─原作サイド─

□自覚
2ページ/2ページ

この手で出来る事。
俺に出来る事。
あいつの力になる事。
あいつの大事な国を取り戻し、あいつの本来の、腹からの喜びの顔を見る事。
それが今の俺の望み。
それだけが、今の俺の望み。
告げる気はねぇ。
いくら惚れていようと。
俺には大剣豪になる夢がある。
今はその夢だけ追うのが、その夢を掴む為に強くなれるものだけが俺に必要なもの。
今まで通り、強さだけを求めて、その為だけに生きて。
だから、いくら惚れていようと、あいつに言う気はねぇ。
俺が勝手に惚れただけ。
国の事で精一杯のあいつを、てめぇの勝手な感情に巻き込む気はねぇ。
「グエー…」
「ん…。よう、おめぇも居残りだったな。そう言や」
心配症の主人に俺を見張ってろと言われて、残ったカルー。
俺の足の傷が治るまで絶対に船から下ろすなと、忠実な僕に釘を刺してやがったあいつの姿を思い出す。
俺にもそう言って、約束までさせたのに。
俺はした約束は破らねぇってのに。
「信用ねぇな、全くよ。ん」
信じられてねぇ事に湧く妙な可笑しさに笑い、女部屋に入るにゃ後ろから押してもらわねぇと出入り口に体がつかえて一人じゃ入れねぇカルーに、俺も外で見張るかとベッドから尻を上げる。
カルーの背中に、持って出た毛布を被せて甲板に出る。
あいつらの姿はもう見えず、暇つぶしに酒飲みながら雪景色でも眺めるかねと葡萄酒持って船首デッキに上がって。
「ん…」
そこに二滴、落ちている血を見つけた。
あいつの傷から落ちた血。
(…………)
王女が躊躇いも無く土下座して。
ナミの命を救う為に。
ルフィに船長の心得を示す為に。
一国の王女が頭を床に着けた。
「…………」
土下座なんて行為はみっともねぇ、俺は絶対に御免な恥の行為だってのに、あいつのその姿は立派で。
この俺が胸を打たれた程立派で。
だがそのデッキに残る血は気に入らなかった。
あいつが撃たれた血。
あいつが流した、無用な血。
(…………)
デッキの汚れなんざ普段は気にはならねぇが、その血を残しておく事は気に入らねぇで。
血を流したあいつの姿に、何となく気に入らなさがモヤつく内心。
「…仕方ねぇな」
酒を無駄にするのは嫌だが、ちぃとだけだとてめぇを納得させて、寒風に乾き始めているその血を、酒で湿らせた雑巾で拭いた。

前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ