原作サイド─数年後─

□子育て
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「「ビああああああ!!!⊃⊃⊃⊃⊃」」
「あー!w、よしよし!w」
二人揃って泣き喚くゾアとビナを両手に抱えて必死にあやすが、二人は一向に泣き止まねぇw。
「もうちょっと待て!?w。もうすぐ母さん戻って来るからよ!w⊃⊃」
昔ウォーターセブンで子守りの手伝いをしたこたあったが、まさかそれをまた、しかもてめぇの子で体験する事になるたぁ思わなかった。
「まだかビビ…w。まだ終わらねぇのか…w」
対談は三時間で終わると言っていたが、時計塔の針が半を過ぎても戻って来ねぇビビに、対談室の方を見ながらビビが戻るのを願った。
「びえええええ!!!」
「びあああああ!!!」
「〜〜〜〜〜w」
腹が減ったと泣き叫ぶゾアとビナ。
他の事ならある程度俺でも出来るが、授乳だけはどうにもならねぇでw。
こればかりはビビを待つしか方法がねぇw。
「ごめんなさいMr.ブシドーっ。お待たせっ」
「おう!w、ビビ!w」
後ろからようやくビビの声が入ってきて、振り向いて体も向けた俺に近付いてきたビビが、先にゾアを受け取ってソファーの方に歩いていく。
「はいゾア、お待たせ。お腹すいたわね」
ソファーに座って、服の胸元を片方はだけて。
「もうちょっと待ってね、ビナ。お兄ちゃんが飲み終わったらすぐにあげるから」
ゾアに授乳し始めたビビが、俺の腕の中で泣き喚くビナに言う。
やがてゾアが満腹になり、ビビがゾアと交換で渡したビナにも授乳を始め、さっきまでの喧騒が嘘みてぇに、やっと部屋の中が静かになった。

「は〜ぁ…w」
腹も膨れた二人を赤ん坊用のベッドに寝かせて、ようやく気も休まってベッドに腰を落ち着ける。
「子育てってのがここまで疲れるもんだとは思わなかったぜ…w」
二人が生まれて二週間。
だってのに早、疲れに苛まれている。
数年前にも子守り経験はしたが、あの時はほんの一時。
だが今は四六時中、しかも二人に手が掛からなくなるまで、継続的に続く本格育児。
「あなたでも疲れたりするのね。あんな重いバーベルでトレーニングするよりよっぽど楽な事だと思うんだけど」
俺を見ながら小首を傾げて言ってくるビビは、妊娠中は大事を取って書類書きを重点に片付けていた為に、その他の溜まってきていた分の国務に今追われていて。
だってのに育児にも手を抜かず、国の仕事と同じように育児も楽しげに、幸せそうにこなしていて。
そんな、俺よりどれ程も体力がねぇはずなのに疲れの様子もねぇみてぇなビビに言われて、情けねぇような気分にはなるが…。
「体力より精神力だ…w。ただでさえ小せぇ上に首はぐにゃぐにゃで体も脆ぇから扱いに気ぃ使うし、その上あいつらは一国の王子と王女だからよ。何かあったらと思うと気が抜けねぇw」
ビビやコブラ王、ビビの乳母代わりでもあるテラコッタさん、イガラムのおっさんや、チャカやペルに至っても元々王族や王族付きの人間。
その身分にも慣れているから、王家の血を引くゾアとビナの扱いにも全く気を使っちゃいねぇが、俺は生まれながらの一般人。
てめぇの故郷(くに)の偉いさんだってどんな奴かもよく知らねぇ、王族なんてもんから程遠い位置に居た人間。
そんな俺が、今や王女であって女王である女の内縁の旦那で居て、王族の血を引く子供の父親になっている。
父親になる"意識"はビビの妊娠を知った時から持ってはいたが、それでも子育ての大変さってのはその"意識"を"覚悟"に変えた程に、想像して腹を括っていた"責任"の程度を上回っていて。
てめぇの子供、それに加えて王族の血を引く王子と王女。
それだけでも責任重大だが、ビナは女だから、特に扱いに気が張る。
体に、特に顔に怪我でもさせりゃと思うと、必要以上に気が張っちまう…w
「……ごめんなさい…?…」
「ん…w」
横に座ってきたビビのふいの詫びが頭で考えていた思考を止めさせ、その詫びの理由を訊く為にビビを見た。
「Mr.ブシドーは王族でも代々の王族付きの武官でもないから、王族の育児にも馴染んでないし、気疲れるのも仕方ないわよね…。私には国務もあるけど、あなたは殆ど二人に付きっきりだし…」
「…………」
訊く前に話してきた、俺を見ながら言ってくるビビの眉尻は僅かに下がっていて。
その顔を見ていると、ふと逸らされた顔が伏せた。
「やっぱりちゃんと相談し合うべきだったわ…。私、アラバスタの未来の事ばかり考えて、あなたを『父親の立場にしてしまう』って事を少しも考えてなかった…⊃」
「…………」
ビビの言葉に、俯くビビの横顔を眺める。
こいつは一人で身ごもる事を決めて、その子供の父親に俺を選んだ。
国の未来の為に。
女王として、次の王を残す為に、てめぇ一人でそれを決めた。
「おめぇはそういう奴だからな」
何も変わらねぇ。
数年前から。
こいつは出会った時からそうだった。
国の事が第一。
いつも先ず頭にあるのは国の事。
それが変わらねぇから、俺はこいつに惚れていられる。
あの頃から今も変わらず持ち続けているその心根があるから、俺はこいつに失望しねぇでいられる。
「ま、する事してるんだ。遅かれ早かれいつかこうなってたかもしれねぇ。それに…」
「………それに…?…」
言葉を一旦止めた俺に、ビビが顔を上げて。
向けてきた顔に、内心の気分で笑いが出た。
「おめぇから相談受けてても、俺は反対はしなかったよ。内縁とは言え、女王のおめぇと夫婦(めおと)になったんなら、その時点で国と王家の血の継続の為の世継ぎ作りに協力しなけりゃならねぇ人選の先頭に来てたんだろうからな」
「………Mr.ブシドー……」
俺を見てくるビビの顔を見ながら、子育ての間の束の間の休憩に気を抜いて、体を傾けてベッドに両手の平を着く。
「おめぇは俺の事を考えて後悔してるみてぇだが、俺はおめぇが俺の血を子に継がせようと思った事をわりと光栄に思ってるんだぜ。国を担う王を作るのにてめぇのタネが選ばれるなんざ、男にとっちゃ最大の誉だろ」
「……。…ありがとう」
必要のねぇ礼を言って肩に凭れ掛かってきたビビに、ビビがしていた"後悔"の意味を深く考える。
てめぇが子供の父親になるなんざ、ビビの妊娠を聞くまで考えた事も無かった。
勝手に生きてきた俺だから、これからも勝手に、何ものにも縛られる事のねぇ人生を送っていくと。
こいつと夫婦になってもそれは変わらねぇと思ってたが。
『束縛』が出来た。
『父親』って束縛が。
ビビはそれを後悔していて。
俺に『枷』を作った事を悔やんでいたんだろう。
(…………)
確かに枷だ。
『父親』って枷。
それでもその枷が少しも嫌だと感じねぇ。
あいつらに束縛されるなら。
あいつらになら束縛されてもいいと。
そう思えている程すげぇもん。
この俺が『自由』を奪われても、それでも構わねぇと。
あいつらになら捕らわれていてもいいと。
そんな考えを持つような人間にさせた程、『子供』ってもんはすげぇ存在だ。
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