─薔薇─

□薔薇1
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『あっ!!、ちょっとすみませんっ!!』
(あ?)
朝、仕事に行く途中、いつもの道を通っていると、何処からか女の声が聞こえた。
聞こえたってより、頭ん中に直接聞こえたみてぇなその声に、誰かに呼ばれたかと、足を止めて辺りを見回しても人通りはねぇ。
「?」
『あっ!!、待って!!。ちょっと待ってください!!⊃⊃』
気のせいかと歩き出そうとした時、また焦ったような声がした。
「?、誰だ?」
もう一遍辺りを見回してみたが、やっぱり誰も居ねぇで。
「…w」
『ここです、ここ⊃⊃。あなたの足元です⊃⊃』
「?w」
ちぃと気味が悪くなりかけた時また声が聞こえ、声の通りに下を見ると、大型ゴミと共に捨てられている、何かの茎の根元だけが植わった植木鉢が目に入った。
(……まさか…なw)
これが喋ったなんざ…wと疑いながら、その植木鉢の植木を訝しみながら見下ろす。
『良かったぁ…。やっと私の声に気付いてくれる人が見つかった…。ずっとここを通る人に呼び掛けてたんですけど、誰も気付いてくれませんでしたから、どうしようかと思ってました』
「…………w」
一人(一株?)で喋ってやがる植木。
それを見ながら、それでも植木が喋っている現実が信じられねぇで、ちぃと混乱ぎみに植木の話を聞いていた。
「………w」
だが次第に現実を受け入れてくるにつれて、植木が喋っているって訳の解らねぇ状況にちぃと不気味さが湧き上がってきて、見なかった事にしようと仕事に向かおうとした。
『あっ!!w、どこ行くんですか!?w。待ってっ!!w、ちょっと待ってくださいっ!!w』
途端、物凄ぇ焦った声で俺を引き留めてくる植木の声。
それでもこれは夢だと、てめぇの頭がおかしくなった事を否定しながらその声を無視して歩く。
『ほんとに待って!!w、お願い!!w。私も連れていってください!!w。もうすぐゴミの収集車が来ちゃうんです!!w』
(…………)
切羽詰まった叫びを聞く耳に、向こうから独特の音楽を鳴らしながら近づいてくる車の音が入ってきた。
『Σああっ、来たっ!!w、あのお願いしますっ!!!w、助けてくださいっ!!!w』
あまりの悲痛な声に足を止められ振り向くと、丁度植木鉢の前に収集車が止まり、清掃員が車から降りてきた。
『Σきゃあっ!!!。いやっ!!!、離してっ!!!、誰か助けてっ!!!』
(っ…w)
鉢を掴まれて上げたあまりの悲鳴と助けを呼ぶ女声にさすがに後ろ髪を引かれ、思わず清掃員に駆け寄り植木鉢を引き取っていた。
『……た…助かった…www』
危機が去り、ぐったりと安堵と脱力の声を出す植木。
その声を聞きながら、咄嗟にした事たぁ言え、その喋る気色の悪ぃ植木を助けちまった自分の行動に後悔しながら、こいつをどうするかちぃと途方に暮れていた。

親方に遅刻の連絡を入れてから、植木鉢を小脇に抱え、近所の公園に来た。
そこのベンチに鉢を下ろす。
『ありがとうございました。助かりました。もうダメかと思いました』
(…………w)
植木に礼を言われて妙な気分になりながら、その横に弁当の入ったコンビニ袋と腰を下ろす。
植木はよく見ると棘が生えていて、植物のこたぁよく知らねぇ俺でも、その棘でこれがバラだって事が解った。
『私ビビと言います。あなたは?』
植物に自己紹介をされ、向こうが名乗ったならこっちも名乗らなけりゃ礼儀に反すると、ガキの頃に通っていた剣道場の先生の言葉を思い出して、
「…ゾロだ…」
生まれて初めて、植木にてめぇの名前を教えた。
『ゾロ…、じゃあゾロさんですね』
「………w」
俺の名を反芻する植木に、そろそろマジでこれ以上は関わるのやめようと立ち上がり、尻を払う。
コンビニ袋を手に取り、ビビと名乗ったバラの茎を見下ろした。
「…ここなら花好きの主婦がよく通るから、誰かが拾って育ててくれるだろ。それじゃあな」
『え…、あなたが育ててくれるんじゃ…』
背を向けながら別れを告げると、後ろから当てが外れたみてぇなバラの声がして。
そのバラを振り向いた。
「俺は植物なんざ育てた事はねぇからな。バラは特に難しいって言うだろ。どうせ枯らしちまうんだから、それなら植物育て慣れてるやつに拾ってもらう方がいいだろ」
『…そうですか。ではありがとうございました。お世話になりました』
納得したみてぇに丁寧に礼を言ったバラの苗木に、てめぇの役目はこれで済んだ気分で足を踏み出した。
「ちょっとあんた!!」
「あ?」
その場を離れようとした時、横から女の声が聞こえて。
俺に言ったのか?と、声のした横を向くと、向こうに小太りのおばさんが立っていた。
「そんな所にゴミを置きっぱなしにするんじゃないよ!!。出すならちゃんとゴミ置き場まで持っていきな!!」
「いや…こいつはゴミじゃ…w」
「ゴミじゃないのよ!!、そんな枯れた植木!!」
『Σ枯れ!?w』
(………w)
俺でもちぃとヒデぇと思えた言葉にショックを受けたみてぇなバラの声に、ちぃと同情を感じて。
このおばさんにこいつを任せようかとも思ったが、物言いからしてあんまり植木の事に詳しくはなさげで。

「……は〜…w」
『…あの…w、なにかすみません…w』
結局小脇に鉢を抱えて、家路を戻る事にした俺に、バラが詫びてきた。
「まぁおめぇが悪ぃわけじゃねぇからな…w。その代わり、もし枯らしても祟らねぇでくれよ…w」
もしかすりゃ訳の解らねぇもんが憑いてるのかもしれねぇから、成り行きで育てる事になっちまったバラに、先に断りを入れた。
『それなら大丈夫です。私がちゃんとバラの世話の仕方を教えますから』
「………w」
ほがらかな声で軽く言ってくるバラの言葉に、マジで枯らせずに育てられりゃいいがな…wと全く自信が湧かねぇままに、渋々バラを家のアパートに連れて(?)帰った。
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