─海賊姫─

□サラ
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「あ、Mr.ブシドー!。島が見えるわ!」
「あ?」
見張り台の上から、下で洗濯してるMr.ブシドーに声を掛けると、手を止めて上を見上げてきたMr.ブシドーが立ち上がって私が指差す方を見た。
「ああ、助かった。ようやく魚以外の食いもんにありつけそうだ」
「ええ」
食料庫の食べ物はこの二週間の島も見つからなかった航海で底を尽き、四日程前からは釣った魚を食べていて。
「今度はどんな島かしら。大きな町があればいいなぁ」
「ああ。酒も昨日で切れちまったしな。旨い地酒でもありゃあ嬉しいぜ」
ニッと笑いながら島に向けて舵を取りに行ったMr.ブシドーが、戻ってきてまた洗濯の続きを始めて。
そのMr.ブシドーを上から見ながら、正面になった島に顔を向けて、今度はどんな島だろうとワクワクしながら望遠鏡を覗いた。
(?)
鳥が飛んでる。
海鳥じゃないらしく、島の上を飛び回ってる。
その下の島は、随分鬱蒼とした、まるで無人島みたいに木々がこんもりと茂っていて。
(〜〜〜〜〜∨)
ジャングル。
そう思って、ワクワクが更に大きくなった。
町はないみたいだけど、ジャングルなら大型の動物もいるだろうし、それを(Mr.ブシドーが)狩ればお肉は手に入る。
Mr.ブシドーのお酒は手には入らないけど、Mr.ブシドーは少しお酒飲む量が多いから、少しの間でも禁酒になっていいかもしれない。
(Mr.ブシドーには黙っておこう∨)
ジャングルで探検するのは大好き∨。
鬱蒼とした森、色んな動物や鳥や虫達。
考えただけでワクワクが止まらない。
でもMr.ブシドーにジャングルなんて言ったら、絶対上陸をやめるだろうから。
Mr.ブシドーはジャングルになんて興味ないだろうし、つまらないだろうし。
危険もない訳じゃないし、なによりお酒も手に入らない。
お肉が手に入るくらいの事じゃ目もくれず舵をそっぽに向けちゃうだろうから。
だから船が島に着くまでMr.ブシドーには黙っておこうと、洗い終わった洗濯を一纏めに絞ってるMr.ブシドーを見ながら、口を押さえて喉を鳴らした。

「………なんだよここは……」
船が島について、バーベルを持ったまま、船よりも高く茂った木々を見上げて言葉を漏らしたMr.ブシドー。
「…おめぇちゃんと見てたんだろうな……#」
「あははぁ?w。実はちょっとお昼寝しちゃって、見てなかったのw。まさかこんな島だったなんて思わなかったぁw」
横から、額にうっすら血管を浮き上がらせながら訊いてくるMr.ブシドーに、目を逸らしながらしらばくれる。
まさかこんな島だって知ってて来たなんてバレたら、なにを言ってくるか解ったものじゃない。
「………町もねぇ島なら行くぞ…」
(えっ!?w)
バーベルを置いて舵を取りに行こうとしたMr.ブシドーに焦って。
「でっ、でもお肉は穫れるかもしれないわよっ!?w。それに楽しそうだしっ!、あ…w」
「楽しそうだぁ…?#」
(ばれた…www)
Mr.ブシドーの腕を両手で掴んで止めたら、言った言葉に振り向いてきたMr.ブシドーのこめかみにはハッキリと怒りの血管が浮き上がっていた。
「おめぇ知っててここに来たのか!!!#」
「だってジャングル楽しそうだもの!!w。たまには冒険して刺激も欲しいしっ!!w。ずっと海の上に漂ってるのもつまらないじゃない!!w」
上から怒鳴ってくるMr.ブシドーに負けじと言い返して。

(くそ…)
結局上陸しちまった島を歩きながら、戻る時に目印になるだろうツタが左巻きに巻いている木を横目に見ながら、意気揚々と鼻歌交じりで前を歩くビビの後をついて歩く。
「ん…」
「?。どうしたの?、Mr.ブシドー」
微かに気配を感じて足を止めたと同時に、それに気付いたのか、ビビも足を止めて振り向いてきた。
「人間の気配がする」
「え?。人間?。こんなジャングルに?」
微かだが、だが確かに感じる気配を辿って、ジャングルの中を歩いていく。
(ん)
近付いてくる気配にしばらく歩くと、近付いていた気配がはっきりとして、目の前にゃ木の隙間から光が漏れている。
「開けた場所があるみたいね」
「ああ」
ビビも気付いたらしく、近付いてくる気配と光を目指し、すぐそこまで気配が近付いた。
「待て、ビビ」
「どうしたの?、Mr.ブシドー」
「見ろ」
「?。……あっ!」
顎で指し、そっちを見たビビが声を上げた。
まだ遠目だが、そこに見えるのは女。
薄紫の長ぇ髪の毛の、ビビより幾分年上に見える女が、後ろ手に木に縛られ座り込んでいて。
「女の人!?」
「誰!?。誰かいるの!?」
女を見ながら上げたビビの声に反応して、女がこっちを見てきた。
「〜〜〜〜っっ」
その顔は随分怯えてるみてぇで、向こうからは俺達がまだ見えてねぇらしく、ちぃとでも逃げようと、木に縛られてるってのに後ずさろうとしている。
「Mr.ブシドーは出てこないで。あなた顔が怖いんだから余計に怖がらせちゃう」
「───#w。悪かったな…、怖ぇ顔でよ…#w」
黙ってりゃなかなかの器量だってのに、所々で癇に障る事を言いやがるビビにちぃと歯噛みしながら、女の方に近付いていくビビを見据える。
「大丈夫よ。私達は怖くはないから。なにがあったの?」
「!。助けて!!。お願い助けてください!!。私海賊に捕まって!!。今日の夜宴会の見せ物に私を猛獣に襲わせて楽しむって!!」
「!!。なんですってっ!!?」
茂みの手前から訊いたビビに、相手が女だからか気を許して恐怖に涙を流しながら訴えてくるその女に、ビビが俺を振り向いてきた。
「Mr.ブシドー助けましょ!?。早く!!」
「待てっ!!。迂闊に出るな!!」
気配は感じねぇが、違和感はあって。
茂みから出て女に駆け寄るビビに、その後を追って走る。
「!。ビビ!!」
「きゃっ!!」
ビュッと何かが打ち出された音に咄嗟にビビの腰に巻いてる布を引っ張って引き戻した瞬間、今までビビが居た場所に銛が突き立った。
「宴会の余興に使うもんを不用心にこんな所に置いておく訳がねぇ。こりゃあこいつに獣が近付いた時の為のトラップだな」
「────」
俺の説明を聞いてんのか、唖然とした顔のまま固まっているビビをその場に置いて女に近付く。
「──」
銛が突き立つ場所まで行くと、また罠が作動する音が上から聞こえた。
だが獣除けの罠なら、外した場合を考えりゃ仕掛け一つな訳がねぇ。
その考え通り、案の定上から向かってくる音は複数。
それを斬り払って、地面に落ちたバラけた銛を尻目に女に近付いて、体の縄を斬る。
「ほれ立て」
俺にか罠にかは解らねぇが怯えてるみてぇな女に、手を差し出して立たせて。
「ほれ、おめぇもいつまでボケてんだ」
「あ…。う…うんw」
さっき引いた勢いのまま地面に尻を着いた、そのままの体勢のビビに手を下ろし、それに掴まったビビも立たせる。
「もう行くぜ。そいつらが戻って来たら面倒だ」
これ以上厄介事にゃ関わりたくねぇで、気配を感じねぇ今の内に島を出ようと、ビビを促す。
「うん、そうね。あなたも行きましょ。私達の船に」
「船…?…」
一応助けた女を置いていく訳にもいかねぇで、女の手を取って言ったビビに、女が小さく声を傾けた。
「俺達も海賊だ」
「えっ!!?⊃⊃」
「大丈夫よ。私達はそこら辺の海賊とは違うから∨」
「………⊃」
俺の言葉にびびって後ずさろうとした女。
その手を繋いでいるビビが笑いながら言うと、女がビビを見て、次に俺を見てきた。
「あなたの名前は?。私はビビ。ネフェルタリ・ビビよ。こっちはMr.ブシドー」
「え…、Mr.ブシドー…?…w」
一旦ビビを見た女が、次に疑問を浮かべた表情でまた俺を見てくる。
「あのな…w、おめぇの勝手につけた渾名を俺の本名にするなw。俺はゾロだ。ロロノア・ゾロ」
「…私はサラ。フィレンツェル・サラです」
「へぇ、なんか綺麗な名前。じゃあサラさんはどこから連れてこられたの?」
名を答えた女、サラにビビが訊くと、サラがふと顔を逸らした。
「連れてこられたのはこの近くにある島からです。私はグランドラインにあるウォリス・ナディという町に住んでいたんですが、このイーストブルーに遊覧に来て海賊達に捕まってしまって…⊃」
「遊覧ねぇ…」
また顔を戻して答えてきたサラの言葉に、この海賊が闊歩してる中遊覧とは、なんとも暢気なご身分だとちぃと呆れの感を感じた。
だが確かにサラからは、いかにもいいとこのお嬢さんっつうか、深窓の令嬢って雰囲気しか感じねぇ。
「ねぇ、Mr.ブシドー」
「ん…」
「どうせ私達もグランドラインを目指すんだから、そのウォリス・ナディの町までサラさんも乗せてあげない?」
「…………」
俺達は海賊で。
サラどころか、こっちが狙われる事も当然あるだろうし、そうなりゃサラみてぇな自分の身を護る術も知らなさそうなお嬢様は足手纏いにしかならねぇんだろうが…。
「………。…ああ、おめぇの好きにしろ。船長はおめぇだ」
どうせ止めてもこいつが言う事聞く筈がねぇし、説得すんのも言い合いになんのも面倒だと、ビビの言葉に同意した。
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