─短編集─

□天ぷら
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料理番組で天ぷら作っていて、それを見ていたビビが『やってみよう』と意気込んで準備を始めた。
しばらくして、パチパチと油の跳ねる音がし始めて、その音と、ここまで漂い始めた天ぷらのにおいの中、バーベルを背中に乗せて腕立てをする。
「…………、………」
しばらくしていると、音がふいに変わった。
それまで大人しくパチパチいってた音が、かなり激しくバチバチいい出して。
顔を上げると、ちぃと体を身構え気味で、顔も微妙に強ばらせて鍋を見ているビビが居た。
鍋からはかなり油跳ねが起こっていて、
(…………)
その油跳ねにびびってるみてぇなビビが、恐る恐るって様子で箸を鍋に伸ばした。
「あつっ!w」
(…………)
途端声を上げて手を引いたビビに、背中からバーベルを下ろしてビビに近付いた。
「…見せてみろ」
「あ…w、ん…w」
水道の流水で手を冷やしていたビビに言い、出してきた手を取って見ると、油が掛かったとおぼしい赤い一点が手の甲に残っている。
だが大した事がねぇ事を確認して手を離し、揚げ物作業に戻るビビを、その場で足を止めて見ていた。
「エビってすごく跳ねるのねw。ちゃんと尻尾の中の水も出したのにw」
「…………」
油の中のエビは真っ直ぐ、天ぷららしい形にはなっていて。
油跳ねも落ち着いてきていて、ビビが箸で取り出した。
「………w。っ!w」
「Σ!w」
次のエビを入れた瞬間、また凄まじいバチバチ音と油跳ねが起こって、入れた瞬間に飛び退いたビビと同時に俺までその油の弾け具合につい体を引いちまった。
「こ、こんなに緊張する料理初めてだわ…w」
「………w」
さっき音だけ聞いていても随分だったが、確かに実際見てみりゃこりゃあちぃと気構えちまう程、油跳ねがすげぇw。
"パンッ!!"
「Σきゃっ!!」
「Σw」
水が弾けたのか、破裂音と油がデカく弾けて、ビビが体をビクつかせて小せぇ悲鳴を上げた。
「ちょ…っw。エビ怖いw。こんなに跳ねるものなの?w。さっきのテレビじゃ全然跳ねてなかったのにw」
「…おめぇ、水気拭いたか?w」
「………あ…w」
テレビじゃエビを処理した後、ペーパータオルでしっかり水気を取ってたが、どうやらこいつはそれをし忘れたらしく。
やっぱりどっかで一つは抜ける相変わらずさにちぃと呆れながらも、そこがこいつの愛嬌部分だって事実も否めねぇ。
「「…………w」」
同時に見た、ボウルの中のエビ数匹。
もうしっかり衣の基に浸かっていて、今更水気はどうにも出来ねぇ。
「…もう揚げるしかないみたいw。…んっ、跳ねるのは最初だけだから、それさえ過ぎれば…w」
気合いを入れたビビが揚がったエビを取り出して、次のエビを、ちぃと恐る恐る入れる。
入れた瞬間から激しく跳ねだした油に鍋から一歩下がって、体を強ばらせて身構えて、まるで強敵と対峙しているみてぇな顔で鍋と対峙している。
「………w」
"パンッ!!"
「!!w。────w」
鍋の中の破裂する天ぷら、ってか油にびびるビビ。
「────w」
その、鍋を見ているビビの目が、横に立つ俺に向いてきた。
「………Mr.ブシドー…w、…代わって…くれな…い…?w。なんかパアンッて大破裂しそうで怖い…んだけど…w」
てめぇがびびるもんを俺に任せるのが気まずいのか、かなり俺の顔色を見ながら言ってくる。
「…………w」
そのビビの頼みに、だが正直俺もこの油跳ねにゃちぃと気が引けるが、確かにパアンとくりゃこいつがさっきの一点以上の火傷をするかも知れねぇ。
それに女のこいつでも度胸出して三匹揚げたんだから、男の俺が手を引いたんじゃ格好がつかねぇ。
「…なら箸貸せよw」
「ごめんねw、気を付けてね?w」
申し訳なさげなビビが渡してきた箸を受け取って、
「俺の後ろから見てろw。揚げ具合なんざ俺は解らねぇからよw」
「ん…w、解ったw」
言った俺に返してきたビビが俺の後ろに移動して、肩の横から顔を出す。
「んw、そろそろ大丈夫w。次入れてw」
「ん…w」
油の中のエビを出して、手に持つボウルのエビを箸で掴む。
「顔引っ込めとけよw」
「ええw」
ビビが俺の後ろに引っ込んだのを確認してから、掴んだエビを油の上に持って行く。
「Σ!!。Σうおっ!!w」
「Σ!!w。なにっ!?w」
丁度鍋の真上にエビを持って行った時、箸が滑って。
10センチ程の高さから油に飛び込んだエビの跳ね上げた油にびびって思わず声が出たその俺の声にビビが驚いたらしく。
「ちょっw、どうしたのっ!?w、大丈夫!?w」
様子を見ていなかったビビが後ろから焦りながら訊いてくる。
「な、何でもねぇw。ちぃと箸が滑っただけだ…w」
やっぱりバチバチと油を跳ね上げて揚がる天ぷらの勢いと、箸を滑らせた瞬間のびびり、そしてエビが油に落ちた時の油跳ねのでかさに、心臓がかなり動悸を起こしていて。
動揺しながらも、大事になってねぇ状況に安堵しながらビビに答えた。
「ほんとに気を付けてねw。いくらMr.ブシドーでも油掛かっちゃ危ないんだからw。あ…そろそろいいわよw。次入れて?w」
「ん…w」
俺と同じく動揺しながらも、その中にちぃと俺への心配の感を混ぜて言ってくるビビに、ちぃと満更でもねぇ感を感じながら、大人しくなってきた天ぷらを取り出して次を入れる。

「「いただきます」」
揚げ上がった、エビやらその他の具の天ぷらに箸を伸ばす。
「今度からはちゃんと拭くの忘れないようにしなくちゃねw。あんなに跳ねるなんて思わなかったw」
箸に挟んだエビの天ぷらを見ながら言うビビに、俺もあそこまで跳ねるとは思わなかったと、同じく箸に持ったエビの天ぷらを見ながら、さっきまでの揚げ物光景を思い出す。
「でもMr.ブシドーがあんなに気構えるなんて、ちょっと意外だったわ」
「………w。…悪ぃな//////#w。…仕方ねぇだろ//////#w」
(…くそ…っ//////#w)
マジでちぃと気構えていたのは事実で、天ぷらごときに多少でもびびっていた事が情けなさの恥になって。
それをこいつに見られていた事も重なって、格好悪さの恥も混じって憤りになる。
「でも…後ろにいろって言った時、結構頼もしかったし格好良く思えた//」
「…………」
「…ちょっと…、…惚れ直したかも…///⊃⊃」
「…ちょっとかよ」
照れ臭げに言うビビに、言葉にちぃと悪態を混ぜながらも満更でも無く。
「……Mr.ブシドー…///」
「あ?」
満更でもねぇままてめぇの海老天食おうとした時、ビビがぼそりと呼んできた。
「……あ〜…///」
「…………」
差し出してきたのは、新しく箸に取った海老天。
それを俺の前まで持ってきた。
「……お礼…///。代わりに揚げてくれた…///」
「…………」
『あと護ってくれたし…//////…』と、さっきより照れ臭げに俯き加減で上目で言ってくるビビ。
その様子に、
(……くく)
可笑しさすら湧いた。
「なら遠慮無く」
てめぇの食おうとしていた海老天を下ろして、ビビの持ってきている海老天に口を開ける。
「………。ほれ」
「、ん…。…あ〜…///」
ビビの離した海老を食いながら、てめぇの箸の海老をビビに向けると、多少気恥ずかしげながらにそれに食いついた。
「…ありがと…、Mr.ブシドー…//」
(…………)
護った事への礼か、代わりに揚げた事への礼か。
気恥ずかしげに俯き加減で言ってきた礼に、
「どういたしまして」
満足感に似た気分が顔に出たままその礼に返して、口ん中の海老天をビールと共に喉に流し込んだ。


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