─学園ラブ─

□服
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(…………)
服屋の前、百円で売り出されている服の前で、もう十分程悩んでいる。
バイトからの帰り、朝はまだ閉まっていた、普段通る服屋が服を安売りしていて。
そのワゴン売りの上、ハンガーに掛けられている白のワンピースとかって服。
水色と黄緑のビーズが襟元と裾に模様みてぇに軽くあしらわれたその清楚な服があいつに似合うと目に留まって足を止めて、どうしようか、生まれて初めて迷っている。
あいつに似合う服、だが俺が服なんざとも思って。
(…………)
だがこんなくだらねぇ事で迷っている事にてめぇがショボく思えて、買うなら買えと、
「おい、おばさん」
「!?w。なっ、なんだいっw⊃⊃」
店のおばさんに訊こうとして声掛けたら、俺の見た目にびびったおばさんが、身構えながら返事をした。
「ここにある服、…マジで百円でいいのか?」
「え?w、ああそうだよw。もう流行遅れだからねw。いつまでも置いててもしょうがないから、特別奉仕だw」
「……ならこれくれねぇか」
ハンガーに掛かった服をハンガーごと取って、オバサンに見せると、ふとオバサンの顔からびびりが抜けた。
「おや…彼女にかい?。ならもっと買ってっておやりよ」
(…………w)
今度はどっか僅かに驚いてるみてぇなオバサンの顔と返ってきた言葉のその中の、"彼女"っつう言葉になんかこそばゆさを感じた。
「いや…w、これだけでいいんだよw」
「そうかい?。なら百円ね」
百円と、一旦服を渡し、袋に入って返ってきた服を持って家に戻った。

「あ、おかえり」
「おう…。…ビビ」
「なに?」
家に帰って、晩飯の支度を始めていた冷蔵庫を覗くビビを呼ぶと、ビビが顔を向けてきた。
「ほれ」
「え?」
ビビの前に例の袋を出すと、ビビがその袋に目を向けて、袋の両端に手を付けて受け取った。
「なに?、これ」
「……服」
「え?。服?」
「………。おめぇに似合いそうだったからよ。買ってきた」
「わ…私に…?」
「そうだよ」
おめぇに渡してんだからおめぇにに決まってるってのに確認してくるビビの、驚愕を含んだちぃと呆然とした顔が俺を見ている。
「……気に入らなけりゃ無理に着なくていいぜ。ほぼタダみてぇな額の服だからよ」
「う…うん…w。………w」
俺に返事してから、手に持つ袋を目を向けたビビ。
俺が服を買ってきた事が意外なのか、俺がこいつに物を買ってきたのが意外なのか、開ける事も忘れているみてぇに、手に持つ袋を凝視している。
その反応は予測の範囲、むしろこういう反応しか返ってこねぇのは予想がついていた。
俺が初めて物をやるから、驚愕のこの反応が一番当然だろう。
だから俺もこいつが喜ぶ事を期待して買った訳じゃねぇ。
ただてめぇが、あの服を着たこいつが見たかった、その自己満足の為に買ってきただけだ。
未だ袋を見るビビから離れて、部屋の真ん中に腰を下ろす。
(…………。、)
しばらくして、後ろでガサリと袋が鳴って、開けているらしくガサガサと音が聞こえる。
「………」
(…………)
音が止まって、部屋の中が静かになった。
気に入ったのか、そうじゃねぇのか、言葉がねぇから解らねぇ。
「………どうだ」
振り向いて見ると、こっちに背中を向けて立つビビの向こうに、広げて持たれた服が見える。
「うん…//////。すごくきれいな服…//////」
抱きしめるみてぇな仕草で腕に服を掛けて、振り向いて言ってきたビビの頬は赤らんでいて。
照れているのは解った。
「……ありがとう…//////。Mr.ブシドー…//////」
「………。おう」
態度と声から聞き取れるのは、やっぱり照れ。
嬉しさやその類いの感情は読みとれねぇ。
だが服を気に入ってねぇワケでもねぇらしいのも、その態度で解った。
「…き…今日は夕飯の用意で汚れるといけないから…、明日…着てみていい…?//////」
「……ああ。好きにしろよ」
「うん…//////」
し慣れねぇ事をしたが、聞こえた返事は更に照れ臭げで。
その声音に、満更でもねぇ感じを感じているてめぇを否めなかった。

昨日はビビが照れ臭げで、あんま目も合わせず、会話もしねぇまま飯食って寝た。
「どう…?//////、Mr.ブシドー…//////」
「、。…………」
朝飯食ってる最中、先に食い終わって場所を離れてしばらくしてからのビビの声に、茶碗と箸を持ったまま振り向いて。
そこにゃあ、昨日俺がやった服を着て立っているビビが居た。
「ど…どう…?//////」
照れ臭げに赤い顔で再度訊いてきたビビ。
「ああ…、結構似合ってるな」
その問いに、振り向いているのは首がだりぃから体ごと横に向けて、ビビを見ながら思った本音を返した。
てめぇの選んだ服だから完璧にいいとも思えねぇが、だが昨日頭の中で想像していた以上にゃ似合っている。
「き…今日これ一日着てていい…のよね…?//////」
ビビの声が照れ臭さに大人しい。
「……着てりゃいいだろ。その為に買ってきたんだからよ」
恥から来てるもんだとは解るが、一々確認取ってきているビビに飯を食いながら返す。
「…サンジさんやナミさん達にも見せていい…?//////」
「………好きにすりゃいいだろ……」
わざわざ見せるもんでもねぇ。
その後で冷やかしやら受ける事も確実だろうが、ちぃとでも喜んではいるらしいビビの様子に、止める気は起こらなかった。
「…Mr.ブシドー……」
「、…?」
着た姿に納得はしたし、今日一日着てるらしいから今じっくり見ている事もねぇで、先に飯食っちまおうとビビに背中を向けておかずに箸を伸ばした時、ふいに両肩に両手が当てられてきた。
続いて胸が当たってんのか、背中に柔らけぇ膨らみと、後ろ首にビビの頬らしい感触が当たってきて。
「………ありがとう//////。大事に着るから…//////」
「………。…おう…//」
ちぃと照れ臭げな礼を言う声。
その声にちぃと照れくせぇような気がするのを自覚しながら、ちぃとやっぱやってよかったと感じてるてめぇが居た。


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