─学園ラブ─

□方向音痴
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ルフィさん、サンジさんと話をしてて、いつの間にかその話の方向がMr.ブシドーの方向音痴の話題になった。
Mr.ブシドーとは小学生時代からのライバル、サンジさんの話によると、Mr.ブシドーはその子供の頃からもうある毎ある毎道に迷ってたみたいで。
果てはルフィさんを加えた三人で一緒に歩いてるうちにも、いつの間にかいなくなってたなんて話も出て。
ちょっと呆気にとられながらも疑問が湧いた。
(…Mr.ブシドーってほっといたらどこまでいくのかしら)

「ビビちゃんも物好きだなぁ…。あいつの方向音痴に付き合おうなんてよ」
「だってなんだか面白そうだもの」
サンジさんとルフィさんにも協力してもらって、出掛ける準備をして帽子を被った私に呆れた声で言ってくるサンジさんに、笑って返した。
昨日のデートも約束の場所で待っててもなかなか来なくて、三時間くらいしてやっと来たMr.ブシドーにどうしたの?wって心配して訊いたら、知らない内に隣町まで行ってたって言って。
知らない道で迷うのは誰にでもある事だって、自分の方向音痴を全く自覚していないMr.ブシドーに、唖然と声が出なかった。
知らない道に迷うのは仕方ないとして、それだけの方向音痴に自覚もなく、疑いもしないMr.ブシドーに、気付かなければどこまで行くんだろうと、一度そのMr.ブシドーに内緒でついて行ってみる事にした。

私が出掛ける支度をしてる間に、ルフィさんがMr.ブシドーに目的地と、そこへ行く理由を伝えたみたいで。
その目的地に印を付けた地図を片手に、Mr.ブシドーが家を出た。
それを見ながら、陰で様子を窺う私とサンジさん。
「…………」
最初の四つ角で足を止めて、地図を見ているMr.ブシドー。
その足が歩き出した。
「おいおいw。マリモの奴、いきなりから違うじゃねぇか…w」
「なんの為の地図なのかしら…w」
Mr.ブシドーが歩いていったのは、本来の方向と逆側。
地図を見ててそれな事にサンジさんと呆れながら、Mr.ブシドーと距離が開いたから、私も行く事にした。
「じゃあ行ってくるわね、サンジさん」
「ああ、いってらっしゃい。変な奴に気ぃ付けるんだぜ、ビビちゃん。ヤバい時は目的捨ててあいつに助けて貰うんだぜ?」
「ええ。解ってる」
「もしはぐれたら携帯で連絡しなよ?。マリモにも携帯持たせてあるし、GPSですぐに探して迎えに行くからさ」
「はい。じゃあ行ってきますっ」
「気を付けてなー、ビビ」
サンジさん、そしてルフィさんに手を振って、四つ角をMr.ブシドーの曲がった方に曲がった。
(えっ!?)
そんな時間も経ってないのに、Mr.ブシドーはかなり先の方を歩いていて。
(Mr.ブシドーって歩くの速いw)
道は間違ってるっていうのになんの躊躇いもなく、疑いもしてないみたいに歩いてる。
そのMr.ブシドーに気付かれないように走って追い掛けて、一定の距離を保ってMr.ブシドーの後をついていく。

(…ちょっと疲れたわね…w)
随分と歩いたところで腕時計を見ると、家を出て丁度三時間経っていて。
その間、Mr.ブシドーは立ち止まる事も、水分補給をする事もしないで、ずっと歩きっぱなし。
(…疲れないのかしら…w、Mr.ブシドー…w)
Mr.ブシドーが立ち止まってくれたらその間にジュースでも買えるけど、歩いているうちは私も立ち止まれない。
目を離したらはぐれるから。
見失ったら私まで迷子になる。
ちゃんと携帯も充電してきたけど、サンジさんの実家はレストランで、休みの日は家のお手伝いしなきゃいけないし、ルフィさんは今日は川釣りに行くって言ってたから、仕事や遊びの邪魔しちゃいけない。
(…おなかすいたな…w。あ)
空腹感を感じながらMr.ブシドーの後をついて行ってると急にMr.ブシドーが止まって。
慌ててすぐ近くにあった自動販売機の陰に隠れて、様子を窺った。
Mr.ブシドーは地図を見ている。
三時間も歩いて、今やっと。
(…………)
地図を見ながら首を傾げている。
辺りを見回し始めたMr.ブシドーに、ようやく迷っている事に気付いたらしいと、それに三時間もかかったMr.ブシドーに少し呆気に取られながらも、ある意味すごい人と少し感心もしたりして。
(……え?w)
地図を見ていたから正しい道に行くかと思ったら、Mr.ブシドーが歩き出したのは反対側。
(あっ!!w)
その歩き出したMr.ブシドーの足は大通りの横断歩道に出て。
しかも歩行者用の信号機は既に青のランプが点滅してる。
(大変!!w⊃⊃)
私とMr.ブシドーの今の距離は結構開いていて。
ここではぐれちゃまずいと、慌てて自動販売機の陰から駆け出し、歩行者用のランプが赤になった事で走り出したMr.ブシドーを追い掛けて横断歩道に出た。
(あっ!!w)
右通行と左通行の車道の間まできた時に車用の信号も赤になって。
随分前に渡り終わったMr.ブシドーは、また徒歩に戻ってスタスタと歩いていく。
(あああ…w)
みるみる距離が離れていくMr.ブシドーの後ろ姿に、早く信号変わってと、どんどん遠ざかっていってるMr.ブシドーの姿と信号を交互に見ながら気が焦る。
しばらくしてようやく信号が青になって、急いで駆け出した。
私が信号を待ってる間に、先にある右に曲がってる坂道を歩いていったMr.ブシドーの姿は、もうその角にある家のブロック塀でとっくに見えなくなってて、全力で走ってMr.ブシドーの後を追う。
どうか横道に入ったりしてませんようにとMr.ブシドーと神様に祈りながら走って角に向かうと、
(あっ!、いたっ!)
坂道のずっと先、歩くペースを全く落とさず歩いているMr.ブシドーの小さな姿が見えて。
見つかってよかったぁwと心底安心しながらそのMr.ブシドーの後を追った。
(ふぅ…w、はぁ…w)
やっとMr.ブシドーのすぐ側まで追い付いて、乱れた息を整える。
(…Mr.ブシドー歩くの早すぎ…w)
あの信号が変わるのに二分くらいだったのにあんなに離れて。
ここまでもそうだったように、今もちょっと歩くペースを落とせばすぐに距離が開く。
(…………)
そう考えると、Mr.ブシドーっていつもデートや下登校の時、私に合わせてくれてるんだと思った。
Mr.ブシドーは私より一つ頭背が高くて。
身長が違うと足の長さも違うから、歩幅も違って。
今一人で歩いてる彼のペースが、本来の彼のペース。
でもいつも二人で歩く時は、私と並んで歩いてる。
私が早足で歩く事はない。
普通に、むしろデートの時はいつもより遅いくらいのペースで歩いてるのに、Mr.ブシドーに置いて行かれる事はない。
(…………)
合わせてくれてるんだと思った。
私のペースに。
私や、そしてルフィさんやサンジさんのペースに合わせて。
あのマイペースなMr.ブシドーが、一緒に歩いてくれてるんだと思った。

(…喉渇いたな…w)
おなかもすいたし…。
さっき自動販売機に隠れた時に何か買えばよかったと後悔しながら、Mr.ブシドーの後を歩く。
(Mr.ブシドー、おなかすかないのかしら…)
Mr.ブシドーはどこに立ち寄る事もなく、(限りなく間違ってる道を)真っ直ぐに(本当なら一時間くらいで辿り着く)目的地を目指している。
(あ、柿)
進行方向、よその家の塀から柿の生ってる枝がはみ出していて。
(…………)
なんとなくMr.ブシドーの行動を眺めた。
(…………)
歩きながら柿の実を見てる。
(…取る…?、…………)
取らなかった。
欲しそうに、むしろ食べたそうに見てたけど。
おなかはすいてる筈なのに。
(…そう言えば…)
Mr.ブシドーがよその木に生ってるものを取った所を見た事はない。
見た目からのイメージじゃ、遠慮なく通りすがりにブチッといきそうな感じだけど。
それをした事がない。
前に二人で散歩に出た時、畑道にあったお地蔵様の横に生えてるグミの木からは実をもぎ取った事はあるけど。
それは周りが畑で、その木の所有者がいるのかも解らない状況に生ってるグミで。
でも民家に生えてる果物を取った事はない。
(…………)
見た目はあんな、なんか平気で悪い事をしそうな不良顔で。
でも中身は真面目でまともで。
悪い事はしない。
常識も良識も持ってる。
(…………)
遠くで見ていると、普段気付かない事も見えるんだと思いながら、Mr.ブシドーの後を歩いていく。
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