─緑猫─

□怒り
1ページ/3ページ

Mr.ブシドーはマイペースだ。
Mr.ブシドーを拾ってもう三週間になるのに寄って来てもくれないし、表情も基本無表情。
口数も少ないし、口調も淡々としてるし。
ドライというかなんというか…。
(オス猫ってみんなこうなのかしら…w)
誰かに訊きたいけど、私の友達には犬を飼ってる子はいても、猫を飼ってる子は少なくて、その子たちが飼ってるのは、みんなメス猫w。
テレビでも、気まぐれな猫より従順な犬の方が圧倒的に飼われてる数が多いって言ってたし、現に近所でも飼われてるのは犬ばかり。
だからこんな時に『オス猫飼ってる友達がいればなぁ…』と思う。

(あ、そうだ。Mr.ブシドーのおやつ)
「あら。あんたも猫飼ってるの?」
「え?」
買い物途中で思い出して、ペットショップで猫用のジャーキーをカゴに入れてると、後ろから声を掛けられて。
振り向くと、私の後ろに明るいオレンジの髪の、私より少し年上っぽい女の人が立っていた。
「うちにも猫がいるのよ、オス猫。あんたのところは?。オス?、メス?」
活発そうな可愛い人で、気さくに訊いてくるその人の人当たりの良さそうな雰囲気に、私も気持ちが解されて。
「うちもオスです。日本猫だけどちょっと変わった毛色なんですけど」
「へー、そうなんだ。うちはフランス生まれなの。変な眉毛でね、ここが渦巻いてるのよ?」
Mr.ブシドーの種類と特徴を簡単に言うと、左の眉の端をクルクルとなぞって見せたその人の猫の眉を想像した。
「ぷふっ。ほんと。ちょっと変わってる」
「でしょ?」
つい笑った私に、彼女も笑って。
その場ですぐ意気投合してしまった。
その人はナミさんと言って、家も私の家のわりと近くみたいで。
そして、そのナミさんが私の初めてのオス猫友達になった。

「ねぇ、ナミさん」
「ん?」
買い物の帰り、オープンカフェでお茶に誘われて。
猫を飼っている人にずっと訊きたかった事を、ナミさんに訊いてみる事にした。
「ナミさんの家の猫って、どんな感じ?」
「うちの猫?」
「うん」
小首を傾げて言ったナミさんに頷いて、アイスソーダで一度喉を湿らせた。
「うちの猫、Mr.ブシドーって言うんだけど、その…なんて言うかすごいマイペースなの…。あんまり喋ってこないし、近寄ってもこないし。まぁ元が野良猫だからああなのかもしれないけど、他の人のオス猫ってどうなのかなぁって」
「そうねぇ。うちの猫は、一言で言うと女好きね」
「え…w。女好き…?w」
「ええそう」
頷いて、アイスティーに挿したストローをくわえたナミさんが、一口飲んでストローから口を離した。
「うちの猫、サンジくんって言うんだけど、すごい女好きでね。私の事も好きだーって言ってくるのに、他のかわいい子や、美人にも寄っていくのよね」
「…………w」
「まぁ性格はいいんだけどね。女好きだけどそれだけ紳士的で、女の子に尽くすタイプ。表情や愛情表現も豊かよー?。ちょっと鬱陶しいくらい」
「…………w」
誉めるのと突き落とすのをサラリとこなすナミさんに、ちょっと困惑してw。
「…そっかぁ…。そんな猫もいるのね…」
初めてオス猫を飼ってる人から直接聞いた猫の性格。
やっぱりオス猫にも色々いるんだと思った。
「ま、猫にも人間と一緒で個性があるからね。なんなら今から家に来てサンジくん見てみる?。実際に見たらどんなもんか解るでしょ」
「…いいの?」
「いいわよ、もちろん。だってもうあんたと私は友達なんだから∨」
「………。うんっ」
今日初めて知り合って、なのにもう家に招いてくれようとしてるナミさんに、本当に大らかな人だと思いながら、その言葉に甘える事にした。
「じゃあ、ちょっと待ってね」
言ったナミさんがポーチを手にとって、中から携帯を取り出した。
「あ、もしもし、サンジくん?。今から友達連れて帰るから、美味しいおやつ用意しといて。うん、それじゃあね」
「…………」
その、飼い猫に電話をかけているらしいナミさんに、むしろその電話の向こうのナミさんの飼い猫に驚いた。
「ん、ごめんね。じゃあ行き…、?。どうしたの?」
「…………」
イスから立ち上がりかけたナミさんが、ちょっと呆然としていた私に気付いて軽く首を傾げた。
「………ナミさんちの猫って、電話使えるの…?」
「使えるわよ?。てか普通猫でも電話くらい使うわよ?。何?。あんたんとこの猫使えないの?」
「…うん…w。Mr.ブシドーが使う機械は開けて閉めるだけの冷蔵庫くらい…w」
「………。そんな猫もいるのね…。うちはなんでも使えるわよ。料理も家事もするし。おかげで私何もしなくて楽なの」
「えっ。料理も家事も!?w」
ある意味感心したみたいに言ったナミさんの言ってきた言葉に驚いて。
「あんたんとこしない?」
「うん…w」
そのナミさんの問いに頷いた。
「……うちのMr.ブシドー何もしないから…w。する事と言ったら歯磨きとかグルーミングとか自分の身の回りの事を軽くやるだけで、お風呂にも自分からは入らないし…。あと自主的にしてる事と言えばトレーニングか、散歩ついでの縄張り回りか、昼寝してるか…w」
「………w。それほんとに典型的な野良猫の姿ね…w。そんなの飼ってて楽しい?w」
訊いてきたナミさんに、なんかMr.ブシドーが悪い所ばかりしかない猫だと思われた気がして。
そんな事はないから、
「で、でもいい所も沢山あるのよ!?⊃⊃。一緒に昼寝したら私もグルーミングしてくれるしっw。背の届かない所の物は取ってくれるしっw⊃⊃」
「………、あんたその猫の事好きなの?」
「え。なんで…」
慌ててMr.ブシドーのいい所も例に出して誤解を解こうとしたら、ナミさんが急に脈絡のない事を言ってきて。
確かに私はMr.ブシドーが好きだけど、なんで解ったのか不思議になって、ナミさんに訊き返した。
そしたらナミさんが頬杖をついて、私の顔を真っ直ぐ見てきて。
「だってそんなダメ猫にそこまで急にフォローの言葉は出ないでしょ。その焦りのフォローっぷりもだし、解るわよ。好きなんでしょ?、その猫の事」
「、。……うん…、好き…」
また来た問い掛けに、頷きながら返事をした。
私の大切な猫。
でもそれ以前に、Mr.ブシドー自身が好き。
体格がよくて、綺麗な緑の毛並みで、目付きは悪いけど、でも顔つきはどこか優しくて。
表情はあまり変えないけど、時々見せるさり気ない優しさと、笑みが好き。
大好き。

「おおおーーー!!!∨。なんて可憐なかわいこちゃん!!!∨∨∨」
「………w」
ナミさんの家に行って、出迎えに出てきた猫、サンジ…さんが私を見た瞬間、目をハート型にさせて。
その、Mr.ブシドーでは絶対に見られない姿に、ちょっと引いたw。
「ね…?w。だからほんとは女の子に会わせたくないんだけどね…w。こんな調子だから…w」
「………w」
ほんとにうちのMr.ブシドーと正反対のサンジさんの過剰過ぎるフレンドリーさと、ナミさんのちょっと呆れた感じの困惑した様子に、一目でサンジさんの性格が解った気がしたw。

「おいしい…」
「でしょ?」
サンジさんが出してくれたケーキを一口食べて、無意識に出た感想。
ケーキのデコレーションもおしゃれで、なんだか本職のパティシエが作ったみたいな見た目と味のケーキに、ちょっと呆然とする。
「お口に合ってよかったぜ∨。ナミさん、お茶のおかわりは?」
「ありがとう、お願いするわ」
ナミさんが下ろしたティーカップの中は空になっていて。
それにすぐ気付いたみたいに言ったサンジさんが、ティーポットから紅茶を注ぎ入れる。
「ね?。気も利くでしょ」
「うん…。すごい…」
Mr.ブシドーは言ったら気付くけど、言わなきゃ気付かない事がほとんどだし、気付いたからといってしてくれるかと言えばそうじゃなく、私が頼んで初めて動く事の方が多いから。
自分から、本当に『尽くす』という心構えで動いてるみたいなサンジさんに、本当に猫なのかと、ちょっと疑問も感じてしまった程。
そのサンジさんの出来た性格に、思わず内心でMr.ブシドーと比べてしまった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ