お題部屋

□眠れない夜にみる時計
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"コツッ…コツッ…コツッ…"
(…………)
暗闇の中、うっすらと浮かぶ天井を眺めながら、ベッドの中で時計の秒針の音を聞く。
ちぃと首を動かして、壁に掛かっている時計を見る。
二時一八分。
ベッドに入って、まだ一時間しか経ってねぇ。
やっと一時間経ったと言うべきか。
(…………)
また天井に視界を移して、目を瞑る。
"コツッ…コツッ…コツッ…"
今日はやけに耳につく時計の音。
目を瞑っている事も何故か続けていられねぇで。
開いた目に入る、暗ぇ天井。
(…………)
寝返りを打つ。
目を瞑る。
(…………)
"コツッ…コツッ…コツッ…"
(…………)
寝れなさに目を開く。
何故か、勝手にとも言えるように開けていた。
寝苦しいわけでもねぇのに、無意識に寝返りを打って上を向く。
(…………)
静まり返った部屋の中、時計の音だけを聞きながら、どうしようもねぇ寝れなさと対峙する。
疲れてねぇわけじゃねぇ。
昼寝をしすぎたわけでもねぇ。
ただ寝られねぇ。
眠さが起きねぇ。
(…………)
また寝返って目を瞑る。
(…………)
無心になって。
頭を空っぽにして。
眠気が来るのを待つ。
(…………)
開けたくなる目を閉じ続けて。
耳に入ってくる時計の音に意識を向けねぇようにしながら。
眠気が来るのを待つ。
(…………駄目か…)
目を開ける。
それしか出来ねぇ。
それしかねぇ。
(………くそ…。…どうなってんだ……)
こんなこたぁ初めてだ。
目が冴えて寝られねぇ。
意識が冴えて。
寝られねぇ。
(…………)
時計を見る。
まだ十分しか経ってねぇ。
(…………)
逆側に寝返りを打つ。
(…………)
目に入った、シーツの上の携帯。
(…………)
何となく手に取る。
サブディスプレイの時間を出すと、時計と同じ時刻。
(…………。─ん…っ)
開いた携帯。
真っ白な待ち受けの画面の眩しさに、目蓋が痛くなる。
思わず目を細めて、眩しさに目が慣れるのを待つ。
(…………)
多少無理をして目を開き、まだちぃと眩しさに慣れねぇ目で画面を見る。
ボタンを押して、出すのはあいつのアドレス。
声が聞きたくなった。
寝られねぇなら、あいつと喋って時間を潰して。
(…………)
だが時間は夜中。
あいつは寝ている時間。
電話でもメールでも、起こすわけにはいかねぇ。
あいつの声を聞きてぇが、それも出来ねぇ。
(…………)
アドレスを閉じて、携帯を閉めて。
また暗闇に戻る視界と、眩しさが消えて無意識に緩む気。
(…………)
また携帯を開ける。
意味も無く。
ただ、眩しくとも明かりが見ていてぇ気になって。
(…………)
何となく、またアドレスを出す。
さっきも見ていた、電話番号の上に出ている『ビビ』の名前。
(…………)
今頃あいつは寝てるだろう。
泊まった日はいつも見せている安らいだ寝顔で。
(…………)
思い出して頭に浮かぶその寝顔を、今見てぇと思う。
(…………)
その、頭にある寝顔に、余計にボタンを押す気が遠退いていく。
あの寝顔を起こせねぇ。
寝れねぇ俺に巻き込ませる事は出来ねぇ。
したくねぇ。
(…………)
諦める為にアドレスを閉じて、携帯を閉じる。
シーツの上に携帯を置いて、暗闇の中で寝返りを打ち、携帯に背を向ける。
目を瞑って、頭を空っぽにして。
時計の音を聞きながら、余計に冴えちまった眠気を待って。
"コツッ…コツッ…コツッ…"
(…………)
目を開けた。
後ろで鳴る、バイブの音。
二回鳴って止まった音に、寝返りを打って携帯を手に取る。
開いた画面に出ている、『着信あり』の知らせ。
間違い電話だと解りながら、着信履歴を見ると、『ビビ』の名前と電話番号。
(…………)
こんな時間にビビから電話が来た事に、体を起こして履歴からビビに電話をかけた。
「…………、ビビ?」
呼び出し音が二回目に鳴りかけた時、通話が繋がった。
『…Mr.ブシドー…?…』
「どうした。何かあったのか」
俺を起こす事になる時間に電話をかけてきた事に、何かあったのか気になって。
『ごめん…起こしたでしょ…?…⊃。別に何かあったわけじゃないんだけど…⊃』
「………、…いや、今日はなんか寝れなくてよ。ずっと起きてた…」
『そうなの…?…。ならよかった…』
返ってきた声は俺を起こしたわけじゃねぇ事に安心したらしい声で。
『…私も今日は眠れなくて……。Mr.ブシドーの声が聞きたくなって……』
(…………)
あいつも今日は寝れねぇで。
俺と同じ事を考えていた。
俺と同じく。
『起こしちゃいけないとは考えてたけど、Mr.ブシドーは携帯バイブにしてるし…。起こしたくなかったけど、すぐに切れば起こさずに済むかなって…。…でも半分は起きても欲しくて…』
言ってくるのは、こいつらしい気遣い。
そして俺を起こすかもしれねぇでも俺の声を聞きたかったっつうビビの気持ちに気が緩んだ。
俺と同じ事をこいつも考えていた事の嬉しさに。
『…ほんとに起こしてない…?。大丈夫…?⊃』
「心配ねぇよ。寝起きの声じゃねぇだろ」
『うん…。そうね』
なんかあって電話してきたわけじゃねぇ事に安心して、起こしている体をまたベッドに倒す。
視界に入る天井。
さっきまでも見ていた、暗ぇ天井。
今も全く同じ視界だってのに、耳から入ってくるビビの声と、ビビと話している事だけで、その暗さが変わって感じる。
「早く寝ねぇと明日学校で授業中に寝る事になるぜ」
『だって眠れないんだもの…。Mr.ブシドーだって明日仕事中に居眠りしちゃうわよ…?。私は先生に怒られるか、みんなに笑われるだけだけど、Mr.ブシドーは親方さんに怒られるだけならいいけど、怪我でもしたら危ないんだから…』
「そんなヘマはしねぇよ。余計な心配すんな」
相変わらずの心配性を笑いながら、それでも俺の心配をしてくる事にも気分が緩んで笑えちまう。
(、)
ビビと話していて、何となく目に入れた時計。
まだあれから二十分も経ってねぇ。
だが、さっきまでは早く過ぎろと思っていた、朝になるのを待っていた気分が、今はもうちぃとゆっくり進んでもいいと思える気分になっている。
早く電話を切って、明日も学校があるビビを寝かせなけりゃとは思う。
そんな考えとは逆に、まだ、ずっとこいつと話していてぇ。
声が聞いていてぇと思う。
さっきまでは寝れねぇ事が苦痛だったってのに、今は寝れねぇ事が苦痛でも何でも無くなっている。
こいつの声があるから。
『眠くなったら言ってね…?。電話切るから…』
「ならねぇよ。だが…まぁ解った。おめぇこそ言えよ。遠慮はいいからよ」
『うん…。解ってる…』
まだ湧かねぇ眠気。
だがこれなら電話が切れても、寝れねぇ苦痛はもうねぇ。
こいつの声が耳に、こいつと話した記憶が頭に残る。
それを思い出しながら朝まで起きてりゃいい。
(…それとも…)
こいつと話せた事で。
こいつの声が聞けた事で。
今度はゆっくり寝られるだろうか…。


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