原作サイド─四年後─

□水平線
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同盟国での親睦会に呼ばれた帰りの航路で起きた時化に、仕方無く近くの島にあった町の民間ホテルでの一泊。
朝になって、もうじき時化も治まりそうな海に、それまでもう一眠りとしていた二度寝から目が覚めると、向かいのベッドでまだ寝ていたビビの姿は無く、部屋から出るとホテルの支配人が走ってきた。
「ああ!、アラバスタ女王のお付きの!」
「ん」
「あれはアラバスタ女王ではありませんか!?w。あのフェンスの上の!w」
「あ?。フェンス?」
駆け寄ってきた焦っている支配人の指差した窓の外を見ると、その先にゃあ、ホテルの一角、海風を和らげる為にか張られたフェンスの上に誰かが居た。
割と高さはあり、その人物も小さく見えるが、靡く長ぇ髪の毛は水色で。
「…何してんだあいつ…w」
支柱と支柱の間に張られたフェンス。
その渡されたワイヤーの上にしゃがみ込んで、海の方を見ているみてぇに見えるビビに、あんな所で女王の立場に居る人間が何してんだと呆れて。
「…ああ。うちの女王が騒がせて悪かったな」
「いえw。では私はこれでw」
俺と共に唖然とあいつを見ていた支配人に詫び、困惑の雰囲気を背中に浮かべて歩いていく支配人に背を向けてロビーに足を向ける。
外に出てフェンスに近付いてみると、下に何か置いてあるのが見えて。
そりゃああいつの靴だった。
「…………」
上を見上げると、フェンスの天辺にビビが小さく見える。
(…………)
声を掛けるにも、声がギリで届くか解らねぇような高さで。
「…………全く。世話の焼ける女王だぜ…w」
ほっときゃいつまでああしてるかも解らねぇで。
仕方無く、靴を脱いでフェンスに手と足を掛けた。

「よう」
「あ、Mr.ブシドー?」
かなりの高さのフェンスの天辺まで着き、フェンスのワイヤーに腕を掛けると、ビビが顔を向けてきた。
「どうしたの?。あなたがこんな事するなんて」
珍しい。
そう続けそうな物言いで言ってきたビビの横を抜けてワイヤーに上がり、フェンスを支える支柱の上に腰を下ろす。
「おめぇが黙ってこんな所まで登ってるからな。下から呼んでも聞こえねぇかもしれねぇから登ってきたんだ」
「あ…w、ご、ごめんなさいw」
「詫びるのは俺にじゃなく支配人にした方がいいぜ。一国の女王がこんなとこ登ってて、随分泡食ってたからな」
「うw」
てめぇのしてる事で周りがどんな事になってるのか全く考えて無かったらしいビビに言うと、その顔に今やっと気まずさの表情を浮かばせて、声を詰まらせた。
「マジで何してんだ、こんなとこで」
「ん…w。海を見ていたの…」
「海?」
そんなこったろうとは思えてはいたが、だが何もこんな所にまで登って見ねぇでも、地面からでも海は見える。
「この高さなら海が遠くまでよく見えるかと思って」
(…………)
俺から海の方に顔を戻したビビ。
そのビビから、海に顔を向けてみた。
「ん…」
確かに、かなりの高さなだけあって、下からじゃ見えねぇような遥か沖まで見渡せ、小せぇ孤島も二つ程浮かんでいるのが見える。
「ああ、確かにいい景色だな」
「でしょ?」
景色を見ながら言った言葉に、横から笑って返してきた声が聞こえた。
そのビビに顔を向ける。
「だが、どこかに行くなら一言言ってからにして欲しいもんだな。おめぇの顔はもう全世界にアラバスタ女王だと知れ渡ってるんだ。妙な輩に目を付けれるのはもう何度も体験してるだろうが?」
「ん……そうね…w。ごめんなさい…、少し軽率だったわ…w。でもMr.ブシドーよく眠ってたから起こすの悪いと思って…。久しぶりじゃない?。あんなにゆっくり眠ったの」
「ん…。…まぁそうだな…」
アラバスタを離れている今は用心棒の仕事もこいつの護衛だけと気を緩めて二度寝に入ったが、こいつが出て行った事にも気付かねぇくれぇ気を抜きすぎていた。
女王になって日が浅ぇ訳でもねぇってのに、てめぇの立場も深く考えずに一人でうろちょろしようとする、どうしようもねぇ天然女王を責められたもんでもねぇで、話をそこで止めた。
「ね…、ちょっと立ってみたいんだけどいい?」
「………。やめろっつってもやるんだろうが」
「止められたらしないわ。これ以上心配は掛けたくないから」
「…………」
こっちへの思慮はしているビビ。
だが訊いてくるって事はよっぽどやりてぇって事が解る。
余程ちぃとでも遠くまで眺めてぇらしく、仕方ねぇから、止める代わりに手を出した。
「…掴まってろよ。それなら構わねぇ」
「……ふふっ。ありがとう」
笑ったビビが指を掴んできて、そのビビの指に親指を乗せて押さえる。
そのままビビが立ち上がり、片方の手を広げた。
「鳥ってこんな感じで空を飛んでるのかしら」
「………。さぁな」
遥か頭上を海に向かって飛んでいった海鳥を見ながらビビが言った事に、そんな感じもするが解らねぇから、茶化し気分でそう相槌を打って海を見る。
「…ルフィさん達、今どこの海にいるかしらね…」
「…さぁな」
鳥の気持ち以上に解らねぇあの船長の気まぐれ航路に、可笑しさが声に混じって。
時化の消えた、静かにたゆたう海を見ながら、アラバスタに戻るのはもう暫く後にするかと考えた。


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