─海賊姫─

□決意
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「……いただきます」
言ってから口開けて、女が口に握り飯を食わせてくる。
「…Σうぐっ!!w」
大きさから一口で口に入り、入った途端に舌が干上がるかと思った。
塩辛ぇ。
まるで塩の固まり食ってるみてぇに。
しかも塩辛ぇってのに甘ぇ。
塩と砂糖の団子かと思う程、不味ぃ。
こんだけ腹減ってるってのに、飲み込めねぇ程不味ぃ。
「〜〜〜〜〜っ!!!。はあっ!!w。おめぇこれ砂糖混ぜたのか!!?w。てか塩辛すぎだ!!w」
口ん中ヒリヒリするくれぇ塩辛くそして甘ぇ不味ぃ握り飯をそれでも意地で噛み締めて、なんとか強引に喉に流し込んでから、女に向かって文句を言った。
「だってもう九日間も何も食べてないって聞いてたからっ!!w。塩分も多い方がいいだろうし、糖分も必要かなって思って!!w」
その文句に必死な顔で返してくる女。
その顔にゃあもうさっきまでの強気な表情は無く、完全に見た目と同等の『まだ女にもなってねぇ娘』の顔になっていて。
「〜〜〜〜〜w」
握り飯はまだ四つもある。
またあの塩辛さと甘さのコラボした不味さを味わわなけりゃいけねぇのかと思うと正直食いたくはねぇが。
「〜〜〜〜〜」
九日断食の俺の状態を考えて作った握り飯を拒否するのは、こいつの気遣いを無碍にする。
「〜〜〜〜〜」
覚悟を決めて、
「それ全部一つに纏めろ!!w。一発で食うから!!w」
「えっ、ええっw」
不味ぃ思いは一度で済ませてぇと、言ったとおりに女が四つの握り飯を一つに集め始めた。
「…大丈夫…?w。結構大きくなっちゃったけど…w」
「……w」
マジで思いのほかデカくなった握り飯に、だがやはりあの不味さを数回に分けるのは御免だと、意を決して大口を開く。
「〜〜〜〜〜www」
口にやや強引に押し込まれた握り飯。
やっぱ不味ぃw。
そしてでけぇ分食いにくく。
噛みにくいからその分長く口の中に滞在し。
「―――――!!?www」
もう飲み込んじまえと強引に飲み込んだが、途中でやはり詰まった。
「〜〜〜〜〜!!!」
「だっ大丈夫っ!!?w⊃⊃」
詰まったのが解ったらしく女が胸を叩いてきて、
「〜〜〜〜〜〜www。……はあ…www。ごちそうさま…www」
やっと通っていった握り飯に、地獄が終わった安堵感に息を吐いた。
(死ぬかと思った…www)
飯を食うのにこんなに気力体力精神力を使うとは思わなかったと、今生きてる事に心底からの安堵を覚え。
だが取り敢えず腹は膨れた。
(ん……?)
地獄が通り過ぎてちぃと気が抜けた時、そういやさっきこいつは金を持ってねぇと言っていた事をふと思い出し。
「…おめぇ飯は」
まぁ握り飯が手に入ったんだから、こいつも食っただろうとは思うが、一応何となく訊いてみた。
「わっ私はいいのっ!w。船長は先ずクルーのおなかを満たす事を優先させないとっ!w」
「…………」
どうやら食ってねぇらしい女のその、焦りながら言った言葉。
その言葉を俺はどこかで聞いた事があった。
どこでだかは思い出せねぇが、確かに俺はその類の言葉をどこかで聞いている。
「所であなた刀は?。話じゃ三刀流って、刀を三振り持ってるらしいけど、奪われたの?」
その言葉をどこで聞いたか思いだそうとした時、女が俺の刀の事を訊いてきた。
「ああ…。バカ息子が持って行きやがった。多分あの基地のどっかのてめぇの部屋にでも………!?。おいっ!!、どこに行く!!?」
基地を見ながら言うと、ふいに女が走り出し、その体は海軍支部の玄関口に向いていて。
「待ってて!!、取り返してくるから!!。海軍将校の息子の部屋なら上の階辺りにあるわよね!?」
「!?」
単身で海軍基地内に向かおうとしてやがる女に、肝を抜かれて。
力押しの海賊にも勝てねぇで逃げて海に飛び込んだってのに、海軍基地に一人で入ってもし見付かったら、戦闘訓練を受けている海軍相手に太刀打ちなんざ出来ねぇ。
それでなくてもさっきの話から考えて、あいつは少なくとも昨日と今日の二日だけでも飯を食ってねぇんじゃねぇのかと推測出来て。
「やめろ!!、戻れ!!w。おめぇがそこまでするこたぁねぇ!!w。捕まったらおめぇもただじゃ済まねぇぞ!!w」
度胸があるってよりただの向こう見ずなんじゃねぇかと思える程、行動力のありすぎる女に焦って。
破天荒すぎる女に、他人事ながらも気が気じゃなく、必死に声で止めても、女は振り向きながらも足を止めねぇ。
「大丈夫よ!。もし見付かってもあなたに関わった事は言わないから!」
「おいっ!!w」
そういう事を言ってんじゃねぇと言おうとしたが、女はとうとう基地の入り口から中に入っちまいやがった。
「〜〜〜〜〜何考えてんだ…!、あの女…!w」
勝手にてめぇを船長、俺をクルーと決め付けて、飯持ってきて、海軍基地にまで無謀に突っ込んで行きやがる。
威勢がいいのか、本当にただのバカなのか。
「〜〜〜〜〜っっ」
……関係ねぇ。
あの女が別にどうなろうと、あいつが勝手にしただけだ。
俺が頼んだ訳でもねぇんだから、あいつがどうなろうと関係ねぇ。
そう思う。
思うってのに。
憤っている。
飯の施しを受けた恩義に。
女が動いている事に。
何より俺の為に動いている事に。
てめぇの為に、女が危険に突っ込んで行ってるってのに。
男の俺は動きもしねぇで、こんな所でジッとしてる。
こんな縄、簡単に引き千切れるってのに。
「〜〜〜〜〜っっ」
しょうがねぇじゃねぇか。
約束した。
あのバカ息子と。
例え向こうがそれを反故にしたとしても。
約束は果たさなけりゃならねぇ。
必ず果たすから『約束』だ。
そして約束を果たす事は俺の信念だ。
信念は曲げねぇ。
『きゃあっ!!!』
「!!!」
基地から聞こえた悲鳴。
捕まりやがった。
「〜〜〜〜〜っっ!!!」
だから言わんこっちゃねぇんだ。
基地に入ったからにゃ、どう言い訳しても犯罪者。
あのバカ息子が許す筈がねぇ。
その上あいつは女。
捕まったらどんな目に合うか解ったもんじゃねぇ。
「!!!」
非常事態の警報。
警報が鳴るって事は、まだ捕まってねぇ。
だがそれでも見つかっている。
(やべぇ…!!)
あいつは今逃げてる筈。
そのあいつを捕らえる為に、基地内に居る海兵が全員あいつを追いに向かう筈だ。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
動かねぇでいいのか!?。
恩義を受けた。
俺の刀を取り返しにあいつは向かって。
今頃追われてやがるだろう。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
だが『約束』。
約束は守るもんだ。
何があっても。
「Mr.ブシドー!!!」
「!!!」
三階の窓から顔を出した女。
その姿に無事な事に安堵を感じながらも、それ以上の焦りが頭と体中を支配する。
部屋に入ったのならもう出られねぇ。
部屋の外にゃあ海兵共がひしめいてやがるだろう。
袋のネズミじゃねぇか。
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