─短編集─

□魔女と魔獣とお姫様
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魔獣が姫に恋をした。
片時も離さない。
今日も甲板の定位置に座り込んで、姫のお腹を抱き締めて。
恋愛のれの字も知らない魔獣。
だからただ抱き締めるだけ。
日がな一日何もせず、ただ抱き締めてるだけ。
そんな魔獣に姫は少し困惑ぎみに、でも魔獣の好きにさせて、腕の中にいつもいる。
甲板で食事をとって、食べさせられている魔獣。
腕は姫を捕まえてるから、スプーンも使えない。
だから食べさせてもらってる。
「おいしい?、Mr.ブシドー」
「…おう」
訊くお姫様に、魔獣は少し照れくさそうに。
ぶっきらぼうに返事して。
でも姫を離さない。
離すのは夜。
ビビは私と部屋で寝て。
魔獣は甲板でトレーニング。
夜だけが、私がお姫様を独り占め出来る時間。
一つのベッドに一緒に入って、一つの枕を二人で使って。
ビビが眠るまで話をして。
眠ったビビの手を握って、私も目を瞑る。
手の中のビビの手は少しカサカサしている。
ささくれて、小さな傷痕が沢山ついていて。
自分の国を取り戻す為に、裏組織にエージェントとして潜入していたビビ。
お姫様なのに、こんなに手を傷だらけにして。
涙も唇と共に噛み締めて。
そんな強さに、恋をした。
魔獣と二人で恋をした。
強い、弱くて強いお姫様。
まだ16のお姫様。
だからみんなで護ろうと、この船の5人でそう決めた。

朝がきて、また独り占め。
魔獣が一人でお姫様を独り占め。
「いい加減にしなさいよ?、ゾロ。ビビはあんただけのものじゃないんだから」
「うるせぇな。こいつは俺が先に助けたんだ。だから俺のもんなんだよ」
「何言ってんのよ!。私がイガラムさんの話を受けてあんたに頼んだから一番になったんでしょ!?。大体あんたあの時迷惑がってたじゃないの!」
「あ、あのっw。ナミさんもMr.ブシドーもやめてっ?w」
魔獣の腕の中でビビが困ってる。
「Mr.ブシドーw、ごめんなさい、少しだけ離して?w」
「…………」
ビビが頼むと、渋々離した。
ビビの頼み事は何でも聞き入れる。
たとえ納得いかない事でも。
……でも……。
最後はどうするのかしら。
ゾロも。
そして…私も。
反乱を止めて、国を取り戻して。
ビビが国に残ると言った時、私達はどうするだろう。
ゾロはその手を離すんだろうか。
私はその言葉を受け入れるだろうか。
…受け入れられるだろうか…。
太陽のようなビビの笑顔。
その太陽がこの船から消える時、私達はどうするだろう。
「ナミさん」
「あ…」
目の前にビビの顔。
屈託のない表情。
心の中は不安と焦り、そして憂いで張り裂けそうな筈なのに。
それを押し殺して。
強い王女。
強いお姫様。
「どうしたの?、ナミさん」
「え…?」
「なにか用事…あったんじゃないの…?」
「あ…、うん…。…そうじゃないけど…」
ゾロがあんたを独り占めしてるから、奪いたかった。
「?。きゃっw」
急に目の前から沈んだビビ。
沈んだ先は、ゾロの膝の上。
「用がねぇなら返してもらうぜ」
「み…Mr.ブシドー…w」
ビビを抱いて睨んでくる目は、独占欲の浮かんだ目。
"敵"を見る、鋭い目。
「てめぇは夜に独占出来るだろうが」
「…………」
「昼間は俺のもんだ」
「……ええ、そうね」
「え?、え?w、ナミさん?w。Mr.ブシドー?w」
少し天然のお姫様は、私達の気持ちに気付かない。
ゾロが独り占めしたがる理由。
私が独り占めしたい理由。
同じ。
ビビが船を降りる事が解るから。
だから一緒にいたい。
一秒でも一緒にいたい。
ビビの側にいたい。
好きだから。
いつかいなくなるから。
だからいたい。
痛い。
ビビはお姫様だから。
王女様だから。
私もゾロも、気持ちを伝えられない。
海賊だから。
ゾロは庶民だから。
私は庶民で、女だから。
だから言えない。
言いたくても言えない。
だからビビは私達の気持ちを知らないまま船を降りる。
それがつらい。
胸が痛い。
もし想いを伝えたら。
魔獣と二人で想いを伝えたら。
あんたはどっちを選ぶだろう。
私を選んでくれる?。
そんな、刀を振るう事しか知らないバカより、私の方があんたを幸せに出来る。
女同士なんだから、あんたが喜んでくれるような事も考え付ける。
もし二人でフラれたとしても、それならおあいこだから、そのバカ剣士にざまぁみろって笑ってやれる。
でもやっぱり男としてその魔獣を選んでも、それならそれでも構わない。
夜は私が独占するから。
だから船から降りないで。
ずっと私達と一緒にいて。
…でも…。
その願いが一番口に出しちゃいけないものだって解ってる。
それを言ったら、あんたの笑顔が消えるから。
困らせて、悩ませて。
笑顔を消してしまう。
アラバスタを取り戻すまでの時間。
きっと、そんなに長くはない時間だから、その間だけでもあんたの笑顔を見ていたい。
心の中が涙の洪水で溢れそうでも、それでもあんたは私達に笑顔を見せてくれるから。
その笑顔もあんたの100%の笑顔じゃないのは解ってるけど、それでも笑ってくれるから。
その笑顔を見ていたいの。
「…ビビ」
「なに?、ナミさん」
魔獣に困惑しながらも、見上げてきてくれるお姫様。
「今日は一緒にお風呂入りましょ」
独占欲の強い魔獣の眉がピクリと動く。
自分には出来ない事を私が出来るから、悔しそうな怒りの目。
「ええ。また背中の洗いっこね」
楽しみそうに笑うビビ。
女の私にしか出来ない事。
女の私だから出来る事。
ビビを腕に抱く事しか出来ない魔獣を優越感の笑みで見下ろして、でもビビを奪い取れなかった悔しさを連れて部屋に戻った。


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