─不良と優等生─

□不良と優等生─友達─
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昼休み、弁当食った後便所から戻ると、優等生は自分の席で同級生の女達と話をしていた。
楽しそうに笑って喋ってる所を見ると、結構人懐こい性格らしい。
席に戻りてぇんだが、俺が戻るとあいつらは逃げていくだろうと、仕方無く屋上に行こうと後ろを向いた。
「でもあなた、よくあの人と喋れるわね」
「え?」
(、)
足を出しかけた時、その会話につい耳が行き、足を止めた。
「この人よ、この人」
教室に顔を向けると、指を指した手を上下に振り、俺の席を示す嬢ちゃんの一人。
「あんな怖そうな人と話せるなんて。私には絶対無理」
「私も。なんか何考えてるか解らないし、気を付けなさいよ?。油断させておいて襲うつもりなのかも知れないし、気に障る事言ったら殴られるかも知れないわよ?」
(…………)
なるほどそういう風に見られてる訳だと、危機感を持ってる嬢ちゃん達に感心する。
俺の横に来たのはいつも男だったから気にもしなかったが、今回は女だし、確かに不良で通ってる男が近くに来りゃあ、そう考えるのも納得だ。
ちぃと他にどういう悪ィ奴に思われてんのか楽しみで、続きを聞こうと、ドアに凭れて腕を組んだ。
「大丈夫。あの人はそんな悪い人じゃないから。確かに見た目は怖いけど、とても素直でいい人よ、ゾロさんは」
(…………)
聞こえたのは、優等生の声。
(…………)
その、まだ三時間隣に居ただけだってのに、俺の事を信用しまくってる優等生に驚いた。
驚いたってより、その警戒心の無さにちぃと呆れた。
「駄目よっ、そんな信用しちゃっ。あいつは不良なのよっ?。今まであの男に近付いて無事で済んだ相手はいないんだからっ。『緑髪の鮫』って、この学校だけじゃなく、他の学校でも有名なんだからっ」
(あ〜)
確かに有名だ。
俺の話を聞き付けて、他所のガッコからもわざわざ喧嘩売ってきやがるバカがいっから。
それノシてたら、いつの間にかそんなあだ名が付いていた。
意外に情報通じゃねぇか、お嬢ちゃん。
「………。わかった。じゃあ用心するわ。ありがとう」
(…………)
優等生が笑って返し、そこで話が終わっちまった事がちぃとつまらなかった。
もうちぃとてめぇの悪印象っぷりを聞きたかったってのに。
「私達、これからバレーボールするの。あなたも来ない?」
「あ、ごめん。私今から読みたい本があるから」
「そう?。じゃあまたね」
「うん。誘ってくれてありがとう」
(…………)
ドアの陰に立って凭れてたからか、教室から笑って出てった三人は俺に気付かねぇでそのまま廊下を走っていった。
「…………」
「あ、ゾロさん」
やっと座れると自分の席に戻って、日課の昼寝体勢に腕を組んだ俺に、本を読んでいたビビが顔を向けてきた。
「さっきの授業はどうでした?。ペンが進んでいたから大丈夫なのかなと思ってたんですけど、ゾロさんすぐに席を立ってしまったから」
「おう。国語と社会はわりと得意分野だ」
「そうですか。なら数学だけなんですね、苦手なのは」
「………俺にあんま話し掛けねぇ方がいいんじゃねぇのか?」
「え?」
ほんとは英語と理科も不得意なんだが、今はそれより言っとく必要がある事がある。
「友達無くすぞ」
「………。もしかしてさっきの話を…?」
「ああ。聞いてた」
「………。ごめんなさい」
俺の言葉に察しがついたのか訊いてきた優等生に返すと、ちぃと申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
「なんでおめぇが謝る。俺の事を言ってたのはあの三人だ。おめぇはむしろ俺を擁護してたじゃねぇか」
「…でも止められませんでした。彼女達があなたの事を悪く言っていた事を…」
「…………。…おめぇ、あの用心するって言葉、用心する気なんてねぇのに言っただろ」
「……どうして…」
『解った?』
優等生の顔はそう言っている。
思ってる事が顔に出やすい奴は、考えを読むのも簡単で楽だ。
この優等生は特に感情がストレートに顔に出ちまう質らしい。
「用心するなんていう言葉笑って言う奴がいるかよ。あの嬢ちゃん達は誤魔化せても、俺はそうはならねぇぜ」
「………」
「俺は敵が多くてな、そういう奴らを見分ける為に、人の言った事と表情を見合わせてから信じる質だ。だから大抵の嘘や誤魔化しは見抜ける自信がある」
不思議そうな優等生に、解った理由を言うと、優等生の目がいっぺん瞬(まばた)きして、その目蓋が僅かに伏せ気味に下りた。
「…ああ言わないと、彼女達が納得しないと思ったから」
「…………」
伏せていた目が言った後また俺に向いてきて。
邪心もねぇ、真っ直ぐな紫の目が俺を見上げている。
「私の事を心配して言ってくれている。だからそれが嬉しかったの。だからその彼女達の気持ちを無下にしない為には、あなたを悪者にするしかなかった。…ごめんなさい」
(…出来すぎだろ)
他人の事を考えすぎてる程考えて。
その上詫びてきやがった。
「…いいけどよ、別に。詫びねぇでも、悪もんにされるのは慣れてる」
その優等生の態度にちぃと可笑しさが湧いて。
「今もどっかで俺を勝手に悪もんにして、勝ち誇ってる奴もいるんだろうよ」
それを想像すると面白くて。
「……ふふっ」
優等生に笑えながら言うと、
ちぃと呆然とした顔をしていた優等生が、俺と同じように可笑しげに笑った。
「あ、そうだ」
「あん?」
「ずっと気になってたんですけど、ゾロさんのノートに書いてあるあの"正"の文字、あれなんの数ですか?」
「あ?。ああ、あれか。ありゃあ今までぶっ倒した奴の数だ」
「え……w」
いきなり話が変わって優等生が訊いてきた事に、その説明をしてやると、優等生の顔に多少の驚きと唖然とした表情が浮かんだ。
「この前丁度百冊越えてな。新調したばっかのノートだったが、まさかマジで勉強に使うようになるたぁ思わなかったぜ」
大学ノート本来の使い道に使われたてめぇのノートに可笑しさが湧き、その可笑しさに思わず笑えて喉が鳴る。
「……それだけ喧嘩を…?。どうしてそんな喧嘩をするの…?」
「男なら売られた喧嘩は買う。当然だろ」
「え…。売られた喧嘩…?」
尋ねるみてぇに訊いてきた優等生に笑いが止まり、答えると優等生がまた驚きを多少顔に浮かべた。
「そうだ、全部売られた喧嘩だ。俺はくだらねぇ喧嘩は売らねぇ。向こうが勝手に吹っ掛けてきやがるから、相手になるだけだ。当然全戦全勝だ。すげぇだろ」
「…………。ふふっ」
ちぃと自画自賛で笑うと、優等生も笑って。
「やっぱりゾロさんは怖い人じゃない」
「…………」
欠片も邪気のねぇ笑顔。
俺を前に笑う優等生に、変わった奴もいるもんだと、その顔見ながら机に頬杖をついた。
「……おめぇの名前…、確かビビだったよな」
「?。ええ、そうですけど…。?」
「俺、今までおめぇの事頭ん中で優等生って名付けてたが、改善させてもらうぜ」
「え…?」
「おめぇが教えてくれるんなら勉強も少しは楽しんで出来そうだ。これからもよろしく頼むぜ、ビビ」
頬杖付いたまま笑って差し出した手に、
「………。はいっ。私の方こそよろしくお願いしますっ」
ビビが手を差し出し、俺の手を握ってきた。
女と笑い合ったどころかまともに喋った事すら今まで無かったが、なんでかこいつとは気兼ねなく話せて笑える。
約六年この学校に居て、初めて、妙な優等生改めビビっつう、三つ年下の女友達が出来ちまった。

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