─海賊姫─

□傷
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「…つ……」
傷がジクジク痛みに疼きやがる。
鷹の目に敗れてから四日目。
奴に斬られた傷は熱を持って、その熱がそこから広がってくる感覚。
「…ち…」
捲り上げたシャツの下に巻いた包帯。
黄色と赤の汁を吸って変色している。
あの日の翌日から既に膿みかけていた傷は、この二日で完全に膿みやがった。
「…はあ……」
体が熱ぃ。
ダルい。
飯を食えば治ると思って、あいつらに体調の異変を気付かれねぇように、食う気は起きねぇがいつも通りを装って飯を食った。
寝てるのはいつもの事。
だから不審がられる事も無く。
寝てりゃ治ると、体調も崩れた二日前から日課の筋トレも程々に甲板に寝そべってたが。
一向に良くならねぇ。
むしろ悪化してくる。
(………………)
日の下で寝てるのが体の熱を上げる要因かと、部屋で寝ようと上半身を起こそうとした。
「?」
体が鉛みてぇに重い。
ダルいとはまた違うような倦怠感。
「〜〜〜〜〜っっ」
それでも腕に力を入れて、体に力が入った事で響くみてぇに痛みが増幅した傷の痛みをこらえながら、上半身を持ち上げる。
「!?」
瞬間世界が回った。
体が重く、腕からも力が抜けて、支えられねぇ。
「っぐあっっ!!!」
また仰向けに倒れた。
その背中を打ち付けた重い衝撃が傷に響いて、傷が開いたんじゃねぇかと思った程の激痛が走り。
「がああぁぁ……」
その痛みに体が強張り、声が出る。
「…は…っ……はぁ…っ…。…ビビ……」
手を借りようとビビの名を出し、喉を反らして飯場のドアに顔を向けた。
「…はぁ………はぁ……っ…」
そこで思った。
ビビも、そしてサラもまだ飯場に居る。
だがてめぇの今のこの姿を見せりゃあ動揺させる。
何より傷の事がバレちまう。
サラは俺の口止めを守って、あいつには言ってねぇ。
そしてあの二人は、平静を装ってた事が効を奏して、二日前から俺の調子が悪ぃ事に気づいちゃいねぇ。
「…ふ…ぅ……は……」
この程度の傷に負ける訳にはいかねぇ。
俺は最強になるんだ。
最強の魔獣に。
世界最強の大剣豪に。
こんな程度の傷になんざ、負けてられねぇ。
「………っ…。ぐ……っ…!」
力を入れて寝返る。
傷が痛み、体がダルく、寝返り一つにも一苦労で。
「はあ……。くっ…!!」
一旦息を吐き、床に着いた腕と体に力を込めて上半身を上げる。
視界が回り、傷が痛み、腕にも力が入らねぇが、気力で体を支え、目を固く瞑って頭の回りが治まるのを待つ。
再度開けた時にはしっかりと静止していた世界。
(よし……。つっ…!)
横のマストに手をつきながら、根性で体を立たせる。
傷の疼きが増し、一旦マストに凭れてから、息を吐く。
普通に振る舞え。
普通に振る舞え。
てめぇに言い聞かせ、気合いを入れてマストから体を離す。
穏やかな波の揺れにさえバランスが崩れてよろけそうになり。
それを足に力を込めて踏み止まり、すぐそこにあるってのにやけに遠く感じる飯場に向かって足を進める。
一応部屋で休む事を言っとかねぇと、何かあった時呼ばせに来させねぇといけねぇ。
昨日入ったこのグランドライン。
この海にゃ、イーストブルーに居る海賊より更に腕のある荒くれがひしめいている筈だ。
そいつらに関わる事になった時、今のてめぇの状態でも、あいつらは護らねぇと。
せめてビビが自由に動けるように、サラだけでも俺が引き受けねぇと。
それが俺の役目だ。

「…ビビ…」
「?」
サラさんと喋りながら食後の紅茶を飲んでいると、ドアが開いて。
立っているMr.ブシドーが私の名前を言った。
でもなんだかその声に力がない。
「部屋で寝てる…。…何かあったら呼べ…」
「え…?」
力無い声。
そしてわざわざ部屋で休む事を言ってきた事に、思わず声が傾いた。
「ゾロさん…?」
「Mr.ブシドー…?。どうしたの?」
顔が赤い。
目もどこか虚ろで、息の仕方もなんだか浅く大きい。
「Mr.ブシドー?。?………」
近寄った時、Mr.ブシドーが体を引いた。
ほんの僅かだけど、確かに体を引いた。
「…………。Mr.ブシドーっ?。!」
何かある。
そう思って、咄嗟に触った腕がすごく熱くて。
熱がある、そう思って額に当てた手にもひどい熱さが伝わってくる。
「熱があるじゃない!!。どうしたの!?。それより解ったから休んで!!。サラさん!、手を貸して!」
「ええっ!」
「…構わねぇ…一人で歩ける…。じゃあ何かあったら呼べよ…」
サラさんを呼んで、二人で部屋に連れて行こうとした私の手を振り解いたMr.ブシドーが、ふらりとキッチンを出て行こうとする。
(…………)
歩き方がなんだかおかしい。
一歩一歩踏み締めるみたいに歩いている。
それでも普通に歩こうとして見せてるみたいで。
何でもない事を装っている。
「!。Mr.ブシドー!!」
そう解った時、軽く揺れた船に、Mr.ブシドーの体が大きく傾いた。
「っ!、大丈夫!?、Mr.ブシドー!!。サラさん手を貸してっ!!」
「えっ、ええっ!!⊃⊃」
咄嗟に走ってMr.ブシドーの体を支えて、走ってきてMr.ブシドーの向こう側の体を支えたサラさんと、船員部屋にMr.ブシドーを連れていく。
(……Mr.ブシドー……)
なんだか普通じゃない気がした。
体の熱は高い。
でもそれ以上に体調が悪いように感じる。
熱がある事が解った後も何でもない風を装おうとした事。
ただのプライドなのか、私達に心配掛けさせない為なのか。
それとも普通を装わなければならない程体調が悪いのか。
ドアを開けて、足元に転がるお酒の空き瓶やダンベルを足で避けて、ベッドにMr.ブシドーを横たわらせた。
「いっつ!!」
「!!?」
布団を掛けようとした時、体に手が触れた瞬間、Mr.ブシドーの体が跳ねたと同時に痛みを訴えて。
(傷!?)
手が当たったのは、あの鷹の目に斬られた箇所。
あの傷が原因、そう思って。
「Mr.ブシドー!、傷見るからシャツめくるわよ!?」
腹巻きをずらして、シャツの裾に手を掛けた。
その時、Mr.ブシドーの手が私の手首を掴んできて。
「何でもねぇ…っ!。いいから触るな…っ!」
怒りに似た顔付きで私を見てくるMr.ブシドー。
その汗にまみれた顔は、苦痛に表情が歪んでいて。
傷を隠している。
それがその顔と態度から読み取れた。
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