちまおうと、コップを取りに行き、二つ持ってビビの斜め横に座る。
「…ん」ビビの手から瓶を取り、コップ半分まで注いでビビに渡し、てめぇのコップにも同程度注ぐ。
「なら17の誕生日、おめでとうよ」
「…ふふっ。ええ、ありがとう」
コップを軽く当て合い、先にビビが飲むのを見る。
「!。おいしいっ!」
(…………)
一瞬の驚愕の顔。
だがその次にゃあ驚愕と笑みの混ざった顔でコップの中の酒を見ながら言ったビビのその反応が、ちぃと俺には意外だった。
「これなんてお酒?。果実酒みたいだけど、すごくさっぱりしてて、でも甘いし、果実の味もお酒に移ってるし」
「………、…梅酒って、青梅を氷砂糖と焼酎に漬けた酒だ」
「へぇ…、そっか、梅の味なのね。でもほんとこれおいしい∨。こんなおいしいお酒飲んだの初めて」
(…………)
酒をこんなにうめぇうめぇと言うこいつを見たのは初めてで、思ってもなかった意外な反応にちぃと呆然とする。
「……炭酸と割ってもイケるらしいぜ」
梅酒なんざ俺にはジュースみてぇなもんで。
だから炭酸割りなんざ正にジュースそのものだから飲んだ事も無く、話に聞いただけだが、その甘ぇ梅酒を一口飲んで言ってみると、
「本当っ?。あ、確かこの前サンジさんが炭酸水買ってたわね。やってみようっ∨」
(…………)
酒の事に浮かれて飯場の冷蔵庫に取りに向かったビビに多少違和感を感じながら、炭酸水を持って戻ってきたビビを眺める。
「これくらいかしら」
「…ちぃと薄まり過ぎじゃねぇか?。もうちぃと入れろよ」
炭酸水で薄まったコップに梅酒を足して、軽くかき混ぜたビビがコップを傾けた。
「わあ∨、ほんと、おいしいっ∨。これなら何杯でもいけそうっ∨」
「…………」
一応酒だってのにゴクゴクコップを傾けるビビに、最初はちぃと呆然としたが。
(…………。くくっ)
酒をうめぇと流し込むビビに、やっと酒の旨さを解らせられたと満足心が湧いてきて。
「ほれ、なら飲め。今日はおめぇの誕生日だ。祝い酒だぜ」
「ええ∨」
甘ぇ梅酒じゃかなり物足りねぇで、てめぇ用にナミの酒置き場から蒸留酒を持ってきて、ビビにゃ梅酒を注ぐ。
かなりの勢いで減っていく梅酒の量と、それを笑いながら飲むビビに満足しながら、これをプレゼントとして選んで正解だったとてめぇの選択に納得した。
「…んふ……」
梅酒は殆ど飲み尽くし、今はもごもごと梅の実を食っているビビ。
その顔はもう真っ赤で、今は仄かに笑いながら目は虚ろで。
完全に酔いが回って、意識も半分朦朧としている感じに思える。
「……ぷっ。……ん〜〜……」
「ん」
梅の種を空になったコップに吹き出して、ぐらりと俺側に横に傾いてきた体を片手で受け止めた。
「……す〜〜……す〜〜……」
「………。ん…」
酔って寝入っちまったビビをベッドに寝かせる為に抱き上げて。
「…んふふっ…∨…」
「…………」
連れて行く途中、腕の上でふいに笑ったビビを見ると、寝入っているが楽しげに笑んでいて。
どうやらいい誕生日になったらしく、寝ながら笑うビビをベッドに寝かせて、その寝顔を肴に一人酒を続けた。

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