原作サイド─四年後─

□告白
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時計塔に座るMr.ブシドー。
その彼を毎日三度は眺めるのが、私の最近の日課になった。
彼がこのアラバスタに留まってくれて、今日で丁度二ヶ月。
その二ヶ月中、彼の事がいつも頭にあった。
ナミさんにMr.ブシドーの私への想いを聞いてから、彼が自分の中で『仲間』から『異性』に変わっていってるのを自覚しながら、この二ヶ月、毎日彼を見ていた。
気持が変わってきたのは、周りからの影響も少なからずある。
反乱が終わってからは、復興に賑わう町の中、特に反乱軍にいた若いみんなは戻った平和を謳歌するみたいに、砂砂団のみんなもコーザや数人以外はほとんど恋人を見つけて、時には早くも結婚したり、アラバスタは一時期恋愛ブームに包まれた。
その頃はただそんなみんなの幸せが嬉しくて。
でも大人に歳が近づいていくにつれて、それがちょっと羨ましい気持ちになってきた。
側で愛してくれる人がいる事。
お互いを解り合って支え合って共に生きていく、そんな相手がいる事が、なんだか羨ましく思えてきていた。
(…………)
交際を求めてきてくれる人はいた。
各国の独身でいる王や王子、同盟を組んでる国の王の息子さん。
時には、遠くはイーストブルーに住む貴族の人達からも、色んな人達から、私がまだただの王女だった頃から今まで、幾度も交際を申し込まれた。
でも受ける気が起きた事はない。
前は興味がなかっただけだけど、今はちゃんと考えがあって、その申し出を断ってる。
アラバスタの王は私だから。
いくらこの国の事を考えてくれようと、他の人には任せられない。
アラバスタの平和はこれからも私が築き上げていく。
私の理念を貫けるのは、私自身以外にはいない。
それに…どんな人も、いまいち頼りなくて。
強さを感じないというか、王族の人なら王子として育ってきた、そのいかにも王族の温厚な雰囲気に、いまいち気持ちが動かなかった。
温和なのはいい事ではあるんだけど、でもこのアラバスタはよく海賊から襲撃を受けるから、大国の、武力も兵器並みの武器も揃った、その武器の強さに護られて生きてきた人達に、人力で今まで国を護ってきて、これからもそう生きていくこのアラバスタで、その温和さで国を護っていけるかいまいち頼れなくて。
私はイガラムやチャカやペル、コーザや砂砂団のみんなみたいな、心も体も強いみんなと生きてきたし、今の私はルフィさん達の仲間として、麦わら海賊団のみんなの本当に自由に生きているからこその心と力の強さを知ったから、温和な為に本当の心と体の強さを持っていない人には、いまいち心を引かれない。
でも、Mr.ブシドーはその強い麦わら海賊団のクルーの一人で。
今は世界最強の剣士としてその名を世界に轟かせ、尚その最強の座を護るべく強さを磨いている。
そして私を好きでいて、このアラバスタに留まってくれた程、私の事を想ってくれてる。
そう考えると、Mr.ブシドーなら、彼なら共に生きていく相手に選んでいいような気に、次第になってきていた。
彼は知らない人じゃない。
温和な王族でも、貴族でもない。
私に力を貸してくれて、みんなと一緒に私と走ってくれた。
今は世界最強という称号を携え、今もその強さを維持していく為の強さを求めている。
そんな彼を毎日見ながら、彼なら選んでもいいと、この二ヶ月、その思いが次第に強さを増していっていた。
Mr.ブシドーが好き。
彼に女として、恋心を抱いている。
彼は今、私の心の支えになっている。
別に恋人みたいにならなくてもいい。
自由に生きてるMr.ブシドーに王になってなんて言わない。
ただ知って欲しい。
今の私がMr.ブシドーを好きな事。
一緒にこのアラバスタで生きていたい事を知って欲しい。
(………うん)
これからまた会議があるから無理だけど、夜になったらMr.ブシドーに話にいこうと決意を固めて、もう一度、時計台にいるMr.ブシドーに目を向けた。

いつもこのアルバーナを見張ってくれてるお礼も兼ねて、このアラバスタで手に入る中で一番高級なお酒を持って時計塔内の螺旋階段を上る。
「………Mr.ブシドー」
「ん…。おう…、どうした」
部屋の中、くだものを食べていたMr.ブシドーに声を掛けたら、Mr.ブシドーの顔が向いてきた。
(ふふっ)
今の時計塔の状況に、可笑しさが湧く。
一度は砲台という忌々しいものが置かれた、私の思い出の遊び場。
でも今そこにあるのはワイン棚とトレーニング器具がいくつか。
そして溢れ出てるくらいの果物が入った木箱が数個。
その木箱に山積みになってる果物とワイン棚に入っているお酒は、感謝の印。
世界最強になった大剣豪がこのアラバスタを護ってくれてる。
町の人達からの、そのお礼。
かつてこの国を取り戻してくれた英雄の一人が、私の国を護ってくれてる。
「いつもご苦労様。これいつも町を見張ってくれてるお礼のお酒」
「お、随分いい差し入れだな。ありがとうよ」
座るMr.ブシドーに両手でお酒を差し出すと、心底嬉しそうな笑みを浮かべたMr.ブシドーが私の手からそのお酒を取った。
「ちょっと話してもいい?。差し支えるなら明日の昼に時間を空けるけど…」
襲撃に時間なんて関係ない。
夜ですら海賊達は乗り込んでくる。
現に今までもそうだったように、Mr.ブシドーが来てからも数度狙われてきたその内の何度かは夜の奇襲だった。
でもMr.ブシドーは昼も見張りを続けながらも、少しチャカやペルにも頼りながら昼寝の時間を作っている代わりに、夜は一睡もしないで見張っていて。
昼と同じく遥か遠くの気配でも察知して、海賊が乗り込んでくる前に撃退してくれるから、国の人達は安らいだ夜を過ごせている。
その平穏を作ってくれているMr.ブシドーの見張りの邪魔にならないか、彼の都合を訊いた。
「ああ構わねぇ。喋っていても気配は察知出来る。女王の大事なスケジュールを狂わせる事もねぇ」
「……ふふっ。本当にすごくなったわね、Mr.ブシドーも」
遥か遠くの気配を察知出来るようになっただけじゃなく、結界張ったりとか、煩悩鳳って斬撃飛ばしたり、六道の辻って技や、あの鬼斬りって技も煉獄鬼斬りって技にまで極めてて。
初めての海賊撃退から今までで見てきたその技の数々に、もうMr.ブシドーまで能力者並みに人間じゃなくなってるんじゃないかとかって、驚きと一緒にちょっと思ったけど。
でも同時にそれがすごく心強い。
「で?。話ってのは」
「あ、ええ」
床に胡座をかいて座り込んでるMr.ブシドーに、私もその前に座って足を崩した。
「先ずはお礼を言わせて?。いつも本当にありがとう。ペルは生きててくれたけど、もうあんまり無理は出来ない体になっちゃったし、世界最強の剣士になったMr.ブシドーがこのアラバスタを護ってくれてる事は、ものすごく心強いしありがたいと思ってる」
「……はっ。礼なら結構だ。礼を言われてぇ為にしてる訳じゃねぇからな。同じ礼なら、俺は口よりこっちの方がありがてぇ」
「…うん。そうね」
可笑しそうに口の端を引き上げながら、手に持ったお酒の瓶をチャプンと揺らしたMr.ブシドーに、四年前と変わらない雰囲気と、Mr.ブシドーらしさを感じた。
そのらしさがやけに嬉しい。
見た目も雰囲気も渋さを増して、すっかり大人の男になってるのに、時々四年前のまだ少年の域にいた時の表情と雰囲気が戻る事に、懐かしさに似た嬉しさを感じる。
お酒の栓を親指で開けて、そのまま煽ったMr.ブシドーに、なら本題に入ろうと、Mr.ブシドーの口から瓶の口が離れるのを待った。
「ああ、マジでいい酒だ。文無しの身でこんな酒が呑めるとはな」
「…ねぇ…Mr.ブシドー…?」
「ん…」
お酒を飲んだ後の言動すら四年前より落ち着いたMr.ブシドー。
あの頃から四つ重ねた歳と、冒険の数々で人生経験も積んできたのか、私が船に乗っていたあの頃にはなかった独特の雰囲気を感じる。
そのMr.ブシドーに、ナミさんが言っていた事を確認しようと、片方刀傷がついて塞がったままのMr.ブシドーの目を見つめた。
「単刀直入に訊くけど…いい?」
「なんだよ。俺達は仲間だろ。四年振りだからって今更遠慮する事なんざねぇよ」
「ん…、そう…ね。じゃあ言わせてもらうけど…」
仲間の言葉は嬉しいけど、やっぱりMr.ブシドーとはどこかにちょっと隔たりがあって。
私が船にいた頃彼とも親しくはしてたけど、それでもやっぱり一番私から遠くにいる気がしてたのも彼だから。
だからまだちょっと遠慮はあるけど、承諾が出たからはっきり訊いてみようと思った。
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