原作サイド─四年後─

□決別
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風と舵任せのあの頃とは違う、エンジン動力での航海。
波と風に逆らって、真っ直ぐに目指しているのは、とある目的の地。
ルフィが海賊王の地位を掴み、旅を一段落落ち着かせようって話になった時、ルフィを筆頭にナミ、ウソップ、チョッパー、コックが一斉に一致で言ったのが、俺達のもう一人の仲間、砂の国アラバスタに一人残ったあいつの元へ行く事だった。
(…………)
甲板に立ち、まだ見えねぇ、だがこの真っ直ぐ先にある四年ぶりの砂漠の国を見ながら、その顔を後ろへと振り向けた。
視線の先にはあいつらの姿。
アラバスタへ向かう事に決め、ビビとカルーに会う前祝いだと宴会の準備をしている、ルフィ、ナミ、ウソップ、コック、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック。
ルフィの仲間として一番最初に俺が麦わら海賊団に入り、その後の旅の中で一人二人と増えてきたあいつら。
俺の『仲間』。
今まで命を預け、苦楽を共にし、共に笑ってきた『仲間達』。
そいつらを見ながら、ちぃと寂しさが胸の中を横切った。
こいつらと居るのももう少し。
あとちぃとの時間。
(…………)
てめぇで決めた決意をまだ胸に隠し、もうこれで終いになるかもしれねぇ宴会に、最後くらいは手伝うかと、あいつらの所へ足を向けた。

「「「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」」」」
恒例の宴会の音頭に高々と酒を掲げ、今日はいつも以上に賑やかな宴会が始まった。
「あー早くビビとカルーに会いてぇなあ!!」
「王様達も元気にしてるかな!?」
「アラバスタに着いたら、ビビとカルーを混ぜてもう一回宴会しような!」
「おう!。王宮でもまたご馳走食えるかなぁ」
「あのねぇ、あんた達食べる事しか考えてないの?。全く」
「ああ〜、ビビちゃんは今二十歳かぁ〜∨∨∨。可憐だった蒼いひなげしは、さぞかし美しい青薔薇になってる事だろうなあ〜∨∨∨」
「うん、私も早くビビに会いたい。きっと四年前より立派な王女になってるでしょうね〜」
「私も早く会ってみたいです〜。王女様のパンツが見れるなんて考えただけでももう∨、もうっ∨」
「「見せねぇよ!!、バカやろう!!###」」
「俺も見てみてぇぜ、そのビビ王女って娘をよ。おめぇらの仲間なんだ、さぞかし強ぇ王女様なんだろうなぁ」
「おうよ!!。ビビ以上に強ぇ立派な王女はいねぇぞ!!」
「…………」
(…………)
ビビの事を知っているルフィ、ウソップ、ナミ、コック、チョッパーと、あいつの事を知らねぇフランキーとブルックもあいつに会う事を楽しみそうにしている中、ロビンだけが口を開かず、複雑そうな顔をしている。
こいつはあいつの国へクロコダイルという災厄を連れてきて、あいつ自身にも辛辣な言葉を投げかけ、あいつを苦しめた片割れであり張本人。
こいつがあいつに詫びる所を見る事も、俺にとっては船を下りる前にしておかなけりゃならねぇ重要な要件だ。
「………お前ら」
「ん?」
「なんだ?、ゾロ」
浮かれるあいつらの声の中、てめぇが出した固ぇ声が、その騒ぎを止めた。
「……悪ぃな」
「?」
「何急に謝ってんだ?」
詫びた俺に、理由が解らねぇ連中が顔を向けてきて、一度、その全員の顔を見回した。
『仲間』の顔。
出会ってから四年間、ずっと共に生きてきた仲間の顔を。
「…俺はアラバスタに着いたら船を降りる」
「……え…」
「ゾロ…?」
「はっはっはっ!。何言ってんだ、ゾロ。アラバスタに着いたらみんな船を下りるぞ。船のまま砂漠は越せねぇだろ」
「…そうじゃねぇよ」
全員が驚愕の顔を向けてくる中、相変わらずボケてくる正面に座るルフィに、今湧くのは多少の寂しさを含んだ穏やかな可笑しさだった。
このアホっぷりに付き合うのももう後少し。
そう思うと、今までこのアホ船長に付き合ってバカに巻き込まれて腹が立った思い出さえ、物寂しい可笑しさにしかならねぇ。
「アラバスタに着いたらもう二度と船には戻らねぇって言ってんだ…」
「え……」
「…………」
相変わらずの理解力の無さに呆れ笑いしながら言った言葉がやっと通じたらしく、ようやく驚愕を顔に浮かべたルフィを、穏やかな気分のまま見返す。
「……ゾロ…」
「どういう事だよ!!。ゾロ!!、お前このままアラバスタに残るって言うのか!!?」
「…ああ。そうだ」
横に座るナミが声を出した時に、弾かれたみてぇに驚愕と怒りに似た顔で正面から詰め寄ってくるルフィに返す。
その俺の返事に、ルフィも、周りの奴らも声を無くした。
「なんで!!」
「そうよ、どうして…?。どうして急に…」
「…急にじゃねぇ」
真剣な顔で訊いてくるルフィとナミ。
その顔がやけに可笑しく、微笑ましさすら湧いた
「確かに最初はそんな考えは無かった。あいつが…アラバスタに残った時、いつか戻ると。大剣豪になったてめぇを見せに戻ると。それだけだった」
(…………)
思い出す。
あいつに誓ったあの時の事。
もうとおに消えちまった、だが胸の中にゃあまだしっかり残っている仲間の印を印した左腕をてめぇの決意と共に掲げた事を。
「それが、いつからだったかは忘れたがな、てめぇの力が付いていく中で湧いた考えだ。いつか大剣豪の夢を果たした時は船を降り、あいつの側で生きようと」
「────」
「────」
初めて口に出したてめぇの内心に、全員が言葉を詰めて俺を見てくる。
その全員の顔を視界に入れながら、てめぇの本心を続ける。
「二年前おめぇらと散り散りになった時、鷹の目の修行に耐える気の支えになっていたのはルフィ、おめぇに合流する事ともう一つ。あいつの存在だった。…プライド捨てて鷹の目に弟子入りしたのも、強くなる為。その強くなる理由の中にもあいつの事があった。…いつかあいつを、他の何ものからも護れるくれぇに強くなる為に、俺は鷹の目に土下座した」
あのドラム国。
船の上、王女が膝をつき頭を床に付けた。
あの時胸を打たれたそのあいつの姿を思いながら、同じく床に頭を付けた。
土下座をする屈辱の中にも感じる、あいつと同じ事をしている誇らしさと共に。
「────」
「────」
「……ゾロ…、あんたまさか…、ビビの事…?」
「……ああ。そうだ」
横から俺の顔を覗き見てきたナミに目を向けて、その問いを肯定した。
あの時は言わなかった。
誰にも。
あいつにも。
国の事で精一杯だったあいつ。
大剣豪の夢があったてめぇ。
てめぇの夢が先だった。
あいつの願いを叶えるのが先だった。
あの時は、あいつの、取り戻した国で笑うあいつの本来の笑顔が見れりゃそれでよかった。
あの時はそれが唯一、それが俺のただ一つの望みだった。
「俺はずっとあいつが好きだった。あいつが船に乗ってた時からずっとな」
「────」
「────」
ルフィと、あいつが船に居た頃を知らねぇフランキーとブルック以外の全員が驚きの顔で俺を見ている。
その顔に、そりゃそうだと納得する。
俺はあいつにも、こいつらにもそんな素振りを見せなかった。
あの勘の鋭いナミでさえ気付かなかった事が、あいつが船を下りて四年も経った今になって、そんな素振りもしなかった俺の口から聞いてんだから、そりゃあ驚きもするだろう。
「そして今、最強の夢は掴んだ。ルフィ、おめぇが海賊王になる瞬間も見届けた。俺がこの船に乗っていた目的は全て果たした。…だからもう俺がこの船に乗り続ける理由は無くなったんだ」
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