─海賊姫─

□合意
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"くう〜〜〜〜"
「あ…/////w」
腹の虫が鳴く音と同時に女が腹を押さえ、顔を赤くする。
「……おめぇやっぱり飯食ってねぇのか」
海軍から拝借した救命ボートに寝そべって、ひと暴れした為にまた腹が減ってきたのをやり過ごしてると聞こえたその音に、足元にいる女に訊くと、
「だ、だってお金ないと何も買えないし、食べにも入れないじゃないっw」
焦りと気まずさの混じった顔をこっちに向けて力説で返してきた。
「……あの握り飯は。どっから調達した」
「う…w」
持ってきた握り飯の出所を訊くと、今度は気まずいだけの顔付きで、救命ボートの縁についた手に顔を向けて俯いて。
「あ…あれは町の中の家から生米少しずつ集め回って、それを拾った鍋で炊いて…w」
「…おめぇは泥棒の技術も身に付けてんのか…?w」
「ないわよ!!、そんな技術!!w。仕方ないじゃない!!w。お金ないんだから!!w」
(…………)
声を荒げて返してくる女。
俺に声を張り上げる女ってのも、そう言やくいな以来だ。
「私だって悪いとは思ってるのよ!?w。人の家から物を盗るなんてあなたが言ったように泥棒行為だし!!w。私は海賊だけどそんな泥棒みたいな事したくないわよ!!w」
「…………」
まぁ俺が頼んだ訳じゃねぇが、不可抗力でも俺もその片棒担いでたみてぇなもんだろう。
てか握り飯も結局俺一人で食ったし、頼んじゃいねぇが俺の為にした事だから、殆ど俺に罪があるんじゃねぇか。
あくまで不可抗力だが。
(…………)
だが…、
「…なんでてめぇも食わなかった」
こいつも腹は減ってた筈だし、握り飯握ってたんならてめぇも食えばよかったってのに、どうしてそれをしてねぇのか気になって、体を起こしてそれを訊いた。
「だって私はまだ二日だったけど、あなたは九日間も何も食べてないって聞いてたから…w。手に入ったお米はもう少し多かったけど、お米なんて炊いた事もなかったから見様見真似で炊いたら焦げちゃって…w。焦げてない所だけ集めたらあれだけの量にしかならなかったから、だから先ずは全部あなたに食べさせなきゃって…w」
「…………」
「それに、パパもいつも言ってたの。船長たるもの、例え自分が餓えようとも、先ずは船員の腹を満たす事を優先するものだって……」
「…………」
またあの言葉。
いつだったか、どこかで聞いた。
誰かに聞いた。
「……おめぇの父親も海賊と言ったな…」
「ええ、そうよ。世界一立派なパパ。私の誇りよ」
「名は…。その父親の…」
いかにも誇らしげに言ってくる女に、どこかで聞いた言葉の謎も解きたく、その父親の名を知りたくなった。
「ネフェルタリ・コブラ。大海賊、キング・コブラよ」
「――――!!!」
「知ってるみたいね、パパの名前」
「――グランドラインでゴールド・ロジャー、白ひげと肩を並べる大海賊…、義賊のキング・コブラ……」
「ふふっ、そうよ」
驚愕とその名のデカさに半ば茫然とする俺の様子に、女が誇らしげに、そして嬉しげに目を細めた。
「私はその娘、ネフェルタリ・ビビ。義賊の一人娘、海賊姫ビビよ」
「――――」
「どう?、世界トップクラスの大海賊の娘の船員になれるのよ?。これ以上ない名誉じゃない?」
「――――」
多少傲慢に笑む女…ビビに、だが言葉もねぇ。
その勝ち誇った笑みに、怒りすら湧かなかった。
「でも──」
(…………)
口元に微笑を浮かべる、多少傲慢な笑み。
その口が言葉を紡ぐ。
「私はパパの威光に頼るつもりはないわ。親の七光りで海賊王になったなんて言われたくない。私は私の力で海賊王になってみせる。パパの名を超えて海賊王の名を掴むのが私の『夢』よ」
「――――、――くく…っ。はははははっっ!!!」
「なっなによ!!!w。なにが可笑しいのよ!!!w」
茫然感の中に湧いてきたのは可笑しさ。
その可笑しさを憚らず吐き出す俺にビビが怒鳴ってくる。
「大した威勢と志の高さだ」
「…………」
笑いを止めてビビを見る。
女だてらに言う事が違う。
そこらの女にゃねぇ、目に力がある。
「気に入ったぜ」
威勢の良さ。
度胸。
こいつと旅をするのも面白ぇかもしれねぇ。
「認めてやるよ。おめぇの第一クルーになる事をな」
「ほんとに!!?」
「ああ」
俺が女の下につくなんざ考えた事も無かったが。
「その代わりその志、途中で折るような事がありゃあ、その時は俺がおめぇの首を取って船長の座に収まらせてもらうぜ」
「お生憎さま。そんな日は来ないわ。夢を捨てるくらいならそれこそ死んだ方がマシよ」
「………上等だ」
間髪入れず返ってきた返事にまた可笑しさが湧く。
「その代わりあなたも強くなってよ?。私が海賊王になってもあなたが今の強さのままじゃ、いまいち箔が付かないんだから」
「はっ…。言うじゃねぇか」
傲慢、ってかじゃじゃ馬娘の身の程知らずな言葉。
だがそれにてめぇでも不思議と腹が立たねぇ。
てめぇと対等の身分だと認められる。
「安心しろ。俺にも夢がある。その夢を果たす為に剣の腕を磨いて旅をしてるんだ。おめぇが海賊王になった時ゃあ、世界最強の剣士になった俺が横に居るだろうよ」
「ふふっ、言うじゃない。それでこそ魔獣だわ。じゃあこれからもよろしくね、Mr.ブシドー」
「ああ。仕方ねぇから付き合ってやるよ」
差し出されたなよっちぃ白ぇ手。
その手を握り返し、威勢のいい海賊姫に組する契約を交わした。


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