─原作サイド─

□相談・教え
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「ところでおめぇ、なんか俺に用事があったんじゃねぇのか」
「あ。そうだ」
すっかり忘れていた本来の目的をMr.ブシドーの言葉で思い出して。
「…あのね…?。戦い方を…教えて欲しいの」
「戦い方…?」
「ええ…」
少し怪訝そうに片眉を傾げたMr.ブシドーの顔を見ながら気を引き締める。
さっき聞いた話に、ピアスの音さえ戦いに、強くなる事に利用するMr.ブシドーに、やっぱりこの相談に彼を選んでよかったと確信する。
「私は絶対にクロコダイルを倒す。その為に肉体的な力も鍛えなくちゃいけない。あなたはこの船で一番戦いに長けてる。だからあなたに戦い方を習っておきたいの」
「…王下七武海の一人を、女のおめぇが力で倒そうってのか?」
「……可笑しければ笑えばいいわ」
「…………」
「でも私は本気よ。英雄の名を語って人々を欺き、その偽りの英雄の姿を心底信じている人達を裏切り苦しめ、死にすら追いやっている…。私はそれが許せない…!」
「…………」
私の言葉を黙って聞いているMr.ブシドー。
その真剣さはいまいち感じられない顔を見据えながら、胸の中のクロコダイルへの怒りが声に表れている事を自覚しながら、Mr.ブシドーに言葉を続ける。
「…自分の力がどの程度なのかは、自分でもよく解ってる。それでも私は奴を許さない。たとえ倒すのが無理でも、致命傷になるくらいの一撃はあいつに見舞ってやりたい…!。国の人達の苦しみを…!、あいつに知らしめてやりたい…!!」
正座の膝の上に置いた握り拳に力が籠もり、手の平に爪が食い込む痛みが怒りを煽る。
今、こうしている間も奴は偽りの自分を尊ぶ国の人達を嘲笑っているんだと思うと、怒りで胸が張り裂けそうで。
「……仕方ねぇな」
「!!。教えてくれるのっ!?」
俯いて怒りと憤りに唇を噛み締めていると、頭の上から聞こえたMr.ブシドーの声と言葉にはっとして頭を上げた。
目が合ったMr.ブシドーは少し小首を傾げて、さっきより少しだけ真剣みを帯びた顔をしていて。
「ただし、武器を交える実践は無理だぜ」
「…………」
小首を傾げたまま、私にとっては期待を外された言葉を言ったMr.ブシドーが腕を組んだ。
「万が一にでもおめぇに怪我をさせる訳にはいかねぇ。おめぇは俺より弱ぇからな。俺の武器はおめぇの武器より遥かに凶器だし、俺は手加減ってのは苦手なんだ。力の釣り合わねぇ、てめぇより弱ぇ相手に釣り合う力加減には出来ねぇし、下手に釣り合わせようとして逆にそれが原因で目測誤って大怪我させねぇとも限らねぇからな」
「…………」
期待は外されたけれども、その理由は武器を使う強い武人にとってはごく当然の論理で。
Mr.ブシドーの言う通り、彼と私じゃ力の差がありすぎるから、その言葉は当然のものだと納得出来て。
「……ええ、解った。あなたがそう言うなら、実践は諦めるわ。その代わり戦い方を口で教えて。ちゃんと吸収して自分の力にするから」
「……いいだろう」
Mr.ブシドーを見据えながら言うと、どこか仕方なさげな、でも楽しみそうな笑みで笑って、背中を柵から離したMr.ブシドー。
「…なら先ずは基礎からだ。おめぇもある程度戦いは知ってるみてぇだが、一応聞いておけ。復習として聞いておいても損はねぇ」
「はい」
「いいか。戦いの基本は相手をよく見る事だ。相手の体の動き、目配せ、それを見てりゃ攻撃も、向こうが先に仕掛けてきた時の対処もし易くなる」
「────」
Mr.ブシドーの講義に無言で頷く。
バロックワークスでの、実戦で覚える戦い方の覚え方とは違う、口での講義。
でもだからこそ、今まで考えも及ばなかった戦い方の細かな気遣い、戦う事への気構え、そんなものも勉強出来る。
そのMr.ブシドーの講義を一語一句聞き漏らさず頭に記憶する。
その講義を聞きながら、彼がこの船にいてくれてよかったと思た。
この船のみんなは柔らかだから。
和やかだから、私の気持ちを解してくれる。
それはとても嬉しくて、でもそれだけじゃダメだとも思っている。
だから彼がいてくれてよかったと思える。
堅くて、彼の持つ研ぎ澄まされた刀と同じ、少し冷たくて鋭い心を持つ戦いのエキスパート。
その彼がいてくれて。
優しいみんなとは違う方向から私を支えてくれている。
私は本当にこの船に乗れてよかった。
みんなに出会えてよかった。
私の不注意でみんなを巻き込んでしまったのに、みんなはそんな事は気にもしていなくて。
怒ってくれる。
気にするなと怒ってくれる。
笑ってくれる。
だから…これ以上巻き込んじゃいけない。
私が、自分だけで終結させなくちゃいけない。
たとえ命を落としても。
反乱は止める。
たとえ死ぬ事になったとしても。
その時はクロコダイルを道連れに。
でもみんなは巻き込んじゃいけない。
私を支えてくれる人達。
私を仲間と言ってくれる人達。
だから死なせちゃいけない。
誰も。
一人でも。
クロコダイルの犠牲にはさせない。
その為にも、少しでも強く。
戦い方を知って、強く。
私一人でも戦えるように。
クロコダイルと張り合えるように。
私は強くならないと───。

「おーい、ナミさーん、ビビちゃーん、クソ野郎共。飯が出来たぜぇ」
「おー!!、メシメシぃ!!。行くぜ、カルー」
「グエー」
「ん。おし、なら今日はここまでだ」
「え…」
サンジさんの夕げの号令に釣りをしていたルフィさんがカルーと一緒にキッチンに走っていって。
Mr.ブシドーも講義を止めて顔をキッチンの方に向けて、また私の方を向いて立ち上がりかけたMr.ブシドーに、ふいに講義の頭を切り替えられて。
見上げるMr.ブシドーの顔と肩の後ろに広がる空はいつの間にか夕暮れになっていて。
講義を受けている内にかなりの時間が経っていた事に今気付いた。
でも私はまだ話を聞いていたいし、Mr.ブシドーの話も基礎を少し抜けた所で。
今日はこれで終わりと言ったMr.ブシドーの言葉に焦った私に、立ち上がりかけた姿勢のまま、Mr.ブシドーが私を見下ろしている。
「あんまり聞いても全部把握出来ねぇだろ?」
「そんな事ないわ!?w⊃⊃。大丈夫だから──」
「あんまり気張っても、疲れるだけだぜ?」
「────」
「まだまだアラバスタに着くまでにゃあ日数はあるだろ。そんな焦らねぇでも明日明後日も使って教えてやるよ」
「………ええ。そうね」
日数があるというのは国のみんなを救うまでの時間には長すぎる時間だけど、強くなる講義を受ける時間には有り余る時間で。
焦っても仕方ない。
この船にいる時間は、強くなる為に使う時間だと、逸る気持ちをそう抑えて。
立ち上がって遠くなったMr.ブシドーを見上げながら返事をした。
「他にもなんか訊きてぇ時は遠慮するな。構わねぇから寝てても起こせ。と…、くれぐれも言っとくが、間違ってももうルフィには頼むなよ。起きたら三途の川が目の前ってのは勘弁だ」
「………w。ええ…w。そうね…w」
今日の事で、ルフィさんに物事を頼むのは危険だと習ったし、Mr.ブシドーから起こしていい許可も下りたから、明日からは気兼ねせずにMr.ブシドーを起こす事が出来ると少し気が楽になった。
「色々教えてくれてありがとう、Mr.ブシドー。あなたがこの船にいてくれてよかった」
「………。そりゃどうも」
立ち上がってお礼の言葉を言うと、キッチンに足を向けていたMr.ブシドーが少し無表情で私を振り返り、口の片端を上げて返事を返してきて。
歩いていくMr.ブシドーの後ろ姿を見ながら足を進め、その背中から甲板の床に目を向けて、今Mr.ブシドーから受けた講義を頭の中で復習しながらMr.ブシドーについてキッチンに向かった。

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