─海賊姫─

□船
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「なあ」
「なに?」
海の上。
久し振りの波の揺れ。
それを、船の上に寝そべる体で感じながら、小舟の船長に声を掛けると、すぐに返ってくる声。
「お前、行き先は決めてるのか?」
「ううん」
「ううんって、お前…w」
即答で返ってきた返事に唖然として、
「だって別に急ぐ旅でもないし。話じゃ海賊王ゴールド・ロジャーの残した財宝を手に入れた者が次の海賊王を名乗れるらしいけど、それがどこにあるのかも解らないし。まぁいつかその財宝を見付けられるまでは、海賊王に相応しい強さを身に付けながら、風の向くまま、気の向くまま旅をするのもいいかなって」
「…………w」
続いてきた言葉に、まぁそりゃそうだが、あまりに行き当たりばったり過ぎやしねぇかと、悠長な考えの船長に返す言葉も無く閉口する。
「Mr.ブシドーは?。どこか行きたい所あるの?」
「……俺はある男を探してる」
今度は逆に訊いてきたのんびり船長に、てめぇの目的を言った。
「ある男?」
「おめぇも海に居たんなら名前ぐらいは聞いたんじゃねぇか。…鷹の目みてぇな鋭い眼を持つ世界最強の剣士。通称鷹の目、ジュラキュール・ミホークって男だ」
「…名前は聞いた事がある…。世界中の屈強な剣士をその剣の腕でねじ伏せて、王下七武海の一人として頂点に君臨してるって…」
「そうだ」
さすがは大海賊の娘、そういう情報は持っているらしく。
そのビビを見ていた目を空へと向ける。
「その男を倒す。そして俺が世界最強の大剣豪になる。それが俺の『夢』だ」
「大剣豪…」
「ああ。それが俺のガキの頃からの夢であり、…死んだ親友との『約束』だ」
脇に寝かせた刀三振り、その中の和道に目を向ける。
あいつの刀。
あいつの形見のこの刀と共に鷹の目を倒し、俺の名、そしてあいつの…くいなの名を世界に轟かせる。
「…大剣豪か」
「…………」
「うん。海賊王の仲間ならそれくらい強い剣士が相応しいわよね」
「……くくっ」
やっぱり身の程知らずな物言いに、それでも言う事のデカさに笑いが漏れる。
「でもなんにしてもその前に船を手に入れなくちゃ。こんな小舟じゃ小さなシケでもひっくり返ちゃうわ…」
「確かに…。海賊の乗る船がこんなしょぼい船じゃな」
あれからたまたまこの木船を見付けて、救命ボートよりは見栄えは増したが、見た目も乗り心地の安定感も今イチなこんな小舟じゃ箔もクソもねぇ。
「……わあっ!。ねぇMr.ブシドー!。ほら見てあそこ!」
「あ?」
「すごく立派な船っ!。綺麗だし格好いい!」
ふいに息巻いて言ってきたビビの方を見ると、やけに感激して指差しているビビ。
その指先の先に顔を向けると、水色と白の二色のみで塗装された、海賊船仕様のキャラヴェル船があった。
船のスケールとしちゃあちぃと小さめだが、この手漕ぎボートみてぇなちゃちい船に比べりゃ申し分ねぇ立派さだ。
「いいな〜、私もあんな船欲しいなぁ…。でもお金ないし…w。到底作れないわよね…w」
「…………なぁ」
「なに?、Mr.ブシドー」
海賊のくせに随分まともなご意見を吐いてやがる船長に声を掛けると、羨望の顔で船を見ていたビビが顔を向けてきた。
「別に金出して作らねぇでも、奪い取りゃいいじゃねぇか。俺達ゃ海賊なんだから」
「え?」
「気に入ったんだろ?、あの船。だったらあれを貰やぁいい」
「そっそうか!!。そうよねっ!!。私達は海賊なんだもの!!。欲しい物は奪い取るのが当たり前よね!!」
体を起こして言った事に、思い出したみてぇに返してくるビビ。
「…………w」
「…………。でもやっぱり無理よ…w」
「あ?、無理?。なんで」
てめぇが海賊だって事に自覚があるのかちぃと疑わしく思いながら天然船長を見ていると、ビビが急に無言になって。
がっくりと頭を落として脱力するビビに首を傾げた俺の問い掛けに、バッと焦りと気まずさの混じった顔と声が返ってきた。
「だってあんな立派な船なのよ!?w。乗ってる海賊達だってどれ程強いか!!w」
船を指を指して真顔で必死に言ってくるビビに、
「…………w」
こいつがほんとにあの大海賊の三本柱の一人で名高ぇネフェルタリ・コブラの娘なのかを疑いたくなる。
だがまぁこいつはまだガキの域にいるしかも女だし、海賊に負けて船から逃げた経歴もあるから、慎重な考えになるのは仕方ねぇのか。
だが…。
「…おめぇ、何の為に俺を仲間にしたんだ?」
「え…?」
俺の存在を忘れてやがるみてぇなビビに、横に置いた刀達を腰に収める。
「いい機会だ。魔獣の実力ってのを見せてやる」
オールを握り、丁度停泊しているらしくそこから動いてねぇその船に船首を向ける。
「新入りのクルーから、これから世話になる船長に、一番最初のプレゼントだぜ」
むしろ世話をすると言った方がぴったり合うんじゃねぇかとも思うが、取り敢えずそれは口に出さずに目当ての船に向けて船を漕いだ。

「そこで待ってろ。すぐ済む」
どうやら他の船を襲撃して勝った後らしく、随分と機嫌良く騒ぐ声が上から聞こえいるその船に小舟を着けて、立ち上がりながらビビに言った。
「待って!」
「あ?」
「私も行くわ…!」
跳ぼうとした時ビビが止めてきて。
「これでも大海賊の娘よ。戦い方なら心得てる」
(…………)
真正面から向けてくる目にゃ、強ぇ光が宿っている。
「この船は今から私の船になるんだから、私の船は自分の手で奪うわ」
「……上等だ」
見た目は頼りねぇガキの娘だが、心意気、何より眼力の強さは本物で。
その意気に応えて、連れて行く事にした。
「なら行くぜ。打ち上げるから乗れ」
「え?」
刀を二振り抜いて、峰を上に揃えて構えると、ビビが目を丸くした。
「跳び上がらねぇと乗れねぇだろ。それとも跳び上がれる自信があるか?」
「ぐ……w」
「だから乗れ。安心しろ、おめぇを打ち上げたら俺もすぐ行く」
「…うん」
「よし行け!!」
峰に飛び乗ったビビを飛ばし、船の縁にバランスを崩す事も無く着地したビビ。
身のこなしはなかなかだ。
「ふっ!!」
波に揺れる小舟を足場に跳び、ビビの横に着地する。
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