─海賊姫─

□おにぎり
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「ああ、本当だとも。約束だろう?。約束はちゃんと守らなけりゃな」
「…………」
再度の"契約"の確認に、海兵二人を従えて、葉巻をふかしながらへらへらと見下げてきやがるバカ息子。
どう見ても約束なんざ果たさねぇ顔。
だが『約束』した。
しちまった。
だから果たさなけりゃならねぇ。
てめぇの信念にかけて。
「…………」
『Mr.ブシドー』
「!!?w」
基地に戻っていくバカ息子共を見ていると、横から聞こえた押さえた声とあの妙な呼び名に、まさかと思って横を見て。
塀から頭を出してやがる昨日の女にギクッとした。
昨日あんだけ口論して、憤慨して帰っていったってのに、また来やがった女。
てかまだあのバカ息子達が居るってのに。
『バカッ!!。何来てやがんだ!!。帰れっ!!w』
あいつらに見付かったら、罪人の俺と関わってる所なんざ見られたら、あの女まで巻き込ませちまう。
『なによ!!、せっかく来てあげたのにまだそんな事言って!!#』
『いいから帰れ!!w。俺の事はほっとけ!!w』
奴らがこっちを見ねぇか、女と奴らを交互に見ながら女を説得するが、女は腹を立てるだけで帰ろうとしやがらねぇ。
『ほっとかないわよ!!?。あなたは私の仲間にするって決めたんだから!!』
小声で言ってきてるって事は一応奴らの事は警戒しているらしく、頭もそれ以上は出さねぇ。
そして相変わらず俺を仲間にするって事を主張してくる。
『俺は女の仲間なんかにゃならねぇ!!w。もう諦めてさっさと帰れ!!w』
『嫌よ!!。私は船長なんだから、クルーになる人間の言う事には従わないわ!!』
『船長だあっ!!?w』
「ん、行ったわね。よっと」
『!。おっおいっ!!w』
奴らが屋内に入った事を確認してから塀に乗り上げた女が、中に飛び降りて、こっちに向かって走ってきた。
『帰れって言ってるだろ!!w。俺と関わってる所を見られたらてめぇまで巻き添えに合うぞ!!w』
「…………」
『な…なんだよっw』
俺の側まで来て、腕を縛ってる縄を解こうとしてくる女に怒鳴ると、いきなり無言になって俺を見上げてきた女。
その真っ直ぐ見上げてくる濃い紫の目の女にちぃとたじろいで。
「昨日から怒ってるのはその為なの…?」
『あ!?w』
「私を巻き込まない為?」
「ぐっ…!w」
焦りに知らず言っちまってたらしく、真正面から訊かれて言葉に詰まる。
そんな俺を下から無言で見上げたままの女。
「……やっぱり私の目に狂いはなかったわ」
「あ…?w」
その女が自画自賛の言葉と共に浮かべたのは、満足げな、そしてどことなく嬉しげな笑み。
「何が何でもあなたを仲間に、私の船の剣士にする!!」
「はあ!?w。おめぇの船ぇ!?。なんだそりゃ――?w」
俺が訊いてる途中にも関わらずごそごそと腰に下げた布袋を漁りだした女に、何してんだ?wと言葉が止まった。
「?…w」
出てきたのは、何かが包まれているフキの葉っぽい葉で。
それを女が開くと、中に並んでたのは白ぇ握り飯五つだった。
「食べて。先におなかを満たさないと逃げられない」
「はあ!?。誰が逃げるんだ!!。俺は逃げたりゃむごっ!!」
『静かにっ!。奴らが戻ってくるでしょ!?』
(ぐ……っ!w)
誰がでけぇ声出させてんのか全く自覚してねぇ女に口を塞がれ、だが言ってる事も正論だから結局文句も言えねぇで。
手で口塞がれたまま声を詰まらせてると、その手が離れた。
「いいから食べて。取りあえず食べなきゃ。さあ」
「…………w」
葉の上に並んだ握り飯の一つを取って、口の前まで持ってこられたその握り飯。
強引に進めてくる事に多大な困惑を覚え、それでも鼻に入ってくる久々の飯のにおいに空腹感が刺激を受ける。
「…………w」
食おうか迷いながら、だが拒めば強引に口に突っ込まれそうな程女の目は真剣に俺を見ていて。
腹の減りとその目に仕方なく食う事に決め、口元に来ている握り飯に目を向けた。
「…………」
目の前の握り飯。
えらく歪(いびつ)だ。
どう見ても、てかあからさまに手で握った感が出ている。
「……これおめぇが握ったのか」
形はともかく、デカさが何となくこいつの手にしっくりくる小ささで。
「そうよ。安心して、ちゃんと手は洗って握ったから」
「…………」
持ってる握り飯を更に口に近づけてきた女に、思う。
握り飯なんざ、その辺の店屋でも売ってる。
だってのにわざわざてめぇで握って。
なんでなのか。
そんなに仲間にしてぇのか、俺を。
そこまでして。
「……は。なるほどな」
「?。なに?」
気付いた真意。
この握り飯がこいつの手製な訳。
「随分手の込んだ心理作戦だな」
「え…?」
「わざわざ手握りの握り飯なんか作って、こんな事をする程てめぇが必要だと思わせて仲間に引き込もうって寸法だろ?」
「!?。違うわ!?。そんなんじゃないわよ!!」
「…………」
返してきた返事と表情。
心外だと言わんばかりのその反応を見る限りは、その否定は本当に心外の否定だと解った。
「…なら恩を作って、それをネタに引き込むつもりか?。本当に恩着せがましいな。やり方も性格も。そんなに俺を仲間にしてぇのか」
表情を読む。
この女の真意。
どういう裏があって俺をここまで引き込みたがるのか。
わざわざてめぇで握り飯を作った理由。
「………そうよ」
「あ?」
不意の肯定にちぃと意外な気分になり、その気持ちが声に表れた。
女は真っ直ぐ俺を見ている。
後ろめたい事を肯定したってのに、その目は一ミリも揺らぐ事無く俺を見据えてくる。
「私は、私の名を世界に知らしめる為にあなたを仲間に欲しい。海賊狩りの魔獣と呼ばれて畏れられる程強いあなたの力が」
「…………なんでそこまで俺の力を欲しがる。目的はなんだ」
見据えてくる目を見返しながら問う。
決意の宿った目。
なよっちぃ見た目に似つかわしくもねぇその強さの宿った目の決意の理由を訊いた。
「私は海賊王になりたいの。いいえ、海賊王になるの。絶対に…!!」
「海賊王…?」
女の決意の理由は、その見た目からは意外な程にかけ離れていて。
だが冗談で言ってるようにゃ全く見えねぇ、その固ぇ決意の宿る目の持ち主に、疑問の声を傾げていた。
「そうよ。世界中にはびこる海賊達の頂点に立つ海賊の中の海賊。その海賊の王に私はなるの。それが私の『夢』よ」
「…………」
強ぇ目。
生半可な気持ちで言ってるんじゃねぇ。
本気の目。
「その為にあなたの力が欲しい。魔獣とまで畏れられるあなたの力が。私はいつか海賊王になる。その時隣に魔獣と畏れられた男がいればこれ以上ない箔になるわ。強いあなたの力と魔獣の名が、私の海賊王としての威光に箔を付けるの」
「…………」
(……他力本願でもねぇのか)
俺を仲間に欲しい、すなわち俺の力を欲しいってのは、てめぇに力がねぇから、俺の力に頼る為に。
その為に、俺を仲間に引き入れようとしていると思えたが。
(……この俺をてめぇの箔にしようってのか)
女の癖に、海賊王になるとぬかしたばかりか、俺を箔扱いにしようたぁ。
いい度胸だと言いてぇが、身の程知らずもいいとこだと、腹にもやりと憤りの火がくすぶった。
この俺を、男の俺を、こんななよっちい女が箔程度に扱おうたぁ。
ムカつく。
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