─原作サイド─

□傷
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濡れたハンカチを押さえながらMr.ブシドーを待っていると、しばらくの時間のあと、ドアが開いた。
「もう血もふやけただろ。剥がしてみろ」
「ん…」
包帯とガーゼ、塗り薬の入った容器、そして二枚のハンカチをテーブルに置いて、そのハンカチの一枚を水に濡らしながら言ってきたMr.ブシドーの言葉に、腕のハンカチを浮かせてみた。
濡らしたおかげで抵抗なく剥がれて。
「ほれ、拭け」
やっとジャケットも脱いで、渡された濡らしたハンカチで傷口を拭く。
「その傷残るぜ。同じ残ったとしても、しっかり医者に診せときゃ、残り方もマシだっただろうがな」
「いいの…、傷ぐらい残っても。もうどうせ傷跡なんて沢山残ってるし」
傷を拭く手にだけでもあちこちに残ってる傷跡。
バロックワークスに入ってスラッシャーを扱う練習をしていて切った傷もあるし、任務で負った傷もある。
子供の頃に遊んでて出来た傷もあるし、そんなだからもう傷跡の一つくらい残ってもなんて事ない。
「アラバスタを取り戻す為にはこれからも怪我をする事になると思う。むしろあのクロコダイルから取り戻すんだから、無傷でいられるなんて思ってもいない」
「…まぁな。だがあんまり気張るなよ。気が強張りゃあ筋肉も強張って固くなる。それだけ動きも固くなるからな、充分に動けねぇで余計な怪我を増やさねぇ為にも、体の力は抜け。ま、戦いになりゃあそんな事も考えてられねぇだろうがな」
「うん、でもありがとう。思い出せるかは解らないけど、ちゃんと覚えてはおくわ。…いたっ」
また戦いの心得を教えてくれたMr.ブシドーに返しながら今度は乾いたハンカチで水気を拭いて。
塗り薬を塗って、滲みた痛みに思わず手が止まった。
それでも我慢して薬を塗ってガーゼを被せる。
「腕貸せ」
「え、あ、い、いいわよ?⊃⊃、自分でやるから⊃⊃。包帯貸して⊃⊃」
いつの間にか包帯を手に持っていたMr.ブシドーの促しに、これ以上は手を焼かせまいと包帯を受け取る為に手を差し出した。
「…………」
その私の手を黙って見ながら差し出してきたMr.ブシドーの手から包帯を取って、腕に巻…こうとしても、やっぱり片手じゃ上手く巻けなくて。
「みろ。出来ねぇだろうが」
「ん…w。ぁ…」
四苦八苦してると聞こえたMr.ブシドーの声。
わざとやらせて私に納得させたのか、結果がこうなるのを解ってたみたいに言ったMr.ブシドーが私の手から包帯を取って。
「…ありがとう…」
そのまま無言で私の腕に包帯を巻き始めた、いつも通りの無愛想な態度でも手を貸してくれてるMr.ブシドーに、手を掛けさせる事には申し訳なさを感じるけど、それ以上反論はせずに、大人しくその厚意に甘んじた。
(…………)
いかにも怪我が多そうなMr.ブシドーは、包帯も巻き慣れているらしくて。
手慣れた手つきで綺麗に巻かれていく包帯。
「…ありがとう」
二股に裂いた包帯の端を腕に一巻きして括り終えたMr.ブシドーにお礼を言った。
「…お返しだ」
「え?」
屈めていた腰を戻して言ってきたMr.ブシドーの『お返し』の言葉に、一瞬なんの事か解らなくて。
「おめぇも俺の足手当てしただろ」
「あ…」
Mr.ブシドーの言葉に思い出した。
リトルガーデンでの戦いのあと、船に戻って彼の足の傷を縫った事。
「これがあの時の返しだ。だから礼は要らねぇ」
「…。ええ」
Mr.ブシドーはマイペースだけど、でも約束は守るとか、ちゃんとお礼は言うとか、そんな律儀さは持っていて。
今も言われた、そのなんとなくMr.ブシドーらしい言葉に、自然に笑みが浮かんで。
手当てのあとの片付けをするMr.ブシドーから目を腕の包帯に移す。
仲間の一人が巻いてくれたその包帯に、手を当てながら気持ちも温くなる。
(、)
道具を戻しに部屋を出て行ったMr.ブシドーに、そう言えばMr.ブシドーも私と同じく、水を飲みにこのキッチン部屋に来たのを思い出して。
手当てのお礼を言う代わりに、戻ってきたらすぐ飲めるように、コップに先にMr.ブシドーの水を注いだ。

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