原作サイド─四年後─

□仲介
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「ビビ」
「あ、ナミさん」
中庭の見える通路から何かを見ているビビを見付けて。
すっかり女王らしい風貌と気品が身に付いたビビに声を掛けたら、中庭を見ていたビビが顔を向けてきた。
「何見てるの?」
「ん…」
ビビの横に行ってビビの見ていた方を見たら、そこにはゾロがトレーニングしていた。
「…信じられない」
「ん?、なにが?」
そのゾロを見ていると横から来たビビの声に横を見ると、ビビはゾロを見たままで。
「Mr.ブシドーが船を降りてまで、このアラバスタに留まる事」
(…………)
ゾロを見るビビの横顔は、もうほんとに四年前の十六だったビビとは違う、二十歳の横顔。
「迷惑?」
その横顔に訊いたら、勢いよく私に顔が向いてきた。
「ううんっ!?、そうじゃないのっ!w。迷惑とかじゃなくてっ!w」
(…ふふっ)
四年経っても、女王になっても、四年前と変わらない反応を見せるビビに嬉しさと懐かしさを感じる。
「…世界最強の剣豪になったMr.ブシドーがこれからもこのアラバスタにいてくれるのは心強いし、すごくありがたい。あれからもね?、何度か海賊から襲撃を受けてるの。イガラムもチャカもペルも兵士達も撃退してくれてるけど、ペルはもうあんまり無理が出来ない体だし…」
「…そうね…」
ゾロが懸念していた事が実際になっていた事。
それにあんな爆発の中にいてそれでも生きていたペルさんに私もみんなも驚いたけど、生きていてくれてよかったと思った。
でもやっぱりあの爆発で受けた傷の後遺症は残っているらしい事に残念な気持ちが湧く。
「…でも…」
(、)
私を見ながら呟いたビビ。
その顔がまたゾロに向いた。
「ほんとにそれだけの為なのかしら…。あのMr.ブシドーが船を降りるなんてよっぽどの事な筈よ?。Mr.ブシドーは仲間のよしみだって言ってたけど、船を降りるまでの理由にはならない気がするの…」
「…………」
そこまで解っててもうあとちょっとの所が解らない鈍いビビ。
それはらしいと言えばらしいけど、鈍すぎると言えば鈍すぎる。
「…ねぇ、ナミさん」
「ん?」
ゾロを見ていたビビの顔が、また私に向いてきた。
「ナミさんはなにか聞いてない?。ナミさん達はMr.ブシドーとずっと一緒にいたし、Mr.ブシドーが船を降りてこのアラバスタに残るような理由に心当たりとかない?」
「…………」
私に訊いてくる、ビビの顔。
ほんとに解ってない顔。
「…あんた、ほんとに解らない?」
「?。何が?」
訊いたら少し小首を傾げた。
普通そうきたら多少はそっち方面にも気が付くだろうってのに、それを勘ぐらない相変わらずのどこか天然な鈍感さに、やっぱりこの子らしいわねと呆れと納得をする。
「…うん…、…ゾロには言うなって言われてるんだけど…」
「なにを?」
みんなで船を降りる時にゾロに口止めされた。
自分がビビを好きだって事は絶対に言うなって。
(…………)
でもちょっと知らせておきたい。
せっかくあいつはこれからも一生アラバスタで暮らすんだし、ビビにもまだ好きな相手もいないみたいだし。
知らせるくらいはいいんじゃないかと思う。
それにビビの支えも作っておきたい。
コブラさんは病気を患っていた。
ビビから、病気で動けないコブラさんから王位を継いで今は自分が女王になってアラバスタを治めてるって聞かされた時、四年前はあんなに元気だったコブラさんが病気だって事が信じられなくて。
でもほんとにベッドの上、四年前の毅然とした姿とはかけ離れてしまったコブラさんと、そのコブラさんに私達が会いに来た事を嬉しそうに報告するビビの姿に涙が出た。
たった四年で変わりすぎてしまったコブラさんの姿と、ビビの立派な女王になった背中が、変わらない気丈な明るさが、無性に悲しかった。
だからゾロがアラバスタに残る事に、私もサンジくんやウソップもよかったと思った。
そしてあんな脳筋バカでも、この子の支えになるんなら、そのきっかけをビビに植え付けておこうと思った。
「…ま、いいわよね。私が言わなきゃあいつは一生言わないだろうし、あんたは一生気付かないかもしれないし」
「…気付かないって…?」
(…………)
「ナミさん?」
「あいつね、あんたの事ずっと好きだったんだって」
「え?。……え?w」
一瞬私が何を言ったのか解らなかったみたいな顔で声を出したビビが、少しの間の後、困惑混じりで確認みたいに声を出した。
「……え…と…w、だ…誰が……誰を…?w」
「だから、ゾロがあんたをよ」
「…ミ…Mr.ブシドーが…?、私を…?w」
「そ。驚きでしょ」
「……嘘…w」
思いきり驚いてるビビ。
それはそうだろう。
私達だって驚いたんだから、当事者のビビにとっては本当に驚愕の話だろう。
「嘘じゃないのよね、これが。私達だって驚いたわよ。あれだけずっと船にいて、あいつがずっとあんたの事想ってたなんて全く解らなかったんだから」
「────」
心底驚いて、驚きの顔が消えないビビから、まだ中庭でトレーニングしてるゾロを見る。
好きなビビといられるのに、それを全く見せないあいつ。
ほんとに全然変わらない態度。
「アラバスタに向かってる途中、いきなり私達に謝りだしてさ。何がと思ったら自分はアラバスタで船を降りるって。自分はアラバスタに残ってあんたを護るって言ったの。それでなんとなくピンと来て、あんたビビの事好きなの?って訊いたら、あんたの事ずっと好きだったって言ったわ。強くなるのも、自分の夢を果たす為でもあったけど、ビビ、いつか夢を掴んだ時、アラバスタであんたを護っていくって理由もあったのよ」
「…………」
なにも言ってこないビビを見ると、ビビは私を見てて。
でも驚愕の顔は消えていた。
何か考えてるみたいに、ただ私を見てる。
「驚きでしょうけど、あんたもちょっとあいつの事考えてみたらどうかしら?。あいつはあんたの事が好きで、でもこのままずっと、あんたにも自分の気持ちを言わないで、ただ用心棒としてアラバスタに残るのよ。あんたもいいのがまだいないんなら、あいつでもどう?」
「…………」
ビビの視線が下に向いて、やっぱりなにか考えてるみたいに見える。
「ま、決めるのはあんたよ。あんたの好きにすればいいわ」
「…………」
何も言わないで下を見ていたビビが、顔をゾロに向けた。
そのビビにちょっと手応えを感じながら、ここを出たらまたしばらく飲めなくなるアラバスタのお酒を飲み納めておこうと、もう酔っ払って潰れてるだろうウソップやサンジくん達の所へ戻った。


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