原作サイド─数年後─

□誕生
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いよいよ臨月。
腹に居るのは双子だから、その為にビビの腹は最早別もんみてぇに膨らんで、ちぃと動くのも腹が重そうで。
そんなだってのに笑っている。
毎日愛おしげな目で笑みながら自分の腹を撫でて。
すっかり母親の顔になっている。

「それじゃあ行ってくるぜ」
「ええ。いってらっしゃい。気をつけて」
もういつ生まれてもおかしくはねぇ時期、なるべく側に居た方がいいんだろうが、遠くに感じる悪賊の気配に発たなけりゃならねぇで。
産気づいた時、じきに連絡が来るように子伝電虫を持参でカルーと共に宮殿を出た。

「グエ!!?」
「?。どうしたカルー」
俺がこのアラバスタの用心棒になったって話はもう世界中に知れ渡っているだろうに、また懲りずにアラバスタを奪いに来やがった海賊共を片付け、地に倒れるそいつらを見ていると、ふいにカルーが後ろを振り向いて。
「グエーーッ!!!、グエッ!!、グゥエーーッッ!!!」
「…………。!!」
そのカルーに訊いた俺に顔を向けてきたカルーが、何か訴えているみてぇに羽をばたつかせて鳴き始めた。
そのあまりのカルーの必死に訴えるみてぇな姿と鳴き方に、まさかビビが産気づいたんじゃと思って。
子伝電虫には連絡は来てねぇが、カルーは子供の頃からビビと居ると聞いた。
もしかすりゃビビが産気づくのが動物の本能で解ったんじゃねぇかと思えて。
「生まれそうなのか!!?、カルー!!。そうなのか!!?」
「グエッグエッ!!。グエーー!!!」
俺の問に二度頷いたカルーが、俺に背を向け嘴で背中をつつく。
乗れと言っているその仕草に背に飛び乗ると、そのまま全力で走り始めたカルー。
(ビビ…!!)
前から流れる砂漠の景色をカルーの背の上で見ながら、産室に入る前に一目だけでもビビに会っていたくて、部屋に居るだろうビビを思いながらアルバーナへの道のりを戻った。

「ビビ!!!」
「…Mr.ブシドー……」
カルーが飛ばしたおかげで宮殿には二十分程で着き、部屋に飛び込むと、ビビが苦しげに息を乱して腹を押さえていて。
「大丈夫か!?。いつから痛ぇんだ!?」
ビビに駆け寄り、体に手を当てると、途端に力が抜けたみてぇに座り込んだビビが、苦しげな表情で俺を見上げてきた。
「…今急に痛くなってきて……。でもMr.ブシドーどうしてそんな慌てて帰って……」
「カルーが騒いだんだ!。おめぇが産気づくのが解ったらしい!」
「…カルーが……?」
「グエーー!!」
「そう…。ありがとう…カルー……。Mr.ブシドーを間に合わせてくれて……。あっ!」
「!?、どうした!?。!?」
床に座り込むビビが声を上げたと同時に、ビビの足元に水が広がって。
医師からの説明で破水の事は聞いていたから、これが破水かと、横でビビを心配そうに覗き込んでいるカルーに顔を向けた。
「カルー!、お前はイガラムのおっさん達を呼んできてくれ!。俺はこいつを医療部屋に連れて行く!」
「グエッ」
一声返したカルーが部屋から出て行き、
「俺達も行くぞビビ!」
「うん…」
よっぽど痛ぇのか、苦痛の表情で眉をしかめるビビを抱き上げ、医療部屋に走った。
「ドクター!!、ビビが産気づいた!!」
ドアを蹴り開けて告げると、
「おおっ!!、とうとうっ!!。では産室の方に!。すぐに産婆を呼びます!」
勇んで立ち上がった医師が産室の方を指差した。

「ふふっ…」
「!?」
ビビを抱いて宮殿の奥にある産室に向かって走っている途中、ふいにビビが笑い。
こんな時に笑ったビビに、走りながら腕の上のビビを見ると、痛みに眉間にシワを浮かべながらも笑っているビビが俺を見ていて。
「なんだ!?。こんな時に何笑ってんだ!?」
ビビの笑う理由が解らねぇで訊くと、やけに嬉しそうな表情でビビが口を動かした。
「だって……、こんな必死な顔で走り回ってるMr.ブシドー見たの久し振りだもの……。あの時…砲撃を止める為に砲弾を探し回った時みたい……」
嬉しそうに、そして懐かしげに笑むビビの笑みが更に深くなった。
「あの時は必死だったけどほんとに嬉しかったの……。Mr.ブシドーもみんなもこのアラバスタを救う為に…、国のみんなを助ける為に必死になって私と走り回ってくれてる……。みんなと心が一つになってるって思えて、私はすごく心強かった……」
「…………」
「ありがとう……Mr.ブシドー……」
「……────」
こんな状況であの頃の事で礼を言ったビビに、奇妙な感覚を覚えた。
どうして今頃礼なんざ言うのか。
それを思って、妙な気分に気持ちがざわめいた。
なんか今我の際の言葉みてぇに思えちまって。
「そんな昔話は後だ!!。今は無事に子供を産む事だけ考えろ!!」
焦る中での、ビビのそんな言葉に不安にかられて怒鳴った俺に、それでもビビは笑っている。
「うん……。でも今言っておきたいの……。Mr.ブシドー……」
笑みながら俺を見上げていたその顔を、そのまま下に下ろして腹を撫でたビビ。
「もし私に何かあっても、この子達だけはちゃんと産むからね……」
「!?」
縁起でもねぇ事を言いやがったビビに、心臓がどくりと脈打った。
「大好きよ……Mr.ブシドー……。愛してる……」
「────っ!」
笑みながら言ってきたビビ。
それに返事はしなかった。
返事をしたら、こいつがもう戻ってこねぇ気がして。
焦りの気持ちに混ざった不安が大きくなり、それを紛らわせる為に全力で産室に走った。
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