─緑猫─

□散歩
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「Mr.ブシドー、ごはんよー」
昼ご飯の用意が出来て、リビングでトレーニングしているMr.ブシドーを呼んだ。
「……おいしい?」
「…おう」
無表情で黙々と食べるMr.ブシドーに訊いて、返ってくる無表情での一言。
目線もお皿の料理から離れる事もなく、いつもこんな感じ。
何を作っても、どんなに手を掛けても、Mr.ブシドーは黙々と無表情で食べるだけ。
一っ事の感想も、表情すら変わらないから、ほぼ毎日こうやって訊く。
でも毎回返ってくる同じ態度での返事に、本当においしく思ってるのか、もしかしたら食べられればなんでもいいんじゃないのかと、そんな風にまで思えてしまう。

「ぐ〜〜〜……、ぐが〜〜〜……」
(……また寝てる)
寝るから寝子(猫)って聞いた事あるけど、本当にほぼ一日寝てるMr.ブシドー。
寝疲れるんじゃないかと思える程、時間があったら寝てる。
洗い物をしながら、リビングからこのキッチンにまで聞こえてくるいびきに、見に行かなくても様子が解る。
最初はうるさかったけど、もうあのいびきにも慣れた。
逆に静かに寝てると、死んでるんじゃないかと心配になっちゃうようにまでなってしまった。
「ぐ〜〜〜……。ぐが……。………」
(ん……)
「ん〜〜〜…っ。はぁ…」
洗い物が終わった同時にいびきが止まって。
リビングから聞こえた、伸びの声と、弛緩のため息。
「散歩行ってくる」
「……ねぇ」
キッチンの入り口を通り過ぎざまに言ったMr.ブシドーに、ちょっと今日はついて行ってみたくて、Mr.ブシドーを止めた。
散歩は猫にとっては縄張り見回りだって事はMr.ブシドーから聞いて知ってるけど、どんな所を回ってるのかは知らなくて。
「今日は私もついて行っていい?」
Mr.ブシドーの縄張りコースを一度見てみたくて訊いたら、
「…構わねぇが」
Mr.ブシドーが無表情な顔で返してきた。
「なに?。なにか問題でもあるの?」
語尾に『が』と付けて、立ち止まったまま私を見てるMr.ブシドーに首を傾げると、
「…ハードだぞ」
「え?」
返ってきた言葉に意味が解らなくて声が出た。
「来るなら来い」
「あっ!、待って⊃⊃」
ハードの意味の解説もなく玄関に向かったMr.ブシドーに、帽子だけ取って、玄関で待ってるMr.ブシドーに駆け寄った。

無言で歩くMr.ブシドーの横を歩きながら、まだ近所の域を歩いていく。
「そこ入るぞ」
「え?」
歩きながらMr.ブシドーが言ってきて、ポケットに入れてる両手の代わりに、しっぽを言ってるんだろう右側へと振った。
「こ…ここ?w」
Mr.ブシドーが足を止めた『そこ』とは、人の家の植木の垣根。
その高い生け垣には、丁度Mr.ブシドーが屈んで通れるくらいの穴が開いてる。
「行くぜ」
「あっw」
軽く言って、体を屈めて平然とその穴を潜るMr.ブシドー。
でもその先は人の家の庭。
よその人の家の敷地内に、無断で入る事になる。
「────w」
不法侵入…w。
Mr.ブシドーは猫だからいいけど(いや、あんまりよくないけど…w)、人間の私が入れば、完全に不法侵入になるw。
「何してんだ。早く来い」
「………w」
Mr.ブシドーは猫だから、人間が余所様の敷地に無断で入っちゃいけない事を知らないみたいで。
超えた生け垣の、その余所様の敷地の中から、私を呼んでくる。
「…ど…どうしてもここ通らなきゃダメなの…?w」
私の背丈より高い、Mr.ブシドーの短髪の先が辛うじて見えてるくらいの高さの生け垣の向こうにいるMr.ブシドーに訊いたら、
「この道が俺の縄張りルートだ」
生け垣の向こうから、シレッとした声が返ってくる。
「………w。だ…誰か家にいそう…?w」
ほんとは入っちゃいけないけど、マイペースなMr.ブシドーに道を変えてと言っても聞いてはくれないだろうし、今日一度だけだと、罪悪感に見舞われながらもMr.ブシドーに訊いた。
「いいや、この家は昼間は留守だからな。今は居ねぇ」
(ほ…w)
安心しちゃいけないんだろうけど、でも安堵の息を吐いて、周りを見回す。
誰も人がいない事を確認してから、
「お…お邪魔します…w」
罪悪感と緊張感にまみれながら、体を屈めて生け垣をくぐった。
「う゛〜〜〜〜っっ!!!」
(えっ!?)
中に入って、中で待ってたMr.ブシドーの前で姿勢を戻すと、横から聞こえた唸り声に(犬っ!?)とそっちを見た。
そこには家の庭に出るガラス戸の前、鎖に首輪を繋がれた大きな犬がいて。
敵意剥き出しの顔で、牙を剥いて、筋肉質な体を身構えながら私達を睨んでいる。
さっきまで、Mr.ブシドーが入ってても何も言わなかったのに。
だから犬がいるなんて思わなかった。
「てめえ!!!、うちの庭に何勝手に───」
「ああ゛?」
「Σひっ!!!」
Mr.ブシドーが眉間にしわを寄せて睨むと、ビクッと体を跳ね上げて顔を引きつらせた番犬さん。
その恐怖に捕らわれてるみたいに何も言わなくなった番犬さんに、Mr.ブシドーに顔を向けたら、Mr.ブシドーもまた私を見下ろしてきた。
「この道、縄張りルートにした時に、あの野郎が吠えついて向かってきやがったんだ。だから仕置きしてやった」
「…仕置きって…w」
番犬が自分の飼い主の家を守るのは当たり前でw。
悪いのは不法侵入しているMr.ブシドーの方なのに、それを解ってない、さすが我が道を行く『猫』…w。
「この俺に楯突こうってんだ。当然のバツだぜ」
「…………。(は…w)」
ニヤリと笑うMr.ブシドーを見ていて、まさかこの穴を開けたのもMr.ブシドーなんじゃ…wと、さっきくぐった後ろの生け垣の穴を振り向き見ながら気が気じゃなくなった。
「ほれ行くぞ」
「あw」
それを訊こうと思ったら、その前にMr.ブシドーが歩き出して。
「ご、ごめんないっw⊃⊃。ちょっと通らせてもらいますっw⊃⊃」
何も言えなくなってる番犬さんに頭を下げて、今度、Mr.ブシドーが色々迷惑掛けてるんだろうこの家にお詫びしに来なきゃwと考えながら、スタスタと歩いていくMr.ブシドーの後を追った。
(ん…)
Mr.ブシドーが向かっていく突き当たりは今度はさっきの生け垣より高いコンクリートのブロック塀で。
「あ…w」
その塀にジャンプでひょいと跳び乗ったMr.ブシドー。
さすが猫と感心しながらも、やっぱり困惑する。
こんな高い塀、私も上るの…?wと。
「ん…っw」
運動神経には自信あるけど、その運動神経をこんな所で使うなんてwと思いながら、さっきの生け垣より高い塀に、ジャンプして縁に手を掛けた。
「わ…っw」
そしたらMr.ブシドーが私の片手首を掴んできて。
ひょいと片腕で私を引き上げて、塀の上に立たされた。
「あ、ありがとう//」
マイペースなのに、こういう時に優しいMr.ブシドーに嬉しさと照れくささを感じながらお礼を言うと、
「…おめぇはマジで軽ぃな。うめぇ飯作ってんだから、もっとしっかり食え」
「え…?…」
私を見下ろしながら言ってきた事には、私の作る料理の感想が混じっていた。
「…ご飯…、おいしいと思ってくれてるの…?…」
Mr.ブシドーの言ってきた事に呆然としながら、勝手に口が訊いていた。
「…だからいつもうめぇって言ってるじゃねぇか」
「…………」
「ほれ行くぜ。まだ回るとこは多いんだからよ」
「あ…。…うん…//////」
はっきりMr.ブシドーの口からご飯の感想を聞けて、嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちに顔が熱くなりながら、背中を向けて歩き出したMr.ブシドーのその背中を見るのもなんか恥ずかしいまま、塀の一本道をついていった。
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