─緑猫─

□記憶
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そろそろかなと思ってたら、今来た"あれ"に、おなかの不快感を感じながら、ソファーで少し痛むおなかをさすってると、
「…………」
(……?)
トイレから出てきたMr.ブシドーが、リビングの入り口で足を止めて私を見ているのに気付いた。
「…どうしたの?」
おなかの痛みにちょっと力が入らない声でMr.ブシドーに訊いたら、Mr.ブシドーがリビングに入ってきて。
(…………)
珍しく近寄ってきたMr.ブシドーが、私の頭の上で鼻を嗅ぎ始めた。
「………なに…?w」
なんかにおいでもするんだろうかと、自分の腕のにおいを嗅いでみても、別に特ににおいもしなくて。
「……怪我してんのか」
「…え……?w」
Mr.ブシドーに訊いたら、Mr.ブシドーが私を見下ろしながら言ってきた。
「ど…どうして…?w」
怪我なんてしてないのにそんな事を言ったMr.ブシドーに、ちょっと困惑気味に訊いた。
「血の臭いがする」
「…………」
言ってきた言葉に、やっぱり猫でも鼻は利くんだと少し感心した。
「う…ん、怪我…とはちょっと違うけど…w」
猫のMr.ブシドーに生理なんて言っても解るだろうかと思って、ちょっと曖昧な返事になった。
「……大丈夫なのか」
「え…?」
始めて気遣いの言葉を掛けてくれた事に少し驚いて。
「う、うんw。あのね?w、生理って言って――」
やっぱり少し詳しく言おうと、猫だけど男の人相手にするのは少し困惑するけど、月経の事を説明してみた。
けど、やっぱり解らないみたいで、眉を傾げたMr.ブシドー。
やっぱり解らないかと、困惑して、
「…え…と…w。うん…w、まぁようするにお腹の中の怪我みたいなものなのw。でも――」
「……大丈夫なのか…?」
「え……」
猫に理解させる難しさに苦笑しながら言った私の言葉の途中で、少し不安そうな顔をして言ってきたMr.ブシドーにまた少し驚いた。
Mr.ブシドーのこんな顔を見たのは初めてだったから。
「う、うん、大丈夫よ?w。女の子はみんななる事だからw」
あんまりその顔が不安そうで見慣れないからちょっと焦りながらフォローを入れると、そうかと一言言って部屋を出ていった。

「……Mr.ブシドー…」
昨日説明してから、またMr.ブシドーはいつも通りの様子に戻って。
下腹部の痛みと違和感に、ちょっと横になろうと、先に昼寝していたMr.ブシドーに近付いた。
「……一緒にお昼寝していい…?」
「…おう」
承諾が出て、Mr.ブシドーのお腹に頭を乗せて、しばらくしなかった一緒のお昼寝タイム。
(あ……)
久し振りのグルーミングが嬉しくて、下腹部の違和感も治まっていく気がした。

「ん……。あ!!w」
「んが……?…」
"あれ"特有の感覚に目が覚めたら何か冷たくて。
「大変!!w」
漏れちゃってる感じに慌てて替えのズボンとショーツを取って、トイレに駆け込んだ。
「…あ〜あ…w。失敗しちゃった…w」
トイレから出て、結構汚れちゃったズボンは水浸け、ショーツを捨てたごみ袋を外のゴミ箱に捨ててから、リビングに戻ると、
「―――――」
「?。Mr.ブシドー?。Σ//////」
なんかMr.ブシドーが体を起こした態勢のままカーペットを見ながら固まってるのが見えて、その目線の先には、ちょっとだけど血がカーペットにまで付いちゃっていた。
「ごっごめんなさいっ!!/////w、すぐ掃除するからっ!!//////w」
Mr.ブシドーのあまりのショックを受けた顔に、猫とはいえ、異性に月経の血液を見られたのが恥ずかしくて、取りあえず隠そうとテッシュを二、三枚抜いて慌てて駆け寄った。
「死ぬのか!!!?」
「えっ!?//////w」
急に私に顔を向けて、大きな声で言ってきたMr.ブシドーと言葉に、恥ずかしさに気を取られてたから少し驚いた。
「死ぬのか!!!?。生理ってのは!!!」
まるで叫ぶように必死な形相で訊いてくるMr.ブシドーに、どうしたのかと気にはなったけど、
「だ、大丈夫よっw。死んだりしないからっw」
先にテッシュで血を隠して、何故か必死になってるMr.ブシドーを宥めようと肩に手を置いた。
「―――――」
息を引きつらせて表情を強張らせるMr.ブシドーの様子は明らかにおかしくて。
こんな不安げに動揺するMr.ブシドーを見たのは初めてで、どうすればいいか解らなくて、取りあえず安心させる為にMr.ブシドーの頭を胸元に抱き締めた。
「大丈夫、大丈夫だから⊃。死んだりしないから。大丈夫だから⊃」
Mr.ブシドーの頭を抱き締めながら言い聞かせてると、次第にMr.ブシドーの呼吸が落ち着いてきて。
「―――――」
それでも胸元に抱いたMr.ブシドーの表情は固く、その眉間に苦しそうな皺が寄ったその表情は、怒っているような今にも泣きそうな辛そうな顔で。
「……Mr.ブシドー…?」
私の服の背中を両手で強く握り締めてきたMr.ブシドーに、腕の中の顔を見ると、私の胸に顔を隠すようにうずめてきた。
「……ガキの頃、…ダチが死んだ……」
「え……?」
ぼそりと聞こえたMr.ブシドーの声は低くて。
すごく苦しそうな声をしていた。
「……車かバイクにはねられたみてぇで…血溜まりん中で血塗れで倒れてた……。動かねぇで……、傷だらけで……、冷たくなってて……、……起きなかった……」
「…………」
泣いてる…。
心の中で……。
きっと私が怪我なんて説明したから……。
…Mr.ブシドーは不安になった…。
Mr.ブシドーを不安にさせた……。
悲しい事を思い出させてしまった……。
「………おめぇは死ぬな……」
「…………」
「………死ぬな……」
「…うん」
不安にさせてしまった事、つらい事を思い出させてしまった事が申し訳なくて。
きつく握りしめられている服、その握る強さに、Mr.ブシドーがどれ程その友達の死を悲しんでいるか、私の死を恐れているかが解るから。
「大丈夫……、死んだりしない…」
Mr.ブシドーの頭を撫でて、落ち着かせる。
グルーミング。
前に大猫に襲われた時、Mr.ブシドーがしてくれた。
猫が自分を落ち着かせる行為。
今度は私がそれをする。
私のせいでMr.ブシドーを不安にさせたから。
悲しい事を思い出させてしまったから。
そのお詫びも兼ねて、宥める為に何度も緑の短髪を、Mr.ブシドーが落ち着くまで撫で続けた。


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