─獅子と鳥─

□獅子と鳥
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「きゃああああーーっっ!!!w」
「獅子だぁ!!!w。逃げろぉ!!!w」
ビビに連れてかれた町に着くと、町は想像通り大混乱になっちまった。
「だから言っただろ…。知らねぇぞ、俺は」
「みんな落ち着いて!!w。この人は大丈夫だから!!w」
(……!?)
あれだけ収拾つかねぇ状態だった町ん中が、ビビの一声でピタリと静かになった事に、何事かとちぃと驚いた。
「この人は道に迷って、怪我をしてる上にお腹もすかせてるの!。傷が癒えるまでこの町におかせてあげて!」
「しかしビビ王女!!w。そいつは獅子ですよ!!?w。それをどうしてこの町に!!?w」
(Σ王女ぉっ!!?)
町の鳥達に説明したビビに向けて町の鳥の一人が言った言葉に驚き、俺の横に立つビビを思わず勢いよく見たちまった。
確かに見た目はそこらの鳥とは何ランクもレベルが違う格別な容姿だが、まさか王女だとは思わねぇで。

「…おめぇ、王女だったのか…?w」
客用の泊まり部屋に案内され、入った部屋のベッドに座りながらビビに訊いた。
「ええ。ごめんなさい。別に言う必要はないと思ったから…」
「……まぁ…、確かにな……w」
言う必要はねぇ。
俺はただの通りすがりみてぇなもんなんだから。
こうしてここに居る事も一時、だから本来名前を知り合う必要も無かった。
獅子が鳥の世話になるなんざ、鳥が獅子を助けるなんざ、大体があり得ねぇ事なんだから。
"コンコン"
「ビ…ビビ様w。ゾロ様のお食事をお持ちしましたw」
ノックの後、開いたドアから顔を覗かせた男。
「あ。ありがとう。ここに持ってきてくれる?」
「は…はい…w。し…失礼します…w」
ビビに言われて入ってきたのはコックらしい鳥で、その様子は思いきりびびってやがる。
まぁ獅子を前にすりゃ、普通はこの態度が当然なんだが。
「あの…w、お召し上がりになられるのは…生肉…ですよねw。やっぱり…w」
「当たり前だろ。獣なんだから」
「Σw」
「てか早くくれねぇか。早くしねぇとおめぇを食っちまうぜ?」
「ひっ!w。ひいいいっ!!w」
ちぃとした冗談だってのに、台車をその場に残して一目散に逃げていったコック姿の料理鳥。
「………w。あまり脅かさないでください…w。あなたが安全な獅子だって事をまだみんなが信じてる訳じゃないんですから…w」
料理鳥が置いて逃げた、肉が大量に乗ったテーブルワゴンをビビが押して、俺の前に持ってくる。
「さあどうぞ。召し上がってください」
にっこりと微笑むビビからは、俺を疑っている様子は微塵も感じられねぇ。
そして、こいつの父親でもある国王も、こいつを信じ、俺がこの町に滞在する事を許した。
(全く、娘が娘なら親も親だな)
呆れる程のお人好しだ、この王族親子は。
まぁ俺にはどうでもいい事だと、先ずは2日ぶりのメシをいただく事にした。
鷲掴みにした肉にかぶり付き、ガツガツ食う俺を、最初は驚いたように見ていたビビ。
だがそれが呆れに代わり、そして笑い出した。
「……おめぇは随分破天荒な王女なんだな。さっきの護衛隊長のおっさん、『また』って言ってたじゃねぇか。前にもやったのか、こんな事」
全く警戒のねぇ雰囲気で笑いながら俺を見るビビに、肉を貪る口を一旦止めて、謁見の間での竹輪を巻いたみてぇな髪型のおっさんの様子を思い出しながら言うと、ビビの鳴る喉が止んだ。
「町に連れてきたのは初めてです。でも獣の怪我を手当てしたのは何度か…w」
「…なんで俺は連れてきた?」
俺は食うもんはねぇかと言っただけ。
だってのに、獅子を、獣を町に案内した。
町の奴らを危険に晒す真似だってのに。
「あなた大笑いしたじゃないですか。優しそうだからって言ったら。その笑顔と雰囲気にあなたなら大丈夫だと思ったから」
「……優しそうに見えるかぁ?。この俺が」
「だって今だって鳥の町にいるのに、誰も襲ったりしないじゃないですか」
「…………」
ビビの言葉にそりゃそうだが…とは思う。
だがこいつにゃ恩を受けた。
もしそれが無けりゃ、てめぇでもどうしてるか解らねぇってのに。
「食事が終わったら医療室の方に案内します。今の手当ては一応の手当てですから、ちゃんと消毒しないと化膿でもしたら大変――」
「必要ねぇ。これで十分だ。獣はそんなヤワじゃねぇ」
血が止まりゃあそれでいい。
傷なんざ寝てりゃ治る。
お人好しな鳥は心配性でもあるらしく、野生の治癒力は知っている筈だろうってのに、いかにも弱ぇ鳥らしい軟弱な事を言いやがった。

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