─学園ラブ─

□合い鍵
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「寒ーいw」
昨日はぬくかったのに、今日はまた寒さが戻って。
しばらく着ずに済んでた厚めのコートをまた着込んで家を出た。

「…あれ?」
Mr.ブシドーの部屋のベルを押しても中からMr.ブシドーの声はしてこなくて、ドアノブを回しても鍵が掛かってる。
「出掛けてるのかしら…」
これから行くって連絡もしなかったし、今日家に行く約束もしてなかったけど、この時間帯ならいつもMr.ブシドーは家にいるから来たんだけど。
今日作ってみたチーズケーキを一緒に食べようと思って持ってきたから、今日中に食べてほしいし、置いて帰るのも盗られたりしないか少し心配で。
(いつ帰ってくるかしら…)
六時からバイトだから、それまでに帰ってくるとは思うけど。
コンビニにお酒でも買いに行ってるのかなと思って、Mr.ブシドーが帰ってくるまで待ってる事にした。

(遅いなぁ…)
厚着してきたけどやっぱり寒くて、自分の吐く白い息の向こうに見える景色から腕時計に目を移す。
待ってから三十分経った。
六時まであと二時間。
(…………)
いつ帰ってくるか解らないし、もう帰ろうかとも思っても、もうすぐ帰ってくるかもしれないからもうちょっと待ってようって気持ちに足がその場に留まる。
Mr.ブシドーは携帯持ってないから、こういう時は連絡が出来ないから不便。
(…………)
「おいビビ!」
「、」
時計を見ながら、帰ろうかもうちょっと待ってようか考えてると、向こうからMr.ブシドーの声が聞こえて。
顔を向けたら、アパートの敷地入り口からMr.ブシドーが歩いてきていた。
「どこ行ってたの?。お酒買いに行ってたんじゃなかったの?」
階段を上ってくるMr.ブシドーの手には荷物はなくて、買い物に行ってたみたいでもないみたいで。
「うちに帰ってた。親父が家の雨漏り直すから手を貸せって連絡してきたんだ」
「あ…そうなんだ」
完全にお酒買いに行ってると思ってたから、実家に帰ってるって可能性を思い付かなかった。
「それよりいつから待ってたんだ、おめぇ」
「ぁ…うん、三十分くらい…。バイト行かなきゃいけないから六時までには帰ってくるとは思ってたけど、それまでにいつ帰ってくるか解らないし、帰ろうかとも思ったけど、チーズケーキ作ったの今日中に食べてほしかったし、置いて帰るのもちょっと心配だったから…」
「………」
私の返事を聞きながら玄関の鍵を開けたMr.ブシドーについて部屋に入る。
暖房機具も冷房機具もないMr.ブシドーの部屋の中は空気も冷えてて、でも風がある外よりはまだ寒さもマシだけど、コートは脱げない。
「ビビ」
「ん?」
チーズケーキと一緒に持ってきた紅茶を淹れる為にやかんに火をかけて、その火で手も暖めてると、壁に掛けてある洗い替えのズボンの方に行ってたMr.ブシドーが呼んできて。
振り向いた私に近付いてきた。
「ほれ。持ってろ」
「え?。、…」
差し出されてきた手に反射的に手を差し出したら、手の平に落とされたのは鍵。
「え…これって…」
「うちの合い鍵だ」
その鍵を見てからまたMr.ブシドーを見たら、Mr.ブシドーが私を見たまま言ってきた。
「居ねぇ時はそれで勝手に入って待ってろ。外で待ってるよりゃ寒さもマシだろ」
「………うん」
言ってくるMr.ブシドーから、手の平の上の鍵にまた視線を戻して、その鍵を手の中に包む。
合い鍵なんて重要な物を預かった事に責任感は感じてるけど。
でもなんだかそれだけの物をMr.ブシドーが預けてくるって事は、それだけ私は信頼されてるようにも思えて。
それに彼氏が家の合い鍵を渡してくれるのは彼女にとっては嬉しい事だって、彼氏がいる子達はみんな言ってるから、Mr.ブシドーから鍵を渡してもらえた事になんだか嬉しい気持ちもあって。
(大事にしなきゃ)
家の鍵だから失くしたりしたら大変だし、それにMr.ブシドーが預けてくれた物だから。
「あ、そうだ。ねぇ、ネックレスみたいにチェーンで首から下げとけば失わないわよね?」
「…。鍵っ子かよ」
頭に閃いた、失わない良い方法をMr.ブシドーに訊いたら、瞬間表情が消えたMr.ブシドーの顔が少し可笑しそうに笑った。
「まぁおめぇがそれでいいならそうすりゃいいがよ。ならまた明日にでもそのチェーン買っといてやるよ」
「いいの…?。あ、じゃあ明日の学校帰りに一緒に見に行きましょ?。チェーンのデザインも結構色々あるから、私の好きなデザインのチェーンがいいし、ちゃんとした切れないような丈夫なの買わなくちゃ」
「…そんなに持つのに気ぃ使うんなら無理に持たなくていいぜ」
「え?」
言ってきたMr.ブシドーの顔からは、それまで浮かんでた笑みが消えてて。
「おめぇの気の負担にさせる為に渡したんじゃねぇ。失くす事に気ぃ使うんなら返してくれ」
「…でもMr.ブシドー、携帯持つの無理でしょ…?」
「あ?。携帯?」
差し出されてきた手の平を見て、またMr.ブシドーを見上げて言ったら、疑問を顔に出したMr.ブシドー。
そのMr.ブシドーを見上げながら言う。
「ほんとは携帯の方がすぐに連絡がとれて便利だし。だから携帯持ってほしいんだけど」
「ぐ…w。そりゃ無理だ…w。今の生活状況で携帯代まで払うのはなかなかキツいからな…w」
気まずそうに表情を顰めるMr.ブシドーに、その答えが来るのもなんとなく解ってた。
「でしょ?。だからいいわよ、合い鍵で。確かにちょっと心配も感じるけど、持ってれば便利な時もあるだろうし」
携帯持ってれば外にいても連絡がとれるけど、Mr.ブシドーがアルバイトのお金だけで暮らしてる事解ってるから。
だから無理させてまで持ってもらう気もない。
「その代わりもし失くしちゃったりした時はゴメンね…?w。私結構おっちょこちょいだから、もしかしたらって事あるかも…w」
「…いいさ、そん時ゃまた合い鍵作りゃいいだけだ。もし悪意のある奴に拾われたとしても家まで解りゃしねぇし、使われたとしても金はいつも持ち歩いてる財布に入ってる分しかねぇからな、この家に金目のもんは冷蔵庫くらいしかねぇしよ」
「ん…」
私へのフォローなのか、でもほんとにMr.ブシドーの家には冷蔵庫くらいしか持って行かれそうなものはないから。
そう思ったら鍵を預かる事もちょっと安心出来て、丁度お湯も沸いたから、持ってきたチーズケーキを食べてもらう事にした。
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