─海賊姫─

□料理
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「腹が減ったな…」
甲板での退屈しのぎのババ抜き最中、太陽はほぼ真上に来て、てめぇの腹時計が正確に昼飯を告げる。
「じゃあご飯にしましょ。今日はなんの缶詰めがいい?。お肉?、魚?」
(…………)
食料庫に缶詰めを取りに行こうとしながら振り向いて訊いてくるビビ。
てかなんで缶詰めなのか。
食料庫にゃ生の肉や魚もある。
だってのに、この船を手に入れてから食ってるもんと言やぁ毎日缶詰めで。
「なぁ」
「なに?」
「あの貯蔵庫の生肉も魚も早く食っちまわねぇと腐るぞ。いくら冷蔵になってるからってもよ」
「ん…それもそうね。じゃあ今日はステーキにする?」
「お、いいじゃねぇか」
「じゃあ取ってくるわね」
久し振りにちゃんとした飯が食えそうな事に、焼きたてのステーキを想像して適度に腹減りが増した。
「はい。じゃあMr.ブシドー、後はお願いね」
「あ?」
肉を取って戻ってきたビビがなんでか飯場兼台所に向かわねぇで俺の前に戻ってきて。
訳の解らねぇ言葉と共に差し出してきた肉をつい受け取りながら、怪訝な気分が湧いた。
「あ?じゃないわよ。早く焼いてくれないと、私もお腹すいたんだから」
「…ちょっと待て。俺が焼くのか?」
「そうよ?」
「…………」
まるで俺が焼くのが当然みたいな顔で言ってきやがったビビに、なんで俺が焼かなけりゃならねぇんだと納得がいかねぇ。
「そうよじゃねぇだろ。飯は女が作るもんだ。おめぇが焼くのが当然だろ」
「んっ」
つい受け取っちまった肉を返そうと、ビビの前に突き出したら、
「なによその男尊女卑な考えっ。男だってご飯ぐらい作るでしょっ?」
それを受け取らねぇかわりに、剣幕の浮かんだ顔が返ってきた。
「それに私は船長なのよっ?。Mr.ブシドーはクルーなんだから、Mr.ブシドーがご飯作って船長の私に食べさせるのが当たり前じゃないっ」
「ああ!?。冗談じゃねぇ!。俺はそんな女みてぇなマネはしたくねぇんだよ!。船長だろうとおめぇは女なんだからおめぇが作れ!」
「#。なに!?、その言い方!!#。──じゃあジャンケンしましょ!!。負けた方がこれからずっとご飯作るのよ!?」
「ん、おし。その条件飲んだ」
ジャンケンならイカサマも出来ねぇ、頼れるのはてめぇの運のみ。
これ程公平な勝負はねぇ。
「よ「おーし。ジャンケン──ホイ!!!、ホイ!!!、ホイ!!!」」
「っしゃあ!!!」
三回目で勝負が付き、肉を片手にてめぇの出した拳をそのままガッツポーズに変える。
「みろ。俺に勝とうなんざ百年早ぇんだよ」
「〜〜〜〜〜っっw」
自分の出したチョキを悔しげに見るビビ。
口をへの字に曲げ、かなり釈然としねぇ顔つきだが、文句は言ってこねぇ。
「──解ったわよ!!w、作ればいいんでしょ!?、作れば!!」
俺から肉を引ったくって、かなりヤケクソにドカドカと飯場に向かっていったビビが、飯場のドアを思い切り叩き閉めた。

「出来たわよ!!?」
(ん)
結構経ってから呼んできたビビに、久し振りに缶詰めじゃねぇ肉にありつけると、不機嫌そうに仁王立ちで立っているビビがドアを開ける飯場に向かった。
「…………」
飯場に入ってすぐ目に付いた、皿に乗った何かに足が止まって。
真っ黒に変色しているその物体が、皿に乗ってる事から何となく肉だって事は解った。
解ったから茫然とした。
それが全く肉に見えねぇから。
「ほらMr.ブシドーなに突っ立ってるのよっ!。ステーキ食べたかったんでしょっ!?。早く座って食べなさいよっ!」
「…お前…、ありゃなんだ…」
背中を押してくるビビに、だが足を動かさず、テーブルに二つ置かれた皿と、その上に乗る黒焦げの物体を指差しながらビビを見た。
「なにってステーキじゃない!!。なにか文句あるの!?」
「…………w」
どう見てもステーキにゃ見えねぇそのブツをステーキだと言ってくる憤慨するビビから、再度皿の上の黒焦げの物体に顔を向けた。
「いいから早く座って!!。食べるわよ!?」
(…………w)
ぐいぐい背中を押して来やがるビビに、仕方なく足を踏み出して、皿の置かれたいつも座る、自然に定位置になっている場所に座る。
「…………w」
目の前の肉…と言っていいのかも解らねぇまでに焦げた肉。
それを見ながら、取り敢えず焦げた部分を落とそうとフォークを持って肉に近付けた。
"サクッ"
「!?w」
手に来た感覚とその音に、思わずありえなさを感じた。
(炭化してやがる───w)
どうやりゃ油のある肉がここまでなるのか、まるで焼き過ぎた食パンみてぇな焦げ具合に、信じられねぇながらもフォークの縁で焦げを削っていく。
「────w」
出てきた肉部分。
生。
ミディアムレアなんてもんじゃねぇ、完全に生。
「…………w」
それを見ながら、前に座るビビに目を向けた。
「…………w」
俺と同じく焦げた部分をフォークで削って、剥き出しになった生の肉を見て困惑の顔をしてやがる。
「……お前…、料理した事ねぇのかよ…w」
「わっ私は海賊の姫なのよ!?w。料理なんてする筈ないじゃない!!w。給仕してくれるクルーはちゃんといたしっw」
「…………w」
返してきた言葉に、そういや握り飯の件でも飯を炊いたこたぁねぇと言っていたのを思い出す。
「いっイヤなら食べなくてもいいわよ!!w⊃⊃。な…生肉なんて食べたらお腹壊しちゃうかもしれないし…っ⊃⊃」
「………w。おい?w」
まぁ俺は生肉でも食えりゃ構わねぇが、失敗した料理に完全に開き直ってやがるビビに困惑していると、ナイフとフォークで肉を一口大に切ろうとしているビビに、何してんだと声が出た。
「ご…ご飯残すのはよくない事だもの…w。命をくれた動物の為にもちゃんと食べないと…w⊃。それに船じゃいつ食べられなくなるかも解らないから、お米の一粒でも無駄には出来ないんだから…w」
「…………」
「それにこれは私が作ったんだから、責任持って食べなきゃ…w。でもMr.ブシドーは食べたくないんなら残していいわよ?w。ちゃんと私が食べるからw。…また缶詰めになっちゃうけど…w」
「…………。(…たく)」
「………w。あ…w」
席から腰を上げて、血が染み出ている肉を切ろうとしているビビの前から皿を取り、てめぇの分の皿も持って調理台に体を向ける。
「Mr.ブシドー…?⊃」
(…………)
声を掛けてきたビビを振り向くと、ビビは困惑の表情を浮かべて俺を見上げていて。
「…俺は生でもなんてこたねぇが、おめぇこそ腹でも壊されたら厄介だからな」
その顔から顔を離して、調理台に足を進めた。
「…捨てるの?w⊃」
後ろから訊いてくるビビに、フライパンを取ってコンロの上に置いて、火を点ける。
「焼き直すだけだ。おめぇに比べりゃ俺がやった方がまだマシだろうからな」
海に出てから、腹が減りゃあ動物狩って焚き火で焼いて食ってたが、あそこまで煤(スス)にしたこたぁねぇ。
「出来ねぇなら出来ねぇと先に言え。そうすりゃ俺だって無理にやらせたりゃしねぇんだからよ」
「………だって悔しいもん…。出来ない事認めるの……」
「…………。バカ」
不貞腐れた表情を俯けながら、口を尖らせて言ってくるビビのその態度がガキ臭さを感じさせて。
湧いたのは、仕方のねぇ呆れ感。
「俺達ゃ仲間で船長とクルーだろ。出来ねぇ事は互いにフォローし合っていくのが仲間じゃねぇか」
「………Mr.ブシドー……」
「だろ?。船長?」
「………。うん」
不貞腐れていた顔が俺の言葉に茫然として。
焦げを切った肉をフライパンに乗せながら確認すると、納得した笑みが戻った。
「じゃあご飯食べたら洗濯お願いね。部屋に結構溜まってるの」
「はあ!!?」
いきなり脈略のねぇ話になったビビのその言葉に、なんで俺が突然そんな事頼まれてんのか解らねぇで。
「だって私洗濯なんてした事ないし。あ、あとトイレ掃除もお願いね。ん、そうだ、ついでにお風呂掃除もMr.ブシドーの当番ね?」
「〜〜〜〜〜」
どこまで甘やかされて生きて来やがったのか、雑用全部押し付けて来ようとしてきやがるビビに、腹から怒りが湧いてくる。
「フザけんな!!!#。なんで俺がそんな事しなけりゃならねぇんだ!!!#」
「なによ!!!、今、出来ない事はお互いフォローし合っていくのが仲間で船長とクルーだってMr.ブシドーが言ったんじゃない!!!。私はした事ないんだからやり方知ってるMr.ブシドーがしてよ!!!」
「洗濯やら風呂洗いやら便所掃除くらいした事無くてもやり方くらい解るだろ!!!#w。何でもかんでも俺に押し付けんじゃねぇ!!!#w」
「イヤよ!!!、雑用する船長なんて聞いた事もないわ!!?。そういうのはクルーであるMr.ブシドーの仕事なの!!!。船長の私がする仕事は船の舵向きを決めたり状況判断する重要な事だけ!!!」
「〜〜〜〜〜っっ!!!」
言った事に悉(ことごと)く返して来やがるビビに、それ以上どう言やいいか言葉が出ねぇで。
なんでこんなじゃじゃ馬と組んじまったのか、腹の底からてめぇの選択に後悔しながら、真っ向から反論してきやがるビビを見ながら歯噛みする。
だが組んじまったからにゃあ今更手も引けねぇ。
こんなガキ一人ほっぽらかして船を降りたら、後が気になって大剣豪どころじゃなくなる気がする…w。
「〜〜〜〜〜w。くそっ!!w」
今ですら冗談じゃねぇ台所仕事してるってのに、これからのてめぇがどれだけ男のプライドを曲がらされるか考えると、こんなじゃじゃ馬女に付いた事を心底後悔しながら肉を裏返した。


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