原作サイド─数年後─

□心配
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「…………w」
気が気じゃねぇ。
「あっちはあとでいいから、先にこっちから始めましょ」
腹ぼてのビビ。
腹は六ヶ月を過ぎたとこ。
安定期ってのにはもう入っているらしいが、それでも気が気じゃねぇ。
あいつは動き回るから。
そりゃあ腹に子供が居ても働いている女はごまんと居る。
宮殿の医者も、妊娠しても動き回った方がいいと言っていた。
だが俺にはあいつは動き過ぎな気がして。
机に向かって女王の職務をしている時は構わねぇ。
だが町に出て、年寄りの手助けや、町をより良くする為の拡大土木作業にまで参加しようとしやがるから、なにかあったらと思うと、用心棒の仕事にも身が入らねぇ程気になっちまう。
これが口で参加するだけなら俺も気にならねぇが、荷物運びまで手伝おうとしやがるから、ほんとにあいつは自分が妊婦だって自覚があるのか解らなくなる。
「…ビビ」
「、。なに?、Mr.ブシドー」
呼び掛けに振り向くビビ。
その手にゃ、モルタルの入ったバケツ。
町の住民達も、半数は困惑している。
ビビに何かあったらと。
腹の子に何かあったらと。
ガキの頃からビビを見ているアラバスタの年配の住民達にとっては、ビビは王女であり、女王であり、そしてまだ子供みてぇなもんだ。
子供を身ごもった事のある年配のおばさん達は、ビビの母親である前王妃の世話をしていたテラコッタさんを筆頭に大丈夫だと笑って言うが、おっさんたちはイガラムのおっさんやチャカ、ペルも含めて、みんなビビの動き回りっぷりにヒヤついて、気が気じゃねぇ顔をしている。
「…もうちぃとじっとしてろ。あんまりウロウロ動き回るな」
このセリフももう何度目か。
そして返ってくる言葉はいつも同じ。
「大丈夫よ。アラバスタの人間は強いのよ?。これくらいの事じゃ私も赤ちゃんもなんともないわ。いつも言ってるじゃない」
(………たく)
これだ。
やっぱり聞きゃしねぇ。
何かあってからじゃ遅ぇってのに、今日も返ってきた常套句に溜め息を吐く。
「…妊婦がうろちょろしてりゃ作業の邪魔だ。それに心配も掛ける。おめぇが居る事で作業が遅れてるのが解らねぇのか」
今まで言いたくは無かった言葉だが、こうなりゃ仕方ねぇで。
ビビを止めさせる為に、こいつにゃ最もこたえる言葉を口に出した。
「う……」
(……っ…w)
途端、やっと自覚したのか、顔から笑いが消え。
多少ショックの色も含ませたその顔に、ちぃと気分が怯んだ。
国が、国民が幸せに生きる事がこいつの幸せで。
国民と共に生き、その国民達と混ざって何かをしていくのがこいつの喜びで。
それを止める事も、国民の足手纏いになるって事も、こいつにゃ最もこたえる事。
「………そっか…。…そうよね…⊃、身重な私がいたら色々迷惑掛けるわよね…⊃」
(…っ……w)
完全に気落ちしたビビに、やっぱり言わねぇ方が良かったと後悔が湧く。
だがこいつの身を護るにゃああ言うしかねぇ、仕方のねぇ事だった。
「ごめんね?、みんな⊃。心配させちゃって…⊃。作業も遅らせちゃって…⊃」
「あ…いえw⊃、そんな…w⊃」
ヘコんだまま、手に持っていたバケツをおっさんの一人に渡したビビに、おっさんも困惑しながらそのバケツを受け取った。
「でも見てるだけならいいでしょ?⊃。見てるだけでも参加していたいの」
「そりゃあ勿論っw⊃⊃。お子様が誕生した後はまたビビ様も手を貸してください」
「うんっ。ありがとうっ」
(………ふぅ…。やれやれ)
用意してあったイスにやっと大人しく腰を下ろしたビビに、また、今度は安心感の溜め息が出た。
愛国心が強ぇのはいいが、てめぇの身を省みねぇのは困りもんで。
船に居た時から変わらねぇその心根に安堵はするが、あの頃とはあいつ自身の状況が違ぇから、無茶をするのは気が気じゃねぇ。
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