─海賊姫─

□鷹の目
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「だいぶ近付いてきたな」
「ええ。そろそろ食べ物が尽きる頃だったから、助かった」
「あ…。ねぇ見てビビさん、ゾロさん。すごく大きな船」
「あ?」
「わぁ、ほんと」
鮮明に見え始めてきた島の影をビビと見ていた時、後ろで洗濯もんを干していたサラの声がして。
振り向くと、サラが指を指す方、わりと近くにデケぇ船があった。
「ガレオン船だな」
その船がある方に移動して、横に居るビビが柵に両手を着いた。
「海賊旗が見えるから海賊船ね。かっこいい。あんな船もいいなぁ〜」
「…おめぇな…w。、。!!!!」
「えっ!!?」
「船が!!」
このウォーターブルー号を手に入れてまだ二ヶ月ちょいだってのに、もう他の船に目移りしてやがるビビに呆れた時、一瞬感じた気配。
その一瞬、いきなり目の前のガレオン船が真っ二つに割れた。
あんなデケぇガレオン船がいきなり。
「っ!!?」
「きゃあっ!!」
「サラさん!!」
信じられねぇ程の、斬撃のもんみてぇな衝撃波と、その衝撃波に吹き飛ばされて、割れたガレオン船が倒れ込んで上げた波がここまで届いて。
船が大きく煽られて、その揺れに体を支えきれねぇサラを支えてしゃがんだビビをサラごと腕に捕らえて、柵を掴んで煽りに揺れる船が落ち着くまで二人を掴み支える。
(………、あれは…!!?)
ようやく治まってきた波と揺れに、さっきの斬撃みてぇな衝撃波の正体を確認しようと、割れて海に浮くだけになっている沈みかけたガレオン船を振り向いた時、そこに見えた背中に十字の剣を背負った男。
(鷹の目――!!!)
噂に聞いた容姿に合致するその男に、心臓が大きく脈打った。
「…どうしたの…?、Mr.ブシドー」
「ゾロさん…?⊃」
「……鷹の目だ…」
「え?。…あいつが…?」
心臓が高鳴る。
期待に。
まさかこんなイーストブルーの海でその姿を見るなんざ思っても無かったが。
だがあれは間違い無く鷹の目。
(────)
あいつを倒せば、俺が最強。
世界最強の剣士。
くいなと誓った、ビビと誓った大剣豪。
「…ビビ」
「……行くの…?…」
「ああ」

「ここで逃がしたら、今度いつチャンスがあるか解らねぇからな」
「……うん」
舵輪に向かって舵を取ると、Mr.ブシドーの望みを後押しするみたいに吹いてきた風を帆が受けて、割られて残骸になって浮いているだけの船に船が近付いていく。
「行ってくる」
「うん…!」
船から飛び降り、半沈みの船に着地したMr.ブシドー。
その背中に滲む自信。
勝つ。
Mr.ブシドーは必ず。
「…………」
対峙するMr.ブシドーと鷹の目をサラさんと見守る。
手を出しちゃいけない。
息をする事すら憚られる程の重く鋭い空気。
Mr.ブシドーが腕の手拭いを解いて、頭に巻いた。
Mr.ブシドーの戦闘スタイル。
空気が更に張り詰めた。

目の前に立つ世界。
最強の剣士。
「鷹の目、ジュラキュール・ミホーク…」
「…………」
「俺はお前を倒す為に海に出た」
刀を抜き、切っ先を目標に向ける。
宣戦布告。
俺がてめぇを倒す。
てめぇを倒して、俺が世界になる。
「勝負しようぜ。どうせヒマなんだろ?」
気迫は充分。
だがその程度。
こんな男が世界最強の剣士なんざ、世界ってのは俺が考えていたより小せぇらしい。

「────?」
Mr.ブシドーと対峙する鷹の目の手が動いた。
胸元から取り出したのは、小さなナイフ。
刃渡り5cm程しかない、おもちゃみたいなナイフ。

「────」
ふざけやがって。
あんなもんで俺の相手をしようってのか。
──ふざけやがって…!!!。

「!!」
先に踏み込んだMr.ブシドー。
その刀が構えられた。
「鬼!!!」
(鬼斬り…!)
Mr.ブシドーの技の中で、Mr.ブシドーが最も得意とする、そして最強の技。
勝てる。
Mr.ブシドーが世界を倒す。
「斬り!!!。!!?」
(!!!)
止められた。
Mr.ブシドーの最強の技が。
あんな小さなナイフ一つに。

「────」
(…バカな……)
止められた。
止められている。
こんな玩具に、俺の鬼斬りが。
「────」
これが世界…?。
これが世界…。
バカな……。
こんな…こんな遠いわけがねぇ…!。
世界が…こんな遠いわけ…!!。
いくらなんでもここまで遠い筈がねぇ!!!。

「うあああああ!!!」
(――Mr.ブシドー…?…)
様子がおかしい。
なんだかがむしゃらに斬り掛かって。
さっきまでとはなんだか違う。
必死な感じがする。
余裕を感じない。

「ウエあああーーー!!!」
俺は鍛えてきたんだ。
世界最強を目指して。
「俺は勝つ為に!!!」
くいな。
「この男に勝つ為に!!!」
あいつとの約束を果たす為に。
「虎!!!」
『その代わりあなたも強くなってよ?。私が海賊王になってもあなたが今の強さのままじゃ、いまいち箔が付かないんだから』
──ビビ──。
俺は──。
「狩り―――!!!」
胸に突き立つナイフ。
喉から上がってくる血。
こんな玩具で。
こんな玩具で、刺されている。
「…………」
これが……世界。
世界最強の剣士…。
「――――っ…」
「何故引かん」
「…引かねぇよ…」
ビビ。
くいな。
「ここで引いたら…今までの約束とか誓いとか、大事なもんが全部へし折れて…、もうここへは二度と戻ってこれねぇ気がする……」
「そう」
「…………」
「それが敗北だ」
…敗北。
てめぇが負けるとは思って無かったが……。
(、)
抜かれた玩具。
「小僧、名乗るがよい」
「………。ロロノア・ゾロ」
「覚えておこう。久しく見ぬ心強き者よ」

「!!」
初めて見る構え。
風車みたいな、特異な構え。
「三刀流奥義……」
回転する刀。
風車が回る。
切れ味鋭い、刃の風車。
「三・千・世・界!!!!」
「!!!」
一瞬だった。
剣を交わらせた瞬間すら見えなかった。
粉々に砕けた刀。
両手に残るのは、柄の部分だけ。
砕けた刃が、Mr.ブシドーの周りに降り落ちる。

砕かれた刀。
これが世界の強さ。
ナメていた、世界の広さ。
この俺が…敗けた。
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