─短編集─

□初恋─幼心─
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「わあ、珍しい花!」
(ん…)
竹刀の稽古の特訓中、塀の向こうからやけに威勢のいいキンキン声が聞こえて。
なんとなく竹刀を振ってた手を止めた。
「ねぇパパっ。この花なんて花っ?」
「う〜ん。パパもこんな花を見るのは初めてだなぁ…。何という花だろうか…」
「きれいな花〜。アラバスタにはこんな花ないわよね」
(…………)
話からして親子みてぇだけど、パパだのアラバスタだのと、なんか変な言葉を使ってるそのキンキン声の主を何となく見てみたくなって、修行をちょっとやめて見に行ってみた。
(…………)
向かいの家の椿を見ているでけぇオッサンと、その横。
この辺りじゃ見ねぇ水色の髪の毛を馬のしっぽみてぇに縛ったチビが、珍しげに椿の花を見上げている。
「なんだよ、お前。椿知らねぇのか」
「え?」
「ん?」
(Σ!!?//////)
父親らしいオッサンと振り向いたガキはクリッとした目の、ちょっと勝ち気な顔をしていて。
どこか生意気そうな顔だってのに、そのチビを見た瞬間、なんか知らねぇが心臓がドキッ!!として。
「あなたこの花の名前知ってるの?」
「え…//////。あ、お、おう///w」
訊いてきたチビに、なんでか顔が熱くなって、心臓もドキドキして。
「それは寒椿って花だ…///w。この村じゃ珍しくねぇ…///w」
「へぇ〜、ツバキかぁ…。ほんとにすごくきれい∨」
(…………///w)
椿を見上げてきれいきれいと言うチビに、頭ん中ではおめぇの方がきれいだなんて言葉が浮かんでて。
けどそんなみっともねぇ事言えねぇで、椿を見上げる水色の髪の毛を見ていた。
「君はこの辺に詳しいのかね?」
「え…?w。お、おうw。俺はこの村の生まれだからなw」
訊いてきた、姿は厳つい、でも顔つきはどっか優しい、柔らけぇ雰囲気のオッサンに、チビに感じていた心臓のドキドキが薄らいだ。
「ならこの辺りに宿は無いかね。私はこの娘のビビとこの辺りの国へ旅行に来たのだが、海が時化で今日は滞在しなければならなくなってしまったのだよ」
(ビビ…)
オッサンが言ったチビの名前は、その見た目に似合ったかわいい名前で。
「…この村に宿屋はねぇぞ。こんな田舎にわざわざ旅行に来る奴なんていねぇから」
その名前を何となく頭に留めながら、オッサンの質問に答えた。
「…そうか…、困ったな。宿泊の当ては無いし、船で休むにもあの波の揺れでは…」
(…………)
心底困っている風なオッサンと、そのオッサンを見上げるビビに、なんとかしてやりたくなって。
「…ならちょっと待ってろ。先生に泊まっていいか訊いてきてやる」
「先生?」
言った俺に、顎に手を当てて考え込んでいたオッサンが顔を向けてきた。
「この道場の師範代だ。先生はいい人だから泊めてくれるかもしれねぇ。ちょっと待ってろ」
「そうか?、それはありがたい。宜しく頼む」
「ありがとうっ」
「//////」
笑って礼を言ってきたビビに、また顔が熱くなる。
心臓もまたちょっとドキドキして、なんかその熱くなってる顔を見られるのがみっともねぇで、すぐに顔を逸らして道場に駆け込んだ。

「ゾロから話は聞きました。どうぞ、ご遠慮なさらずお泊まりください」
「ご親切傷み入ります。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
父親の真似をしてぺこりと頭を下げたビビ。
すましてるのとも違う素直な声と態度に、随分いいとこのチビな気がした。
「おやおや、随分礼儀正しいお嬢さんだ。ゾロ、お前も少し見習いなさいよ」
「………w。お、俺は人に頭を下げるのは嫌なんだっw」
「…全く…w。この娘さんの方が年下だろうに、お前という子は…w」
「うるせぇ!!w。俺は俺だ!!w。俺のやり方を決めるのも俺なんだ!!w。先生にだってとやかく言われたくねぇ!!w」
「…はぁ…w、全く…w」
「ははは、なかなかいい威勢を持った子だ。面構えもよい。それに困っている者を助けようとする優しさも持っている。ゾロ君と言ったね。今晩一晩だけの世話になるだろうが、うちのビビと仲良くしてやってくれ」
「ん…」
「えへへっ。よろしくっ」
「///。おう…///」
オッサンに紹介されたビビが笑って挨拶してきて。
その笑顔になんかいつもと勝手が違って上手く振る舞えねぇで、その一言しか返せなかった。

「すごーい!。どうやったらそんなに早く打ち込めるのっ!?」
「…//////。こ、これくれぇ出来て当然だっw。すごくなんかねぇよっw」
俺の竹刀の特訓を見ていたビビが上げた歓声に、なんだか照れ臭くて素直になれねぇ。
くいなとはまた違った気持ちの意地が湧いて、つい強がりが出ちまう。
「…ねぇ、Mr.ブシドー」
「あ?w」
いきなり変な呼び方されて、自分を呼ばれたのかも解らねぇけど、顔を向けた。
ビビは俺を真っ直ぐ見ていて。
「…なんだよw、その呼び方…w」
やっぱり俺の事を呼んでんのか?wと、その変な呼び方の理由を訊いた。
「だってMr.ブシドーは剣士なんでしょ?。すごく剣の稽古も真剣だし、そういうのを武士道って言うんでしょ?」
「………、ん…、まぁ…w」
ちょっとなんか違う気もするけども、ビビの笑って言う顔に間違いが正せねぇで。
俺も武士道っていうのがどんなものなのかよくは解らねぇから、ビビの言った事に取りあえず頷いた。
「だからあなたはMr.ブシドーよっ∨。Mr.ブシドーならいつかきっと、絶対に世界一強い剣士になれるわっ」
「…//////。あ、当たり前だろっ//////w。その為に鍛えてんだから//////w」
「うんっ!」
(//////)
世界一強い剣士。
強い剣士にはなりたかったけど、ビビのその言葉で"世界一"の剣士になるって夢が出来た。
世界一強い剣士、それになったらビビが喜んでくれる気がして。

ビビはまだ道場に居る。
オッサンも。
海の時化が収まらなくて、こんなに長く海が荒れる事は珍しいらしく、村の漁師達も海に出れねぇで困っている。
けど俺は嬉しい。
ビビが帰らずに済むから。
時化が収まらねぇ限り、ビビはずっとここに居るから。
俺の側に居てくれるから。
「Mr.ブシドーは毎日お稽古なのね」
「ああ…っ。当たり前だろ…っ」
「…飽きない?」
「飽きる筈ねぇだろ…っ」
俺の素振りを縁側に座って見物しながら訊いてくるビビに、竹刀を振りながら答える。
「………。ねぇ、私にもやらせてっ?」
「ああ?w」
その時ビビが言ってきて、思わず手を止めてビビに顔を向けたら、ビビが縁側から飛び降りて。
俺の横に走ってきた。
「じゃあ…」
「こう持つの?」
「…こうだよ…」
手を差し出してきたビビに竹刀を渡して、微妙に持ち方の違うビビの後ろから、ビビの竹刀を握る手を握った。
(//////)
柔らけぇ感触。
他人の手を触ったのも初めてで、そしてその初めて触ったビビの手はすごく柔らかくて。
(//////)
鼻先にあるビビの頭。
なんかすげぇいい匂いがする。
甘い、どっか花のにおいみてぇな、いい匂い。
(…//////)
「…どうしたの?、Mr.ブシドー」
「!!!////////////w」
いきなり振り向いてきたビビ。
そのでけぇ、紫がきれいな目と目が合って、心臓がドキィッと爆発したみてぇに感じた。
「なっ何でもねぇよ!!//////w⊃⊃。別に!!//////w⊃⊃」
「?。Mr.ブシドー顔真っ赤よ?。大丈夫?、熱でもあるんじゃないの?」
「!!!////////////」
体ごと振り向いてきたビビが手を持ち上げて、その、俺の手より小せぇ手が、俺のでこに触った。
(///////////)
柔らけぇ感触。
ぷにぷにしてて、ちょっと湿ってて、温くて。
気持ちいい感触。
「んー、熱はないみたいだけど…。大丈夫?w。今日は竹刀のお稽古やめたら?w⊃。ひどくなったら大変よ?w⊃」
「なっ何でもねぇよ別にっ!//////。ほらっ!//////、いいから始めるぞっ!//////」
心配してくるビビがなんか可愛くて、心配してくる事が嬉しくて、でも照れ臭ぇで。
その照れ臭くささに口振りが荒いで、なんでこんなに気分が焦るのか解らねぇまま、ちょっと強引にビビに素振りを教えた。
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