─学園ラブ─

□ホテル
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「ん……|||」
「?。どうした?」
大通りから横道に入って歩いていると、ふいに横を歩いていたビビが足を止めて。
振り向くと、俯いて口に手を当てるビビの顔色は僅かに青くなっていた。
「…気分悪い…|||」
「………w。だからあんな映画やめときゃよかったんだw」
今さっきまで映画館で見ていたゾンビ映画。
面白そうと笑うビビにやめとけと一応は言った。
だが、大丈夫だとさっさと金を払っちまったビビに、何となく後の事を想像出来たが、やむを得ず何も言わずに本館の中に入った。
が、案の定、始まって中盤まで行かねぇ辺りから既に手で顔を覆って指の隙間から見ていたような状態で。
後半は俺の肩に顔を付けて、手で耳を塞いで、殆ど映画なんざ見ていなかった。
「…てかおめぇ、映画殆ど見てなかったってのに、なんで気持ち悪くなってんだよ」
「だって音が気持ち悪くて…|||。ん……|||」
思い出して気持ち悪さが増したのか、顔色の悪さが増したビビに、どこかに座らせられる所がねぇか辺りを見回した。
「…………」
そこで目に入った、『ご休憩』の文字。
その下には『ご一泊』と書かれてある。
「…………」
その案内板は、考えねぇでも解る。
解りながら、全体を視界に入れた。
そこにゃあラブホテルと堂々と看板を掲げて、そういうホテル特有の雰囲気を醸し出して佇む建てもん。
「…………」
頭では瞬時の却下の一択。
だが、
(…………)
横のビビは気分悪げに、俺の腕に片手で掴まっている。
(…………。…………)
そのビビからホテルに顔を向けて、またビビに顔を戻した。
「……入るか」
「え…?」
一言訊いた俺に顔を向けてきたビビに、ビビを見たまま顔をホテルに向けて指すと、
「Σ!!?」
ビビの目が驚愕に見開いた。
「な…っ!!。ミッMr.ブシドー!?w」
明らかに俺の言動を誤解している、見損なった感の浮かびまくっている顔で、俺の腕を放して身を引いたビビ。
「バカ。勘違いするな、あそこで休むかって言ったんだ」
「え…」
「他に座れるような所がねぇ。そこならベッドもあるからよ。横にもなれるだろ」
「……//////」
親指を後ろのホテルに向けて言う俺を、顔を赤くしてビビが見てくる。
「…まぁあんなとこだからな。嫌な気もするだろうが、気分悪ぃなら休むならそこしかねぇ」
「…うん…//////…」
俺としてもこいつをあんないかがわしい所に入らせるのはちぃと気は進まねぇし、俺もどっちかと言やぁあんな所にゃ入りたくはねぇで。
「…//////…」
「…………」
どうするかビビに任せて返事を待つと、ビビがゆっくりと手を持ち上げて差し出してきた。
その手に『連れて入ってくれ』と、並んで同時に入るのは恥ずかしいらしい事を察して。
これも男の仕事かと、そのビビの手首を掴んで、顔を赤らめるビビを連れてホテルの門をくぐった。

「…………w」
中に入って、先ず目に入ったのはデケぇパネル。
どうやら付いている部屋の写真で好みの部屋を選んで、金と引き換えにその部屋の鍵を取るらしく。
使用している部屋も表示されているそのド派手な紅色のそのパネルの前で、その金額に部屋を選ぶ気も奪われる。
(……休憩に五千円だと…?w)
たかがヤり部屋に高すぎる。
一泊一万はまだ解る気もするが、それでなくとも俺達はマジで"休憩"しに使うだけだってのに。
(………っ…w)
こっちはバイトの給料だけで食費や生活がいっぱいで。
学費だって払わなけりゃならねぇから、ビビとこうして出掛ける時に出す金も、そのギリギリの生活費の中から何とか捻出して遣り繰りしてるってのに。
ヤる為だけに使う部屋ごときに五千円も取るってのか。
(…………#)
ぼったくりもいいとこだと、困惑を通り越して腹立ちすら湧いて。
(…………)
だが横のビビはさっきの動揺で具合の悪さが増したのか、益々顔が青さを増していて。
早く休ませねぇとと多少気が急く程、今にもしゃがみ込んじまいそうなくれぇに見える。
その状態はもう別の場所を探してるヒマも無さそうで。
(………っ、…くそっw)
仕方無く、ズボンのポケットからなけなしの五千円を引き出して、パネル横の札入れに入れた。
一番シンプルなデザインの部屋写真の表示されているパネルのボタンを押して、出てきた鍵を取って、ビビを連れてその部屋に向かった。

「ほれ、座ってろ」
ビビをベッドに座らせて、
「待ってろ。なんか飲むもん買ってくるからよ」
「…うん…w」
胃が気持ち悪ぃのか鳩尾(みぞおち)辺りに手を当てているビビを残して部屋を出た。
ホテルを出た所に二つ並んだ自販機を見つけて、胃がすっきりするだろうと、炭酸のサイダーを買ってまた戻る。
「ほれ、飲め」
「ありがとう…」
プルタブを開けて渡したサイダーを受け取ったビビが、缶を傾ける。
「ふぅ……」
「……大丈夫か…?」
「うん…」
炭酸でスッとしたのか、顔を上げて返事をしてきたビビの顔色は大分マシになっていて。
また缶を傾けたビビ。
それを見ながら、ちらりと横目に部屋を見回す。
「…………」
初めて入ったラブホテル。
マジでヤる為の部屋っつう感じで、ビビが今座るベッドもこれまで他の奴らがヤってたベッドだと思えて、何となく湧く嫌悪感に気分は悪ぃが。
(…………)
だが興味が湧かねぇって訳でも、疚(やま)しさが湧かねぇ訳でもねぇのは、俺だって男だからだ。
それでもその二つから意識して気を逸らす。
嫁に貰うまでは手は出さねぇと、てめぇに誓った。
口はこいつから付けてきたから妥協しちまったが、それ以上の妥協はしねぇ。
それがてめぇの信念だ。
「…大丈夫か」
「うん…。…ごめんね…?w⊃、Mr.ブシドーやめとけって言ったのに…w」
再度訊いた事に返してきた顔はもうすっかり元に戻っている。
そのちぃと申し訳なさげな顔に、安堵の感が湧いた。
「……もうしょうがねぇよ。見ちまったんだからよ」
軽く口の端を上げて、ビビの横に腰を下ろす。
「しっかり止めなかった俺も悪ぃんだ。おめぇだけが悪ぃんじゃねぇよ」
「…うん…」
気分の悪さも完全に抜けたらしいビビに安心して、足を組んだ俺の横でビビが笑った。
「はい。Mr.ブシドーも飲んで?」
「ん」
「私一人じゃ飲みきれないから。ビールじゃないから物足りないでしょうけど」
「………はっ」
冗談らしい事を言える余裕が出来たらしいビビと、ジュースの横にビールの自販機もあったってのに気にも留まらなかったてめぇに笑いが出て。
ビビが持って出しているサイダーを受け取って、炭酸の刺激を喉に流し込んだ。
「もうちぃと休んでいくぜ。せっかく五千円まで払ったんだからな」
「うん…。でも…」
せめて時間で元を取ろうと、サイダーをビビに返しながら言うと、ビビがそれを受け取りながら、顔をちぃと見回しさせた。
「ラブホテルってこんななってるのね…」
俺同様初めて入ったらしい(当然か)ラブホテルに、多少物珍しげに呟いたビビ。
「…………」
「…………」
二人で無言になって、正面のドアを見ていた目をビビに向けると、ビビも同時に俺に目を向けてきて。
「………わ…私達そういうのはまだ早いと思うのよね…//////⊃⊃」
「…解ってるよ…w」
俺が疚しい事を考えてると思ったのか、どこか俺に先手を打つみてぇに先に言ってきたビビ。
そのビビに、妙な疑いを掛けられている事がちぃと蟠りを生む。
まぁ付き合っている男とこんな所に入りゃ、その考えも当然だが。
「…………」
「でも…、ちょっと記念に…///」
「あ?」
何の記念だと言おうとしてビビに顔を向けると、
「…………」
口に当たった柔らけぇ感触。
いつもの感触。
こいつの口の。
「…………。……あのな…w」
「…ごめん…///。…でもMr.ブシドーと初めてホテル入った記念がしたかったから///」
「…………w。…………w」
そんな事を言われりゃ何も言えねぇで。
(…………w)
ただ、こんなとこでのこんな事は、男としちゃちぃと拷問だった…w。


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