─獅子と鳥─

□敗北
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「ゾロくん!!」
「ゾロ殿!!。!!、ビビ様!!!」
町に戻ると、王や、頭や体に包帯を巻いた竹輪のおっさん、鷲鼻の男、ハヤブサの男が俺を見て駆け寄ってきた。
「────」
ビビの惨状を見て言葉を失う王達。
「…ビビ……」
王が差し出したその手は僅かに震え、その時、目を瞑っていたそのビビの目が開いた。
「………パパ……。心配しないで……。…私なら大丈夫だから……」
か細い声と頼り無げな表情で、それでも笑んだビビ。
「……頼む」
そのビビの体を王に渡す。
「ゾロくん…、キミもひどい怪我だ。ビビと共に治療を…」
「俺はいい…。それより早くビビを…」
「…だが…。……うむ」
「………待って……、パパ……」
渋り気味ながらも踵を返そうとした王を止めたビビが、俺に顔を向けてきた。
「…ゾロさんも……手当てを受けて……」
弱々しい声、そして力ねぇ顔で促してくるが、俺にゃあそんな資格はねぇ。
大事なもんを、ビビを護れなかった俺にゃあ、傷の手当てを受ける資格なんざねぇ。
「…ゾロさんが手当てを受けるまで……、私もしない……」
「っ……」
弱々しい、今にも消えちまいそうなビビの声。
その声で告げられた言葉は、今の俺にとっては脅迫も同じだった。
「……ゾロくん。さ…、キミも手当てを…」
「…………」
知ってか知らずかのそのビビの脅迫に、仕方無く治療を受ける事になっちまった。
そんな資格はねぇってのに。
大事なもんを護れなかった俺に、手当てなんざ…。

「…………」
別部屋で治療を終えたその足で、ビビが治療を受けている治療部屋へ向かった。
てめぇの驕りの為にビビが傷付いた事を、父王に詫びる為に。
「ゾロ殿!?」
「!。ゾロくん!」
ビビの治療はまだ終わっていねぇらしく、治療部屋の前には王とイガラムのおっさん達が居た。
俺に気付いたイガラムのおっさんが驚愕し、鷲鼻男と話をしていたコブラ王が俺の前に近付いてきた。
「今部屋に向かおうと思っていた所だっ。歩いて大丈夫なのかね?⊃」
(…………)
不甲斐ねぇ俺に向けられる、労りの言葉。
自分の娘が、大事な一人娘が惨劇に遭い、心配でならねぇだろうに。
ビビを護れなかった俺までを心配してくる。
情けねぇ俺に、向けられる優しさ。
その優心を受ける資格はてめぇにゃねぇとその労りの言葉を胸に留めず、王を前にその場に膝をつき、拳をついて頭を下げる。
「ゾロくん!!?」
「ゾロ殿!!、何を!!」
「……すまねぇ…」
獅子の俺が鳥に頭を下げ詫びている。
それを恥とは思わねぇ。
俺を快く受け入れた鳥の王。
ビビの父親。
獣の俺に心を向けてきた。
そして自分の娘を惨劇に見舞わせちまった俺に労りの心を向けてくる。
その王に、頭を床につける事なんざ何でもねぇ事だった。
「…ビビを…護れなかった」
申し訳無さ。
てめぇの不甲斐無さ。
きっと、これでも足りねぇ。
王女の翼を無くさせた。
ビビを命の危機に晒させた。
「何を言っているんだね!!。キミはそれ程の怪我を受けて尚ビビをクロコダイルから取り戻してくれたではないか!!。キミがいなければビビは今頃…!!」
「そうだゾロくん!!。本来ならその役目は我等が担わなければならないのだ!!。…だが、我らが不甲斐無い為にキミにその傷を負わせてしまった…!!。謝らなければならないのは我等の方だ!!」
「違う」
こんな不甲斐ねぇてめぇを擁護してくる王や鷲鼻男の言葉を否定の言葉で止める。
「…あいつの羽が無くなったのは俺の傲りのせいだ。俺がてめぇの力を傲っていたから、あいつが翼を無くした」
力の差があるのは解っていた。
だがその差を見誤った。
特異な能力。
砂になる鰐。
有り得る筈のねぇ事だと考えも及ばず、てめぇの力を傲り高ぶった事が、敗因。
(…………)
それでも、それでもビビを取り戻せた事。
生きてあいつを父王の元へと帰らせられた事。
それだけは、せめてものあいつと王への幸いだった。
だが、鳥の命の翼を無くしたあいつの事を思うと、あいつへの罪悪感がてめぇへの憤りを増しさせる。
鷲鼻男とハヤブサの男に立たされながら、ビビの鳥としてのこれからの人生を思って、胸の中はあいつへの詫びの気持ちで満ちていた。

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