─短編集─

□UFOキャッチャー
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「あ、かわいい∨」
「あ?」
買いもん帰り、ゲーセンの前を通りかかった時、ビビが出した声。
足を止めたビビに足を止めると、ビビが横にあるガラスの張られた箱を見ていて。
そりゃあゲーセンにゃ必ずといっていい程設置してあるUFOキャッチャー。
そのガラスの中にゃあ、なんかぼた餅みてぇな猫の縫いぐるみが大量に入っていて。
(…………)
あれのどこがかわいいのかはさっぱり解らねぇが、ビビは欲しそうで。
こいつの何かを欲しがるような顔を見たのは初めてで。
(…………)
いかにも女子供向けの、女々しい機械。
だが。
(………欲しそうだよな…)
ビビはガラスに手を付けて、そのガラスの中の縫いぐるみを見ている。
(………w。仕方ねぇんだよ…っw)
そんなビビに、あの縫いぐるみを取ってやりたくなって。
女子供向けのもんで遊ぶ事への恥に思い切り抵抗を感じているてめぇに言い訳して、ズボンから財布を出した。
「Mr.ブシドー…?…」
「……欲しいんだろうが…//w」
「………。うん∨」
(………//。、………っ//w)
ビビは嬉しげで、だが気付くと周りを行き交っていた通行人は全員足を止めていて。
俺みてぇな見た目の野郎がこんな女子供の遊ぶもんをやろうとしているのが、そんなに物珍しいのか。
(…………く…///w)
いくらの俺でもこの視線の数はちぃと恥ずかしく、だがビビは欲しそうで。
期待の目で俺を見ている。
(っ……///w)
一旦口に出した事をやめるのは男じゃねぇ。
男に二言はねぇ。
(………くそ…っ///w)
こんなに注目浴びるとは思わなかった事に、言わなけりゃよかったと後悔の念に駆られるが。
このぼた餅猫を手に入れた時のビビの喜ぶ顔は見てぇ。
周りからの視線は更に増え、かなり体裁悪ぃが、てめぇの中ではこいつが喜ぶ姿とてめぇの恥が天秤に掛かっていて。
その天秤がこいつの笑顔にどうしても傾いちまう。
(──ええいっ!!w、さっさとやって失せりゃいいだけだ!!w)
腹を括って、周りから感じる好奇の視線に耐えながら、百円と書かれてある投入口に百円玉を入れて、書いてある手順通りにボタンを押す。
(…っ……w)
いっぺん目は操作に慣れねぇからあっさりしくじり、だが失敗は成功の基だと、今のはただの試しとして前向きに考える。
それに操作自体はシンプルで、ボタン二つを一度づつ押すだけでいい。
だがそのわりにゃあ難しい。
ボタンを離すタイミング。
掴むもんが微妙にズレる。
しかもこの掴むもん、力がねぇ。
狙いを付けてる奴は一つ頭出ていて、いい感じで取れそうだってのに、掴む気がねぇみてぇにあっさりと獲物を離しやがる。
簡単にはやらねぇって事か。
(…よし)
二度目の失敗はしねぇと、気合い入れて百円投入。
「…………」
ちぃとズレた所に掴むもんが下りた。
「…………」
もう百円投入。
かすって、だが惜しいとも言えねぇ外れ方。
「……───」
もう百円投入。
(───お)
いい感じに下りた。
(よしよ──。…………)
ぼた餅猫が引っぱり出だされて、落ちた。
(────)
緩すぎだ、掴むもん。
「────」
こうなりゃ意地。
ぜってぇ取る。
ビビの為に。
ぼた餅猫には負けねぇ。
機械との勝負。
しっかり掴め、掴むもん。
「――――」
気合いを入れて、百円投入。
(お)
またいい感じに下りた。
(よしよしよし)
いい感じに掴んだ。
持ち上がった。
「やったっ。いけそうっ、Mr.ブシドー∨」
「おう」
掴んだ後は自動らしく、ぼた餅猫を連れて、掴むもんがスタンバってた方と逆の方に動いていく。
「おっし!、入っ―――」
「あ………」
掴むもんが目標の透明の筒にぼた餅猫を離し。
筒の角に当たって落ちた。
………筒の外に。
「「―――――」」
もうちぃとで入りそうだったってのに……。
しっかり落とせよ#、掴むもん#。

「∨」
結局丸々千円使って、やっと一個取れた。
おまけに気が付きゃ見物人は更に増えていて。
「ありがとう∨、Mr.ブシドー∨」
(…………//)
それでもぼた餅猫に苦戦した分、ビビはそれだけ嬉しそうで。
縫いぐるみ抱き込んで上機嫌で笑うビビを見ていると、見物人に囲まれている恥もかき消えて。
掴むもんの緩さにヒートアップしていた俺のイラつきも、その笑顔に報われた。


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