原作サイド─数年後─

□父と子
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「殺す気でかかってこい!!!、ゾア!!!」
ゾアとの真剣を用いての試合。
だがゾアは加減している。
本気で斬りかかっては来ちゃいねぇ。
「おめぇは怖がってる。俺を傷付ける事を怖がってるだろ」
「…だって……」
本気の踏み込み。
だが斬り掛かる刃の速度が途中明らかに落ちる。
俺の急所も狙ってこねぇ。
俺の和道一文字と秋水を手に持つゾアが僅かに俯いて返してきた言葉は、肯定のそれ。
向こう気の強ぇガキだった俺の血を継いでるだけあって、チャカやペルには容赦無く斬りかかっていくこいつ。
だが父親の俺には加減する。
本気をセーブしやがる。
俺は本気のこいつと試合がしてぇってのに。
こいつの本気を受けてみてぇってのに。
「本気で来い、ゾア」
「…………」
「俺を殺す気で来い!!!」
俯くゾアに声を張り上げると、ビクッと僅かに体を跳ね上げて俺を見上げてきた。
「…俺は手加減はしねぇ」
その向けてくる目を見ながら言い切る。
てめぇの信条。
てめぇの信念。
「武器を向けてくる相手はみんな敵だ。それがたとえ息子のおめぇでも、刃を向けてくるなら斬り殺す覚悟だ」
「とおさ……、!!!」
ちぃと情けねぇ驚愕の顔を向けて俺の呼び名を口にしかけたゾアに斬り込む。
一撃目を、交差した刀で受け止めたゾア。
その顔が歪む。
俺の本気の一撃、並みの六歳なら受けた衝撃で刀ごと圧されて潰れちまってる。
受け止めただけでも大したもんだ。
だが褒める気はねぇ。
俺の子なら受けられて当然。
刀を引き、再度斬り込む。
何度も薙ぎ振るう俺の鬼徹の刃を二振りの刀で受けながら、圧され、後ろへ下がるゾア。
「引くな!!、押してこい!!。それが豪剣だ!!。俺はおめぇに引く事を教えた覚えはねぇ!!!」
「っ!!、くそーーーっっ!!!!」
半ばやけっぱちで踏み込んできたゾア。
その刃を刀で受け、
「あっ!!!」
一振りを弾き飛ばす。
「っ…」
悔しげに歯を噛みしめて足を止めたゾアが俺を見てくる。
「どうした、もう終いか」
息を切らして俺を見上げてくるゾアの目の鋭さは弛んでいて。
刀一本失って、戦意を落ち着けてやがるゾアに切っ先を向けた。
「おめぇの手は二本だ。持ってる刀はまだ一本残ってるだろうが。一本でも握ってるうちは斬り込んでこい!!。てめぇが戦う気を無くしても敵はそんな事はお構い無しだぞ!!!」
「!!。う…うおおおーーーっっ!!!」
俺の怒声に再度戦意を取り戻し、斬り掛かってくるゾア。
そのゾアに、かつてくいなに挑んでいたてめぇが重なる。
受ける刀に響いてくる、斬り込んでくる刀の力と勢い。
こいつは強くなる。
俺よりももっと、ずっと。
俺が鷹の目を倒したように、こいつはいつか俺を倒すだろう。
父親の俺を抜くだろう。
だがまだ、今はまだガキだ。
やけくそに突っかかってくるだけのガキ。
その姿に湧くのは怒り。
何故か怒りが湧く。
がむしゃらなこいつに、かつてのてめぇが重なって。
未熟なてめぇが重なって。
「――――――」
払い飛ばした刀。
ガキだったてめぇに振り下ろした刃。
「そこまでよ!!!!」
(!!)
突如響いたビビの声。
その声に我に返った。
目線の先にはゾアが居る。
向けた刃のその下で、僅かに怯えを目に宿したゾアが、地面に尻をつき、身を固めて俺を見ていた。
殺意。
殺す気でいた。
殺そうとしていた。
てめぇの子を。
息子のゾアを。
ガキだったてめぇを重ねて。
「―――――――」

「…Mr.ブシドー」
様子がおかしかったMr.ブシドーを制する為に放った終了の言葉にMr.ブシドーの動きが止まった。
刃はゾアの頭の上まで振り下ろされて止まっている。
終盤、Mr.ブシドーは殺気を放っていた。
怒気を含んだ殺気を。
ゾアに向けて。
止めなければ、ゾアは斬り殺されていた。
「…Mr.ブシドー…」
もう一度名前を呼んだら、Mr.ブシドーが姿勢を戻し、刀を鞘に差し戻した。
「…今日はこれで終いだ…」
ゾアを見ながら言った声には少し力がなくて。
「…………」
無言で踵を返したMr.ブシドーが私の方に歩いてきた。
「…悪い…。助かった…」
「…大丈夫?」
「…ああ」
私とすれ違いざま呟いた言葉に声を掛けると、どこか暗い、力のない声が返ってきて。
「…ついててやってくれ…。俺は時計塔に居る…」
足を止めたMr.ブシドーが振り向いて。
「…うん」
ゾアを見ながら言った言葉に頷く。
そのまま時計塔の方に歩き出したMr.ブシドーの後ろ姿を眺めて、そのMr.ブシドーから目を離してゾアの方へと足を向けた。
「ゾア」
「…かあさま…」
地面に尻餅をついて、僅かに放心しているゾアの前に膝をついてしゃがむと、まだ少し茫然とした表情と声のゾアが私を見上げてきた。
「怖かったでしょう?、お父さんは」
「……うん…」
「あの姿がお父さんのもう一つの姿よ」
Mr.ブシドーの戦場での顔を目の当たりにしたゾアに、安心させる為に優しく笑んで幼い頬に手を当てると、ゾアが俯けかけていた顔を上げた。
まるで幼いの頃のMr.ブシドーが見えるようなその顔には、いつもの勝ち気な元気さはなくて。
「あれが戦いの場にいるお父さんよ。あの怖さで、あの強さで私達を護ってくれてるのよ」
「……殺されるかと思った……」
少し引き締まった気はするけど、まだまだ柔らかい頬を撫でながら言うと、また少し俯いたゾアが小さく漏らした。
「それはあなたが強いからよ、ゾア。あなたはいつかお父さんより強くなる。それをお父さんは感じたの。だからお父さんはあなたを敵とみなして殺意を向けたの」
本当は少し違うのかもしれない。
殺気の中に混じっていた怒気。
その訳は解らない。
それでもゾアの強さを認めたから、Mr.ブシドーは戦場での彼を見せたんだと思う。
「Mr.ブシドーに敵とみなされる程あなたは強いのよ。そしてもっと強くなれるの」
私を見上げるゾアを見下ろしながら、いつもの元気さの消えた顔に言葉を続ける。
「お父さんの殺意を受けられた事はあなたにとって誇れる事よ。お父さんは…Mr.ブシドーは本当に強い相手にしか殺意を…闘気を向けないのだから」
「……そうなのか…?…、かあさま…」
「ええ」
私を見上げる無垢な顔。
その純真な目を見返しながら頷いて見せた。
「お母さんは昔、外の世界で戦うお父さんを少しの間だけだったけど見ていたの。弱い相手にはその程度の力でしか相手をしていなかったわ。お父さんが本気を出すのはいつも強い、その相手を倒せば強くなれると感じた相手だけだったのよ?」
「―――――」
ジッと私を見ながら私の話を聞いているゾア。
その表情からは、さっきまでの意気消沈していた雰囲気は消えている。
「だから、お父さんの…世界最強の剣士の力を向けられたあなたは、いつかお父さんよりも強くなる」
「───うん!!!」
「うん。…んっ!」
返ってきた力強い笑みと返事に笑って返して、大きくなった体を抱き上げて立ち上がる。
抱っこはもうゾアの背が伸びてきたのと、恥ずかしがってあんまりさせてくれなくなったから随分長い事してなかったけど、すごく重くなってる。
Mr.ブシドーに鍛えられてるから尚更。
成長している。
毎日毎日、少しずつ、でも確かに。
そしていつか、この子もMr.ブシドーのような青年になる。
私が知る19の頃のMr.ブシドー。
ウイスキーピークでの百人斬りを果たした彼。
リトルガーデンで、自分の足を斬ってまで戦おうとしていた彼。
みんなと共にアラバスタを救ってくれた彼。
そして今、大剣豪の名を携え、このアラバスタを護りながら私の側にいてくれる。
そのMr.ブシドーのように、強く逞しく、そして優しく育ってくれる。
いつか私の跡を継ぎ、立派な王として、ビナと一緒にアラバスタの平和を存続させてくれる。
「じゃあ今日はこのまま部屋に戻って少しお昼寝よ。眠る事も体の成長に大切な事なんだから」
「うん。……────」
「、。ふふっ」
返事をしたあと目を瞑って急に重くなったゾアは、もう眠りに入ったみたいで。
Mr.ブシドーとの試合と、Mr.ブシドーの殺気への緊張感に精神が疲れたんだろう。
そのさっきまでMr.ブシドーに斬り掛かっていっていた猛々しさはない、今は普通のあどけない6歳児の寝顔がそこにあって。
それを見ていると、母心としては剣士なんて危ない事はして欲しくはない気持ちになる。
この子は未来のアラバスタ王で、自分の力でこの国を護る、護れる強さを持つ王になっては欲しい。
この子ならなれると思う。
でもそうなるまでにどれくらいの怪我をするのか。
この子はMr.ブシドーの血を引いてる。
だから彼みたいに強さを求めて無茶な事をしそうで。
母親としては、それは怖い。
立派な強い王になってはほしいけど、…やっぱり親としては怪我や危ない事はしてほしくない。
させたくない…。
でもこの子が強さを望むから。
Mr.ブシドーのような『世界一強い剣士』になる事を望んでるから。
それを止めるつもりもない。
「…複雑なのよ?、お母さんは」
結構な重さに気を抜くとずり落ちそうになるのをしっかり抱き抱えながら、深い寝息を立てるゾアの若草色混じりの水色の短髪に頬を当てた。
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