─不良と優等生─

□鈍感
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(……つまんねぇなぁ……w)
こいつら、むしろビビ用に選んだ映画はタイトル通り女子供向けの可愛い系の動物映画で、男の俺にゃあ大変に面白くねぇ内容に、退屈で眠気が湧いてきて。
(あ?)
昨日はバイトの時間がちぃと長引いて、寝る間が短くなっちまったし、丁度いいから今のうちに寝とくかと目ぇ瞑りかけた時、横に座ってた嬢ちゃんが、腕組んでる俺に凭れ掛かってきた。
寝てんのか?と顔を向けっと、凭れたまま俺を見上げて、ニコッと笑った。
その向こうにビビがいる。
券の順番でこうなった。
が、正直俺は、隣に来るのはビビの方がよかった。
この嬢ちゃんの香水はキツいから、正直離れていてぇ。
つまらねぇ映画で、横からは濃い臭い。
最悪だ。
くせぇから眠気も吹き飛んで、映画が終わるまでの二時間、これに耐えねぇといけねぇのかと思うとちぃとげんなりする。
(ん……)
離れてくれねぇかと垂(しだ)れ掛かってくる嬢ちゃんを見てっと、視界の奥で向こうにいるビビがこっちを見てんのに気付いて。
顔を上げっと、目が合う前にふいっとビビが顔をスクリーンに向けた。
(?)
確かに見てたと思ったんだがと思ったが、もうこっちを見る気配のねぇビビに、ちぃと違和感を感じながら俺もつまらねぇ映画の映るスクリーンに顔を向けた。

(がはあ〜〜〜〜w)
地獄の二時間が終わり、やっと外に出て臭いから解放された。
「ゾロさん、お腹すきません?。何か食べに行きませんか?」
「ん……、…そうだな。ビビ、飯食いに行くぞ」
「あ…、うん…」
正直この臭いが胸くそ悪くて腹なんざ全く減ってねぇんだが、もう昼前だしと飯屋を探して歩く。
「……ちぃと離れてくれねぇかw。歩きづれぇからw」
「いいじゃないですか∨。ゾロさんとこんな風に歩けるなんて、夢みたい∨」
映画館からずっと俺の腕にしがみついて歩く嬢ちゃんに言っても、笑って離さねぇ。
いいじゃないかって、しがみつかれて歩きにくい俺は全然良くねぇんだが、キツく言ってこんな公道のど真ん中で怯えて泣かれんのも体裁が悪ぃ。
(は〜ぁ……w)
まだ密室じゃねぇからマシだが、それでもやっと解放されると思った香水の臭いからはまだ離れられそうにねぇ事にうんざりと内心で息を吐いた。
「………?。ビビ、ついて来てっか?」
さっきから静かで、全く声を聞かねぇビビを振り向くと、かなり間を開けて後ろを歩いているビビと目が合った。
「うん、…大丈夫。ちゃんとついてってるから心配しないで?」
(………?)
にこりと小さく笑って返してきたビビは、それでもやっぱりなんか元気がねぇ。
「…悪ぃ。ちぃと離れてくれ」
「あん」
腕にしがみつく嬢ちゃんの手から腕を抜いて、ビビの前に戻って、
「………?。ゾロさん…?」
体を屈めてビビのでこに手を当てたが、熱はねぇ。
「どうした。今日はやけに元気ねぇじゃねぇか。どっか具合でも悪ぃのか?」
「……ううん。大丈夫」
にっこりと笑った顔は嬉しそうで、さっきみてぇな元気のなさは完全に消えている。
「そうか?。ん」
「ね、ゾロさん。あそこに美味しそうなお店がありますよ。早く行きましょ」
ビビに目線を合わせて体を屈めていた俺の腕を両手で引いてきた嬢ちゃんに後ろを向くと、
「行きましょ、ゾロさん。私もおなかすいちゃった」
ビビも笑みを浮かべて促してきた。
「ん…」
元気がねぇのは腹が減ってるからかと、嬢ちゃんに腕を引かれながら目当ての飯屋に向かった。

「…………」
腹が減ってると言ってた割にゃもそもそと、あまり美味そうに食ってねぇビビ。
その一方で、にこにこと笑ってパクパク飯食って、パフェまで頼んだ嬢ちゃん。
その向かいでその対照的な二人を見ながら、鼻に染み込んだ香水の臭いに箸が進まねぇ俺。
「ゾロさんってご飯食べてる姿もクールで素敵∨」
「…………」
嬢ちゃんは組が違ぇから今まで俺の飯食ってる姿を見た事がねぇで。
これが俺の飯を食う時の姿だと思ってるらしいが、普段の俺の飯食ってる姿を知ってるビビからすりゃ、具合でも悪ぃんじゃねぇかと思ってんじゃねぇかって程だろう。
だがもう説明すんのも『おめぇの香水のせいだ』と言う気も起きねぇで、黙って、せっかく金払うんだから残す訳にはいかねぇ飯をげんなりと口に入れる。

(ふう…)
やっと飯を食い終わり、ちぃと一服してから出るかと二人に言うと、嬢ちゃんがちょっとと席を立った。
「ぐ……w」
便所に入った嬢ちゃんに、その嬢ちゃんが居ねぇ間に支払額を見ると、結構な金額になっていて。
しかも嬢ちゃんの食った分が一番割食っている。
だがこういう時ゃあ男が金出すもんだって事くれぇは俺も解ってっから、一応足りるかと財布を確認してみた。
(う…w)
微妙に足りねぇ…w。
帰りの電車代を除いて、領収書の金額を計算すると、ビビが食った分くらいの金が足りねぇ。
「…ビビ悪ぃ…w。金足りねぇんだw。明日ぜってぇ返すから、おめぇの分おめぇで払ってくれねぇか…w」
こんな情けねぇ事が言えるのも、気心の知れたこいつだから言える事で。
小声でビビに言うと、ビビの眉間にシワが浮かんだ。
「あ…w、いやw、悪ぃw。おめぇの分も出す気ではいたんだぜ?w。けど映画の券ってあんな高ぇもんだとは知らなかったからよw。ここで有り金使っちまったら帰りの電車賃がねぇんだよw。嬢ちゃんの食い分くれぇは俺が出さねぇといけねぇだろうし、おめぇなら解ってくれるだろ?w」
「――――」
返事をしねぇビビ。
不機嫌ともなんか微妙に違う表情のビビは俺と目も合わせず、口の中で歯を食いしばってるのが解る。
「悪ぃってw。そんな怒んなよw。仕方ねぇだろw、男の面子ってのも解ってくれよw」
「――――」
無言のままのビビは聞いてるのか、聞き流すつもりか、やっぱり返事をしねぇで。
「な…w……、ぁ」
説得続けようとした時、ビビが自分の財布を鞄から取り出して。
「え」
出してきたのは、万札が二枚。
「おいw、いやw、こりゃあ多すぎだw。おめぇの食った分だけでいいからえ〜…七百…w」
「…いいから。まだ必要でしょ」
「あ?w」
まだって、俺はもうこれで帰る気でいるってのに、ビビはまだ不機嫌な顔で俺の前にその二万を差し出してきて。
「……私もう帰るから」
「え?」
いくらなんでも多すぎる金額に受け取るのを躊躇っていた俺の前に、差し出していた札を置いて席から立ち上がったビビに、不意にの事に思わず気の抜けた声が出た。
「私がいちゃ邪魔でしょ。邪魔者は帰るから」
「お、おいビビw」
いきなり何言ってんだと、取り敢えず随分怒らせたみてぇだから詫びようと、座らせる為に手首を捕まえようとしたら、その手をサッと後ろに引かれた。
「ビ…」
「……なによ。かっこつけて…」
「あ?」
横を向いたビビの口からボソッと漏らすみてぇに言った声には怒りが含まれているみてぇで。
「……私が来なくてもよかったんじゃない……」
「ビビ?」
「……もう私がついてなくても大丈夫でしょ」
「お、おいビビっw」
止める間も無く店を出ていったビビに唖然とし、飯代出してくれっつったくれぇであんなに怒る程心の狭ぇ奴だったか?wと、今日はなんか様子がおかしいビビの態度に内心で首を傾げた。

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