─不良と優等生─

□小旅行
2ページ/2ページ

「綺麗……」
満天の星空を見上げながら、ビビが呟く。
「街中の空気より多少は空気も澄んでるだろうからな。星が綺麗に見えるだろ」
「うん……」
夜空を見上げて夢見がちに笑うビビから目を離して、今日泊まる場所に簡易テントを設置する。
着いたのは、何とか目的に見合った小山の麓(ふもと)。
想像していた山とはかなりスケールが小せぇが山にゃあ変わりなく。
一応山くせぇ雰囲気だし、ビビもここでいいみてぇだから、今日の寝床をここに決めた。
「よし。それじゃおめぇ中で寝ろ」
「え?。ゾロさんは?」
「俺は外で寝る。いくらなんでも女と二人でテント寝は出来ねぇからな」
元々俺はテントを使う気はねぇで。
テントはこいつを寝かせる為に持ってきたもんだった。
「駄目よ!!w。まだ夜は寒いのに外でなんか寝たら風邪引いちゃう!!w」
「大丈夫だよ、これくれぇの寒さなんざ何てこたねぇ」
「でもっw」
「気にすんなって。これくらいで風邪引くようなヤワな鍛え方はしてねぇよ」
「…………⊃。…………」
「?。どうした?」
なんか言葉を止めて俯いちまったビビに、首を傾げて、沈んだ様子のビビに訊いた。
「……私…やっぱり来ない方がよかった…⊃」
「あ?」
返ってきたのは申し訳無さげな声で。
「だって…ゾロさんがそういう人だって解ってたのに……。女の子と一緒に旅行して、テントで寝泊まりするのも解ってて、ゾロさんがどうするか考えるべきだったのに、私楽しい事で頭が一杯でそれを考えなかった……」
「ぐ……w。いや……そりゃ確かに最初からそのつもりだったがよ……w。それをおめぇが自分を責めるのは違うだろうが…w。な?w。俺は大丈夫だからよw。これくれぇの寒さならなんて事ねぇからw」
「……でももしゾロさんが風邪引いちゃったら……」
ビビはすっかりしょげ返っちまって。
「―――〜〜〜w」
さっきまで笑ってたってのに、今は沈んじまったビビに、なんか俺が悪ぃみてぇな罪悪感に苛まれる。
それにこいつの事だから、このままじゃ自分が外で寝るとか言い出しかねねぇと、
「〜〜解ったよ!!!w。だったら俺も中で寝るからそんな顔すんな!!!w」
妥協して俺もテントを使う事を承諾した。
「でも…っ⊃。……あっ。じゃあ私が外で寝るからゾロさんがテントを使ってっ!?。ねっ!?」
「!!w」
が、聞き入れたってのにまだ納得しねぇ顔付きで顔を上げて。
そしてやっぱり思った通りの事を言いやがったw。
「バカ野郎!!w。女を外で寝かせられるか!!w。俺が風邪引くよりおめぇになんかあった時の方が問題だろうが!!w。いいからほれ!!w、早く中入れ!!w」
「きゃっ!w」
強引にビビの背中を押してテントの中に入れさせ、自分も入ってジッパーを閉める。
周りから見りゃあ女を無理矢理テントに押し込める、完全に危ねぇ男な今の自分の行動に、人通りが無くてマジでよかったと安堵しながらも、
(…………w)
女と二人で狭ぇテント内で寝る事になっちまって、内心どうするか汗かいて悩んでいた。

「いいか!!?w。絶対にこれからこっちに入って来るんじゃねぇぞ!!?w」
ビビと自分の間に置いた縦長に丸めたジャンパーを指差して、ビビに釘を刺す。
女と一つの密室の中で寝るなんつぅ状況に遭った事なんざ今までいっぺんも無く、ましてやこいつは恋人でもねぇただの女友達で。
そんな相手と一緒に寝る気まずさに思わず声もでかくなる。
「うん」
俺がテントに寝る事を決めたから安心したのか、俺の言い付けに素直に返事をするビビ。
男と一緒に寝るって状況を深く考えてねぇのか、危険意識の欠片もねぇみてぇなビビに俺の方が参るw。
「じゃあおやすみなさい、ゾロさん」
「はいはいw、おやすみおやすみw」
テントを入れていた袋を被って横になったビビに、こいつ俺とじゃなくてもこんななのか?wと、女としての危機感の無さを多少不安に思いながら、ビビに背を向け横になる。
「…………」
静かなのがちぃと気になって振り向くと、俺に背中を向けて寝ている。
細ぇ後ろ姿は、被ったテント袋越しでも女としての曲線がしっかり浮き出ていて。
マジで他に男友達でも出来りゃあ、こいつの事だから平気で部屋にでも泊まらせそうで。
こいつ程の見た目でこんな無防備だと男にとっちゃあ絶好の獲物。
男の欲望をナメてやがるようなこいつの危機感の無さが心配になっちまって。
そんな自分の考えが、まるで妹の無防備さを心配する兄貴みてぇで、なんだか妙に情けなかった。
「…………w」
なんか頭ん中グルグルぐちゃぐちゃしてきて、明日あんま男の前で油断すんなと言おうと決めて、一旦深呼吸して目ぇ瞑った。

なんか温ぃ。
いい匂い。
(………………。Σ!!?w)
温さとレモンっぽい爽やかなにおい。
意識が醒めてきたと同時にそれがハッキリしてきて。
驚いて目ぇ開けっと、ビビが俺の腕ん中にいた。
それに声も出ねぇ程びびって、あれ程境界線に入ってくんなと言ったのにと、俺と向かい合って寝ているビビを見ながら思った所でハッとした。
ビビの寝てた位置は変わってねぇで。
境界線を越えて入り込んでたのは俺の方。
「――――w」
それを確認する為に恐る恐る振り向くと、丸めて置いたジャンパーがねぇ。
どこいった?wと探すと、
「…………w」
ビビがしっかり抱いて寝てやがったw。
混乱する頭で考えて、どうやら俺が体で押しながら持ってきたこのジャンパーをビビが抱いていると、そう結論付いて。
「www」
たまに、家でも布団に入って寝たってのに、朝起きっと全く別の場所で寝てる事がある事でてめぇの寝相の悪さは知ってるが、まさかそれを他人と寝てる時も発揮するたぁちぃと考えもんだと思ったw。
それと同時によくこいつをぶん殴ったり蹴ったりしなかったなwと、それにゃあてめぇで安堵して。
「………w」
取りあえずこいつが起きる前に離れねぇとと、体を起こそうとして、ビビがジャンパーを抱きながらも片手でしっかり俺のシャツを握ってる事に気付いた。
「wwwww」
それに多大に困惑する。
起きた時にこいつが今の状況にどう思うか。
それを思うと、寝てる今のうちに離れとくのが賢明だと思う。
が、手を離させりゃ起こしちまうかもしれねぇw。
だが何もしなくてもいずれは起きるw。
「………w。…………w」
ちぃと迷って、起こさねぇ可能性もある手を離させる方を選んで、ビビの手に手を近付ける。
(〜〜〜〜w。お?)
ちぃと緊張しながら慎重に人差し指から摘まむと、意外にあっさり取れて。
これなら起こさねぇで取れそうだと、次の中指を摘まむ。
細ぇ指。
ちぃと力加減を間違えっと折れちまいそうなくれぇに。
てめぇのゴツい太ぇ指とは違う。
女の手の指。
「…………」
指を全部離させ終わった時に、いつの間にか無心になってた事に気付いた。
「………ん……」
「Σ!?」
離させ終わった瞬間にビビが薄く目ぇ開けて。
「……………」
「………www」
「……〜〜〜〜/////#」
「wwwww」
最初ぼんやりとした顔で俺を見ていたビビ。
その顔にみるみる怒りと赤みが浮いてきて。
「〜〜〜っっ!!////#、ゾロさんのバカ!!!/////#。信じてたのに最低!!!/////#」
「Σ!!?w」
女のくせに平手じゃなく拳固で殴ってきやがって、しかもこいつの細腕からは想像出来ねぇくれぇパンチ力が半端ねぇで。
横っ面にそれを受けて、今まで男相手にも吹っ飛ばされた事がねぇ俺が、勢いでテント越しの地面に頭半分めり込まさせられた。
「ちょっ!!!w、待て違う!!!w、誤解だ誤解!!!w。何もしてねぇ!!!w。てかする気もねぇ!!!w」
こんなのもう一発食らったら命がヤベェと、まだ拳を構えるビビに慌てて止めて弁明する。
「悪ぃ!!!w、俺寝相が悪くて起きたらここにいたんだ!!!w。おめぇがしっかりシャツ握ってたから起きれねぇで、仕方無く指離させてたんだよ!!w」
「………ほんとに…?w」
「〜〜〜〜!!www」
信じかけてるビビに思いきりコクコクと頷いた。
男が言い訳なんざみっともねぇ事この上ねぇが、言っとかねぇと俺の沽券と命に関わるw。
「ごっごめんなさいっ!w。私ったら疑っちゃってっ!w」
やっと完全に信じたらしく、詫びてきたビビが俺の殴られた箇所に手を当ててきた。
「大丈夫っ!?w。私ってば力一杯叩いちゃってっ!w」
「………w」
"叩いた"なんて生易しいもんじゃなかった拳に、頬に当ててくるビビの手を見る。
これに殴られて地面にめり込まされたなんざ信じられねぇ程、細ぇ白い手。
「………おめぇ…w、武道かなんかやってんのか…w」
「うん…w。護身術にちょっと…w」
(………w)
どうりでと拳の強さに納得して、それにしたってと納得しかねる。
「ごめんね?w。痛かったでしょ?w」
「………w。……大丈夫だから気にすんな…w」
結構ダメージがキてるが、焦りながら眉を下げて気遣ってくるビビにそんな事を言えねぇで。
人生初の女連れの旅行は、最後頬に食らった拳の強さと痛みが最大の思い出になった…。

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ