─海賊姫─

□トライアングル
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「ん。船だな」
「海賊船ね」
たまたま甲板に出てる時に見えた船。
デカくはねぇがそのマストの上にゃあ海賊旗がはためき、船体にも数砲砲台が見える。
「ん」
こっちに気付いてんのかと見てると、いきなり大砲撃って来やがって。
「!!、ちょっと!!。私の船に傷付けないで!!#。!、Mr.ブシドー」
相手に怒るビビの横で手摺りに乗り、飛んできた弾をぶった斬る。
「丁度いいカモだ。食いもんも金も少なくなってきたからな。あいつらから奪い取るぜ」
「…うん」
「サラを飯場から出させるな。あいつが出て来ると余計な仕事が増えるからよ」
「解った」
サラに言いに向かったビビから、近寄ってくる船に目を戻す。
サラを船に乗せてから最近平和な日が続いてたが、やっぱりそんな日もあんまり続くと体が鈍(なま)る。
「久し振りに暴れるぜ。準備はいいな」
腰の和道と後の二振りに言い、和道を抜く。
口に和道を、二振りを手にした時、ビビが飯場から戻ってきて。
刃の蛇を伸ばしたビビと、獲物を待ち構える。

ちぃとは歯応えがあったがやっぱり体の鈍り抜きにゃ物足りねぇ連中をノシた後、戦利品として食料や金、金になりそうな財宝をビビとウォーターブルー号の甲板に移し積む。
(、)
「!!w」
妙な気配を感じて、肉を積み込むビビからその気配の方に顔を向けると、船壁に凭れて座る男が瞬間後ろに手を引っ込めた。
「今何隠した?」
「なっ、何もっw⊃⊃」
「…………」
「ひっ!!w」
刀を抜いて切っ先を男の喉スレスレに向けると、情けねぇ声を出して喉を反り返らせた男。
「隠すと為にならねぇぜ?。せっかく軽傷ですんだのに、余計な怪我はしたくねぇだろ?」
「は…はひ…w」
みっともねぇ様子で喉を反り返らせる男が後ろから出した手にゃ、やっぱりさっきちらりと見えた、掌サイズの小型の鉄砲。
それを震える手で差し出してきた。
「ふむ…」
受け取ったその銃は軽く、使い心地を確かめてみようと、その銃口を男に向けてみた。
「Mr.ブシドー!!?」
後ろでビビの驚愕の声が聞こえたが、構わず引き金を引く。
小気味いい発砲音と、手に伝わったのはある程度しかねぇ軽い衝撃。
こりゃあいいと、顔の真横に試し撃ちの弾が当たって、穴が開いた壁を強張った顔で横目で見ている銃の元持ち主に背を向けた。
「おし。金も食料も手に入ったし、行くぞ」
その銃を腹巻きに突っ込んで、最後の肉の塊を肩に担いでビビを呼ぶ。
「…その銃どうするの…?w」
俺の横を、くだもんの入った木箱を持ちながらついてくるビビが訊いてきて。
「サラに持たせる。撃った衝撃も軽ぃから、あいつでも扱えるだろ」
「サラさんに?」
それに答えたら、ビビの顔からちぃと表情が抜けた。

私じゃ持てなかった大きなお肉の塊を軽々と肩に担いで歩くMr.ブシドーを見上げる。
「何かあった時の為にな。あいつは武器なんざ持ってねぇし、剣なんかも使えねぇだろうしな。銃なら威嚇射撃くらいでも使えるだろ」
「……随分サラさんの事気に掛けるのね…」
つい言っていた。
あんまり人に関心を持たない、あまり気遣う事も少ないMr.ブシドーが、サラさんの身を気に掛けている。
(……まさかMr.ブシドー…)
サラさんの事、好きなんじゃ…。
言ってからそう気付いた。
サラさんが好きだから。
だから気に掛けている。
「あいつは女だからな」
「…………」
私も女なんだけど…。
でもあんまり気に掛けてもらった事なんてない。
優しい言葉の一つも、労りの言葉一つもMr.ブシドーに掛けてもらった事ない。
Mr.ブシドーを仲間にして二ヶ月経つけど、Mr.ブシドーから女の子らしい扱いを受けた事、私はない。

「………ふう…」
今日の航海記録と日記を書き終えて、閉じた日記の上に体を伏せてついた溜め息。
日誌を書いていて、今日の昼の事を思い出して。
今日一日のMr.ブシドーの様子を日記に書いて。
今まで気付かなかったけど、意識して見てみて、解った。
サラさんが、Mr.ブシドーを好きなんだと言う事。
今日一日Mr.ブシドーを見ていて、そうしてたら、いつもサラさんが視界に入ってきていた。
トレーニングが終わったMr.ブシドーにタオルを渡して。
飲み物も用意して。
銃を渡された時も、驚いて、少し怖がって銃を手に取るのを躊躇っていたけど、Mr.ブシドーの『それ持ってりゃ俺も安心だ』の言葉に、頬を染めて、はにかみながら少し嬉しそうに笑みを浮かべてその銃を受け取った。
「…………」
そして、サラさんに接する時のMr.ブシドーも。
…笑ってる。
私にはからかうみたいな笑いや、茶化すような笑い、怒ったり呆れたり、そんな顔はするけど。
サラさんに見せる顔は、私に向ける顔とは違う…気がする。
素直な笑顔。
ありがとうよと、素直なお礼の言葉と、どこか嬉しそうな顔で笑って。
「…………」
仕方ない……。
サラさんは優しいから。
綺麗で女らしくて。
私から見てもすごく魅力的な、女性らしい素敵な人。
だからMr.ブシドーが惹かれても仕方ない。
…私とは違う。
よくパパやイガラム、チャカやペル、船のみんなから、おてんばだって。
もう少し、女の子らしい振る舞いを身に付けなさいって。
それじゃ男の子だって。
そう言われながらも、私は海賊の娘なんだから、海賊王になるのが夢なんだからと、そのままの自分で生きてきた。
だから今更女の子らしくなんて出来ない。
どんな事が女の子らしいかなんて解らない。
「…………」
もし今から女の子らしい事をして、女の子らしくなった私を見たら…。
Mr.ブシドーはどう思うだろう…。
……きっと呆れ返るわね…。
頭でもおかしくなったのかって、唖然とした顔できっと言う。
どっちにしろサラさんには勝てないんだ…。
(……バカみたい……)
サラさんと張り合おうとしてる。
あんな素敵な人に勝てる筈なんてないのに。
(………Mr.ブシドー……)
祝福しなくちゃ。
Mr.ブシドーに好きな人が出来た事。
願わなくちゃ。
サラさんとMr.ブシドーが両想いになれる事。
(……胸は痛いな……)
何となく気付いてた。
自分がMr.ブシドーの事好きになってる事。
そして自覚した。
本当にMr.ブシドーが好きだった事。
(………おめでとう…Mr.ブシドー……)
胸は痛いけど。
Mr.ブシドーに好きな人が出来た事。
祝福した。
(…………)
Mr.ブシドーのあの広い背中が離れていく気分になりながら。
胸の痛さを感じながら。
私に向く事はないMr.ブシドーの事を諦めようと考えながら、静かに目を瞑った。

「おいビ……」
おやつ食うかと呼びに船長部屋のドアを開けて。
机に伏せて寝てやがるビビが見えた。
「…………」
今日はちぃと肌寒いってのに、薄着のままで。
起こそうかとも思ったが、そのまま寝かせておくかと、ソファーに掛かっている上着を取って背中に掛けて部屋を出た。

「ん……」
目が覚めたら朝だった。
そのまま眠っちゃったらしい。
「ん…」
背中に上着が掛けられてる事に気付いた。
(サラさん掛けてくれたんだ…)
それをしてくれたんだろうサラの優しさを改めて感じる。
(優しいな…サラさん…)
優しくて女の人らしくて。
あんな風な人に私もなれたら、Mr.ブシドーもちょっとは振り向いてくれるだろうか。
(…………)
ダメだ。
昨日諦めると考えてたのに、やっぱりMr.ブシドーの事考えてる。
やっぱり忘れられない。
諦めなきゃいけないんだろうけど、私はMr.ブシドーが好きだから。
これからも、この先もずっと。
きっと私はMr.ブシドーを想い続けてる。


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