─獅子と鳥─

□敗北
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(………止まった…)
かなりの時間ビビを抱いたまま傷を押さえていた服を退かすと、血でベタつく羽毛にまみれた傷口からは血は出てこねぇで。
「…ビビ……」
ビビの体は冷たく、元々透けるみてぇに白かった肌の色は、血の気を失って青ざめている。
「…ビビ…」
血が止まると言う事の可能性は3つ。
1つは血が固まり血管が塞がった時。
1つは出る血が無くなった時。
そして残りの1つは心臓が止まった時。
「…起きろ。目を覚ませ」
出た血の量からして後者二つの最悪が頭を過り、震えそうになる声を抑え、軽く頬を叩いた。
「……ビビ…」
「………。……ゾロ…さ…ん……」
薄く目が開き、その口から消え入りそうな声が俺の名を呼んだ。
生きている。
それだけで充分だった。
沸き上がる安堵感に、血を失くして冷えきったビビの体を抱き締めた。
だが安堵に浸ってるヒマはねぇ。
なんとか血を増やさせなけりゃ、このままじゃ死ぬ。
今の状態じゃあ、町までは持たねぇのは一目瞭然だった。
今すぐに血になるもんを食わせねぇと。
「!」
目に入ったのは、ビビの血にまみれたてめぇの腕。
迷う事無くその手首を噛み裂き、ビビの口元に持っていく。
「飲め、ビビ」
ボタボタと血が流れ落ちる傷口をビビの口に当てると、微かに眉をしかめながらビビがその血を飲み込む。
「ぅ……」
だが肉食じゃねぇ、普段果物しか食わねぇビビに血はキツいんだろう。
嫌悪感に眉をしかめ、目に涙を滲ませながら呻いたビビが傷から口を離した。
「吐くな。我慢しろ。俺の血がお前の血になるんだ。吐けば死ぬぞ」
言い聞かせながら手首を近付けると、涙の滲んだ虚ろな目が俺を見た。
その目を見ながら頷くと、口をつぐみ、吐き気を堪えているように体を強張らせる。
「いいぞ。生きる為だ、我慢しろ」
詰めていた息を吐いて口を開いたビビの、血で汚れた口にまた傷を当てる。
コクリコクリと喉を鳴らしながら苦しそうに血を飲み込むビビを、励ましながら血を飲ませる。
「…………」
充分に血を飲んだビビの冷えた体を抱いて砂漠の日差しから防ぎながら温め、ビビの体力が回復するのを待っていると、腕の中の体が僅かに動いた。
「……ゾロ…さん……」
「!。どうした。傷が痛むか?」
「……私……、…生きるから……」
「────」
「…頑張る…から……」
「───ああ」
力ねぇ笑み。
だがその笑むって行為が、ビビの生きようとする気力を表しているみてぇに見えた。

砂漠の暑さも手伝って背中の傷は完全に乾き、ビビの顔にも多少色が戻ってきた。
冷たくなっていた体にも温かさが戻り、峠を越えた事に一息つく。
(……日が傾いてきたな…)
空を見ると、太陽はかなり西に移動している。
(よし…)
「ビビ。今から町に戻るからな」
まだ動かすのは賢明じゃねぇが、いつまでもここに居る訳にもいかねぇ。
夜になりゃあ、砂漠は気温が一転する。
また体温が下がりゃあ、今度こそ命取りになりかねねぇ。
移動を告げた俺に頷いて、ビビが力無くだが微笑んだ。
背中の傷に負担が掛からねぇように上半身を起こし抱き、軽い体を抱える。
ビビの体に負担が掛かる為に走る事は出来ねぇで、遥か彼方に小さく、陽炎で揺らめいて見える町を目指して急ぎ足で帰路についた。
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