─海賊姫─

□鯛
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「おおお!!!」
久し振りにした釣り。
そこに来たでけぇ当たりに力任せに釣り上げると、糸の先に食いついてやがったのは全長一メートル程の立派な鯛で。
丁度昨日買い出しに寄った町でいい米酒が手に入っていた所にきた最高の肴に、その鯛を手に飯場兼調理場に向かった。
「サラ!!。居るか!?。おう、居た居た」
喜び勇んでドアを開け、航海日誌をつけているビビと共に飯場に居た、今日の晩飯を作っているサラに近寄った。
「どうしたの?、Mr.ブシドー。わっ、すごい大きな鯛っ」
「だろ?。サラ、こいつ刺身にしてくれ、活け作り。米酒の肴にゃ最高なんだ」
「きゃあっ!w」
どんと、空いたまな板に置いた魚。
その魚がビチビチビチッと勢いよく跳ねた。
途端にサラが包丁持ったまま体をすくませて。
「あ?。なんだ?」
そのサラの反応に、寄ってきた横のビビと疑問の顔をサラに向けた。
「わっ私っ、生きた魚は怖くてっ⊃⊃。ビビさんお願いっ⊃⊃。代わってくださいっ⊃⊃」
「ええっ!?w。私っ!?w」
「おう、丁度いいじゃねぇか。料理の腕磨きに捌いてみな」
「う…w。…解ったわよw。じゃあ…w」
サラの頼みと俺の言葉に渋々了承して手を洗い、サラから包丁を受け取って、まな板の前に立ったビビ。
さすが魚自体は平気で、ビチビチと跳ねる魚の頭に手を置いて、包丁の先を鰓元に持っていく。
「エ…エラを先に取るのよね…?w」
いつも魚の血抜きをするのは俺だから、俺に目だけを向けて訊いてくる。
「いや、もうすぐに食うからそのまま頭落としちまえばいい」
「……わ…解った…w」
魚に目を戻した横顔は真剣で。
頬に汗まで浮かばせて、魚を見ているビビ。
「……そんな緊張しねぇでも一息にドスンといっちまえばいいんだよ」
「解ってるわよっ!!w。口出ししないでっ!!w」
「…………w」
くわっと噛みつきそうな勢いで言ってきたビビのその剣幕に、そんなに力む事か?wと言葉を無くし。
「…………………w」
魚と睨み合う事十数秒。
「…………w。やっぱり出来ない!w。Mr.ブシドー代わって!w」
「はあ?w」
いきなり俺に向いて、包丁の持ち手を俺に向けてきたビビに、思わず片眉が傾いた。
「おめぇは触れてるだろw。なんで出来ねぇんだよw」
俺に強引に包丁を渡して、背中を押してまな板の前に連れてくるビビを振り向きながら訊くと。
「だってかわいそうじゃない!!w。生きてるのよ!?w。魚は痛覚がないから痛みを感じないって言うけど、ほんとは痛いかもしれないしっ!!w」
「…………w。あのな…w」
仮にも海賊が、しかも海賊王の夢を掲げた人間が、命を奪う事を躊躇ってやがる事に呆れ果て。
「…………。(………は…)」
だが同時に可笑しさとは違う笑いが出る。
こういう所は女、ってか女らしい。
優しさ。
魚にまでそれを持って、そして向ける。
それがやけにこいつらしく思えて。
「…仕方ねぇな。今回だけだぜ。手本見せてやるから、ちゃんと見てろよ」
しょうがなく笑いながら、魚の首に包丁を入れる。
瞬間、魚がビクンと跳ね、ビチビチと跳ねる勢いが増した。
魚の痛覚なんざ考えた事も無かったが、こうして見るとマジで痛がって苦しんでるみてぇで。
(ま、仕方ねぇな)
人間に捕まったのがこいつの運の尽き。
捕らわれて調理されている今のまな板の上の魚に同情なんてもんは湧かねぇが、せめて一秒でも早く苦しみから解放してやろうと、手早く頭を切り落とす。
「どうだビビ。魚の頭はこうやって―――って、見てろよ!!#、おめぇの為にやってんだから!!!#」
横を見ると居ねぇビビを探して振り向くと、調理台から遠く離れて手で顔を覆ってやがるビビ。
「〜〜〜〜〜w。たく…#w」
それに呆れながら、魚の腹も捌いてはらわたも削ぎ出す。
「ほれ、サラ。後は出来るだろ。俺は三枚おろしなんざ出来ねぇからな」
「あ…w、はいw。ありがとうございましたw」
一応濯いだ包丁をサラに渡して、魚の血とにおいの付いた手を洗い、飯の時間まで昼寝でもするかと飯場を出た。

「おいしー∨」
捌くのは可哀想とかって言ってた割にゃ、刺身になりゃあ満面の笑みで食ってやがる事に、"可哀想"ってなんだかなと思う。
その一方で生きてた魚を怖がって捌けなかったサラの作った刺身は、流石は料理の腕は一流料理人のごとく、完璧な造りに出来上がっている。
この料理の腕をこいつも身に付けちゃくれねぇかね…と、片付けの手伝いはしてるが料理の手伝いにゃ全く手を付けねぇ、俺の酒の肴を横からちょこちょこさらって行きやがるビビを見ながら、内心で溜め息を吐いた。


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