─短編集─

□王女様の誕生日
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「島だー!!、冒険だー!!」
航海の途中でルフィが見付けた小せぇ島。
どっかの王族が別荘に使った後で捨てたのか、微妙に所々王族の生活道具が残って置き去りにされていて。
密林だってのに、何処と無く高貴なにおいが漂う島。
「ねぇ、今日はここで祝わない?」
「あ?、何をだ?」
先を歩くルフィ、チョッパー、ビビを見ながら歩いていると、ウソップの向こうを歩いていたナミが俺を見ながら言ってきて。
何を祝うんだと聞き返すと、
「何って、ビビの誕生日に決まってるじゃない」
ナミの口から、今日があいつの誕生日って事を、
「…………」
今聞いた。
あいつは何も言わなかったから。
何も知らねぇ。
何も用意してねぇ。
(……なんで言わねぇんだ)
言やぁ祝ってやったってのに。
何をやりゃあいいかは解らねぇが、言ってりゃなんか考えといてやったってのに。
「…………」
「あら?、ゾロ。あんたビビから聞いてないの?」
(…………)
だからか。
今日はビビを含めた全員がいつもの服を脱いで、いつもは着ねぇような洒落た服を着たのは。
訳も深く考えず、言われるままに着たが。
この為か。
(…………)
ナミは知っていた。
俺は知らなかった。
「本当に何も聞いてねぇのか?、ゾロ」
「言っても無駄だと思ったんじゃねぇか?。てめぇにレディーが喜ぶような誕生日祝いが出来る筈ねぇだろうしな」
「ああ゛…?#」
訊いてきたウソップに続いてのクソコックの虚仮にしてやがる物言いにムカリときて。
「はいはい、今日はビビの誕生日なんだから今日くらいはケンカしない」
(………ち…)
ナミの面倒げな仲裁のその言葉に怒気を殺がれ、代わりにズボンに手を入れる。
「ま、ビビの事だから、自分から誕生日だなんて言えなかったのよ。祝えって催促してるような事、あの子が自分から言えると思う?」
「……………」
確かに。
あいつはそんな押し付けがましい質じゃねぇ。
(…………)
…訊きゃあよかったとちぃと思った。
今もまだあいつは四六時中船に居るってのに。
てめぇのですらどうでもいい誕生日なんざそんなもん、思い付きもしなかった。
「じゃあ、あんたも私達と一緒に祝ってあげればいいじゃない∨。せっかく王族風の設備が残ってるんだから、今日はビビをこの島の一日王女様って事でお姫様ごっこしましょ∨」
「…………」

「……ほんとにいいの?」
密林の中央に湖の湧くそのほとりにちぃと豪華な寝屋(ねや)の名残りがあり、そこが今日一日のビビの玉座になった。
「ああ。今日はビビちゃんの誕生日だから、ビビちゃんはVIP待遇だ。今こうして俺達といてくれるビビちゃんに、俺達からのお礼代わりのプレゼントだよ∨」
(……………)
やっぱりあの野郎は口が上手ぇ。
あいつが気を使わねぇで、特別扱いされる事も気に病ませねぇ言い回し。
あのアホエロクソコックの、そういう実力"だけ"は認められる。

「……………」
ビビが昼寝しているうちに今日のメシを捕ろうと、湖の上を横切るでけぇヤシの葉の上で、見つけた三ツ又の銛を構えて獲物を待つ。
今日はあいつの誕生日。
だからでけぇ獲物を捕ってやる。
プレゼントは買ってねぇから、それがプレゼントの代わりだ。
「ん……」
(、。…なんだ、もう起きたのかよ…)
まだ何も捕れてねぇってのに。
「ふあぁあ……」
「やあお目覚めですか?、プリンセス∨」
(ん…、………#)
水から出てきたコック。
その手にはでけぇ鰻。
俺はまだ何も捕れてねぇってのに。
あんな野郎に先を越された…#。
「グエーーーッッ!!!#」
今日はビビは王女扱い。
平民の俺達は気安く近付けねぇ。
王女直属の護衛隊長カルーが、王女に近付く不届きもんを叱っている。
ざまぁみろ。

(…………)
結局捕れたのは小物の魚。
数は捕れたが、デカさじゃコックの鰻に負けた。
こんなもんじゃプレゼントにもなりゃしねぇ。
それがちぃと癪に障る。
「それじゃ今日はこの島で休みましょうか」
「「「「おーーーー!!!」」」」
王女は豪華な寝屋で布の寝床。
平民共は夜空の下、木の葉の寝床。
(ん……)
何となく寝れねぇで、寝屋に目を向けた。
カルーは寝ている。
今の王女の警護はがら空きで。
こいつらも寝ている。
静かな夜の密林に響き渡る連中のいびきと、一人静かなナミの寝息。
平民で起きてんのは俺一人。
ビビは日記を書いている。
月明かりで。
今日は月が近く、満月。
夜だってのに、明るい夜。
周りの木々や湖も岩もすべてがぼんやり白く浮かび上がって見えるその光景は、やけに幻想的に見えて。
月までがあいつを祝ってる気がした。
「…………」
「?。Mr.ブシドー…?」
体を起こしたら、ビビが気付いた。
「どうしたの?。まだ眠らないの?」
「…………」
まだ宵の口。
ちぃと誘ってみるかと思った。
あいつらが起きてこねぇ間に、ちぃとだけ。
あいつの誕生日。
ちぃと祝ってやろうかと。
「…………」
今日はこいつは王女だから。
実際王女なんだが。
今日は王女扱いだから。
喋りも敬語で。
「…………」
敬語……ってのは、だが使った事がねぇからどう言やいいのか解らねぇ。
……取り敢えず。
「……王女さん」
「…………」
「…………//w」
なんか改めて言うと妙な感じでw。
「……あ〜〜…w」
マジでどう言やいいかさっぱり解らねぇ…w。
「……え〜〜…w、…さ…散歩に誘っても……w」
言い慣れねぇ敬語。
しかも初めて女を連れ出す文句。
歯が浮いて、上手く言葉が出ねぇ。
「〜〜さ…散歩に誘っても、よろ…よろしい……です……か………?//w」
(〜〜〜〜///www)
口は気持ちと共に凄まじくこそばゆく、しかも敬語も文句もこれで合ってんのかすら解らねぇw。
「………、ふふふっ。はい、もちろん」
しばらく唖然と俺を見ていたビビがふいに可笑しげに笑い、膝に置いていた日記帳を枕の上に置いた。
「お手をお貸しいただけますか?、剣士様」
穏やかに、だがちぃと楽しんで笑うビビの敬語には口振り共に流石違和感は無く。
優雅な仕草で上げられた手を見ながら、やっぱりこれでも王女なんだなと片手を差し出す。
その手に軽く手を添えて、力も込めずに流麗な動作で立ち上がったビビ。
「…………」
誘ってはみたもんの、どこへ行きゃいいかは解らねぇで。
離した手をポケットに突っ込んで、どこへいくでもなく歩き出した俺の後ろを、王女がついてくる。
「ふふっ」
「?w」
ふいに後ろからした笑い声にビビを振り向くと、柔らけぇ笑みを浮かべたビビの顔が、月の明かりに浮かんで見えた。
「…なんだ――、w、…なんですか…w、急に…w」
「ぷっw」
いきなり喋るとやっぱり普通に喋っちまって。
それに気付いて、面倒くせぇが仕方無く言い直すと、更に可笑しげにビビが軽く噴き出した。
「くふふ…っw。ご…ごめんなさい…w⊃⊃。うん…、だってMr.ブシドーのおしゃれ服姿って初めて見たから」
(…ん……)
笑うのを抑え消して言ってきたビビの言葉に、てめぇの今の服装を意識する。
今、俺が着ているのは緑チェックのボタンシャツに、黄色のジーパン。
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