─学園ラブ─

□告白
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(あら?)
生徒会が終わって教室に戻ると、いつもはもう誰もいない教室の中、今日は一人残ってて。
「Mr.ブシドー」
いつも授業が終わればすぐに帰るMr.ブシドーが、今日はもうこんな時間なのにまだいる事に、どうしたのかしらと思いながら、ドアが開いた音がしたにも関わらず机に片肘を置いて頬杖ついて窓の外を見ている緑の後頭部に声を掛けた。
「どうしたの?、Mr.ブシドー。今日はまだ帰らないの?」
彼は留年組で、私より三つ年上の、本来ならもう卒業してる筈の歳なんだけど、勉強が頭に入らないらしく、授業についてこれなくて進級も出来ないまま、まだ二年で留まっていて。
「おう…。ちょっとな…」
そのMr.ブシドーが、少しだけこっちに顔を向けて返してきた。
見た目は不良っぽい、というか顔つきや緑の短髪、左耳の三連ピアスからして完全に不良にしか見えなくて。
上級生(とは言っても、彼からすれば年下なんだけど)からのケンカもよく受けて立ってるし、言葉遣いも粗野だけど、でも案外人柄はよくて、話し掛ければ普通に答えてくるし、わりと下級生の面倒見もよくて。
性格も律儀で真っ当だし、見た目からすれば割と話しやすい人ではある(最初は近付くのも気後れする程怖かったけど)。
(…………)
返ってきた返事の声は静かで穏やかだったけど。
(……なにか悩みでもあるのかしら……)
あまり悩むようなタイプには見えないし、普段、私より一つ上だけど一年から進級出来ないルフィさんや、Mr.ブシドーと同い年で、三年だけど同じく留年組のサンジさん、私を含めた四人グループで笑い合ったりケンカしたり、普通に過ごしてるけど。
「……どうしたの?」
「…………」
「なにか悩み事でもあるの?。私でよかったら相談に乗るけど…」
大した事は出来ないけど、話くらいなら聞けるし、口に出す事でMr.ブシドーの気が楽になるのならと、頬杖をついたまま私を見ているMr.ブシドーに少し体を屈めて目線を合わせながら訊いてみた。
「…いや。別にそんなじゃねぇ」
「…………」
その私に、頬から離した手を机に置いたMr.ブシドーが、そう言いながらまた頬杖をついて窓の方に顔を向けた。
言ってきた顔つきも声色も普段通りのMr.ブシドーのもので、別に隠してる様子も誤魔化してる顔つきでもなくて。
「…そう?。ならいいけど…」
だから少しまだ気にはなったけど、あまり深く追及するのもよくないかもと姿勢を戻した。
「もしなにか相談事があるなら遠慮しないで言ってきてね?。力になれるかは解らないけど、私に出来る事なら協力するから」
「…………」
顔を動かして私を目で見上げてきたMr.ブシドーのその目を、本当にすごい三白眼ね…と思いながら、帰る用意をしに、自分の机に向かった。
「……あの…Mr.ブシドー。まだ帰らない…?w」
帰る時は鍵を閉めて帰るのも学級委員の私の仕事なんだけど、帰ろうとする気配のないMr.ブシドーに少し困った。
彼が帰らないと鍵が閉められないから私も帰れないし。
廊下側一番上端の自分の机の場所から、窓際一番下隅の自分の席に座るMr.ブシドーに困惑しながら訊いた。
「………ビビ」
「あ…なに?」
窓の外を見ていたMr.ブシドーの小さな黒目だけが私に向いてきて、呼ばれた名前に、もしかして悩みの相談をしてくれるのかと、Mr.ブシドーに返事をした。
「………俺な…」
「…………」
「………おめぇが好きだ…」
「…………え?」
悩みの相談がくると思っていた頭に、そのMr.ブシドーの言葉はまるで不意打ちで。
言葉自体は耳に入って頭にも理解出来て、でもその言葉の意味が本当に頭に染み込むまでには、かなりの時間が経ったように思った。
そして言葉の意味を理解した時には、今度は少し信じられなくて、Mr.ブシドーに告白された、その事実と現実を受け止めて、頭が呆然とした。
「わ…私…?…」
「…………」
「………Mr.ブシドー…?…」
「…………。………」
信じられなさに、Mr.ブシドーに告白された信じられなさに、頭がうまく働かない私を見ていたMr.ブシドーの目がまた窓の外を見て。
「……迷惑か」
(あ……)
窓の外を見ながら、普段の声で訊いてきたMr.ブシドーの声に、呆然としていた頭が現実に戻された。
「め…迷惑…じゃない…けど……w⊃⊃」
突然の、思いもしてなかったMr.ブシドーの告白に動揺して。
頭がうまく働かなくて、どう返せばいいか、いい言葉が見つからない。
「あの…w⊃⊃、私…w⊃⊃、でも…w⊃⊃」
どう言えば、何を言えばいいか解らなくて、自分でも何を言ってるのか解らない事を口に出す。
正直、小学校中学校、そして校2になった今まで、結構な数の男子に告白されてきた。
下級生から同級生、上級生、それに何度かMr.ブシドーより強面のガラの悪い人達に強引にものにしようとされた事もある。
そんな危ない時は、いつもルフィさん達と一緒にMr.ブシドーも助けにきてくれたけど、下級生や上級生、それにただの同級生には断れても(それでも私はそういうの断るの苦手だから必死だったけど…w)、Mr.ブシドーの告白をどうするか困惑した。
Mr.ブシドーはグループ仲間の一人で、人柄も信頼出来て、勉強面では頼りないけど、一緒にいるのは楽しかった。
だから、どうしようか迷う。
Mr.ブシドーの事は仲間の一人としては好きだ。
男の人として見た事はなかったけど、Mr.ブシドーはいい人で。
嫌いじゃない。
それに下級生や上級生とは違う、よく知った仲の人。
だから迷う。
受けていいのか、悪いのか。
私はMr.ブシドーをそんな風に見た事はないし、自分に自信がある訳でもない。
それでも私を選んでくれた、よく知ってるMr.ブシドーだから。
迷う。
断るという選択肢のみにはならない。
「…ミ……Mr.ブシドー…w⊃⊃」
「…………」
「あの…w⊃⊃、…私…//w⊃⊃」
次第に顔が熱くなってくる。
男の人に告白される事にはまだ慣れない。
ちゃんと女の子に見られてるんだって解って、なんだか嬉しくもあって。
でも恥ずかしくて。
よく知ってる、気心の知れたMr.ブシドーだから余計に。
ずっと私をそんな風に見てたんだと思えて、なんだか恥ずかしい。
困惑するけど、でも少し嬉しい。
「えと…//w⊃⊃、あの…//w⊃⊃」
どう返していいか解らなくて言葉に困って。
さっきまで普通に見られていたMr.ブシドーの顔が、恥ずかしくて見られない。
「…………」
(ぁ……⊃⊃)
ガタリとイスが鳴った音に俯き気味になっていた顔を上げると、Mr.ブシドーが立ち上がっていて。
こっちに歩いてきたMr.ブシドーに、少し緊張で心臓がドキドキし始めた。
「…嫌ならそれでいい。おめぇが俺と今までのまま、仲間の一人で居てぇってのなら、俺はそれで辛抱する」
「…Mr.ブシドー……」
私の前に立って、いつもより少し真剣な顔つきで言ってきたMr.ブシドーに、その顔を見上げながら、いいんじゃないかと思った。
Mr.ブシドーは知らない相手じゃない。
よく知ってる、悪い所もあるけどいい所も沢山あって。
それを知ってるから、いいんじゃないかと思った。
「…私……」
ドキドキする。
緊張する。
受ける言葉を言うのは初めてだから。
「…Mr.ブシドーが私でいいなら……」
「…………」
見上げる私を見下ろしてくるMr.ブシドーの三白眼。
その上瞼が、私が声を出した瞬間ピクリと僅かに上がった。
(///⊃⊃)
その目と目を合わせてるのが、顔を見合わせてるのがなんだかすごく恥ずかしくなって。
「///⊃⊃。私も…いいから…//////⊃⊃」
俯いて返事を返した。
Mr.ブシドーからの言葉はなくて。
夕焼け色になってきた教室の中、顔が上げられないまま、ただMr.ブシドーと向き合っていた。


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