原作サイドパラレル─真章─

□授業
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飯場で退屈しのぎにサンジに今日の晩飯のリクエストをしていると、ゾロが入ってきて。
「おいコック、なんか食うもんねぇか」
どうやら小腹が減ったらしく、台所を見回して、最後に錠の掛かった冷蔵庫に顔を向けた。
「……てめぇは相変わらずだな。クソマリモ」
「あ?」
(?)
胸ポケットから出した錠前の鍵をピンと親指で弾き飛ばしながら、不意の脈略のねぇ言葉を言ったサンジに、その鍵を受け取ったゾロが僅かに怪訝な顔で片眉を傾け、俺もどういう意味なのかと右隣に座るサンジに顔を向けた。
「せっかくあんな可憐なレディーと恋人になれたってのに、てめぇは全く変わりゃあしねぇ」
「ああ?。何言ってんだ…」
無視するみてぇに冷蔵庫に掛かった錠前を開けるゾロが、ドアを開けて、中からリンゴを一つ手に取った。
「我が道を行くのは結構だが、ちぃとはそれも崩さねぇと、せっかくてめぇみてぇなのに惚れてくれたってのに愛想尽かされちまうぜ」
「…………」
自分の生き方を人に指図される事と、それを只でさえ気が合わねぇサンジに言われて、冷蔵庫を開けたまま気に入らなそーな目でサンジを振り向いてきたゾロ。
そのゾロに『さっさと冷蔵庫閉めろ』と煙草をくわえながら言ったサンジに、ゾロが冷蔵庫を閉めてまた錠を掛けた。
「…俺がどうなろうとどうしようとてめぇにゃ関係ねぇ」
余計な世話だと言わんばかりに不機嫌な幾分低い声で言ったゾロが、冷蔵庫の前から足を踏み出した。
「ま、俺はその方がいいがな。てめぇみてぇな脳筋野郎にビビちゃんみてぇなレディーは勿体ねぇからな」
「──」
その言葉が癇に障ったのか、ゾロがピクリと体を揺らして一歩歩いた足を止めた。
「…………」
(…………w)
少し顔を向けてきたゾロの、そのサンジに向けてきた目にはちぃと怖ぇもんが混じっていて。
『お…おいサンジw。あんまり怒らせるような事言うなw』
こんな部屋の中でケンカが始まったら、俺まで巻き添え食らっちまうw。
何とかそれを避けようと、小声で横のサンジに耳打ちした。
「安心しろ。別に喧嘩ふっかけてる訳じゃねぇ」
その俺に、口に当てた手に煙草を挟みながら言ってきたサンジの目がまたゾロに向いて。
「まぁ座れ、マリモ。今からお前にちぃと勉強教えてやる」
「ああ…?。勉強だ?」
口から離したタバコで自分の前の席を差したサンジに、ゾロが訳の解らなそうに眉と顔をしかめて。
俺もなんの勉強か気になって、冷蔵庫から少し離れたその場所から動いてねぇゾロに顔を向けた。
「ああ、そうだ。気には入らねぇがビビちゃんと付き合ったからには、お前に女の子との付き合い方ってのを特別に伝授してやろう」
「ああ…?」
益々ゾロの顔が怪訝そうに歪み、
「いいから先に座れ。そんな所に突っ立ってりゃ勉強なんざ出来ねぇだろ」
今度は人差し指で前の席をトントンと叩いたサンジに、今度は口を不服そうにへの字にしたゾロが、それでも足を動かそうとはしねぇで。
「19年間筋トレ器具が恋人だったてめぇに、この恋の伝道師Mr.プリンスが恋愛のノウハウを教えてやろうって言ってんだ。ありがたく受けろ」
俺から聞いても恩着せがましく聞こえたサンジの物言いに、ゾロの片眉がピクッと上がった。
「ああ゛?。随分上からもの言うじゃねぇか…#。誰がそんなもん教えろなんて頼んだ…#」
(ひいぃ…|||w)
こめかみに血管を浮き上がらせたゾロが多少ながらも怒気を放ちだし、またやべぇ雰囲気になってきた部屋の空気に、一旦治まった恐怖がまた戻ってきて。
「まぁ聞いとけ。聞くだけでも損はねぇだろ」
内心びびる俺の懸念をよそに、ゾロと互角の実力のあるサンジは平然とした顔でタバコを灰皿に押し付けて、次のタバコに火を点けた。
「結構だ!!。てめぇに関係のねぇ事に横から余計な首突っ込んでくんじゃねぇ!!」
「てめぇの為じゃねぇ!!、ビビちゃんの為だ!!」
「!?」
吠えたゾロにサンジが吠え返し、その言葉にかゾロがちぃとギョッとした顔で言葉を止めた。
「てめぇみてぇな脳筋バカにも惚れた女が喜ぶ笑顔を見てぇって気持ちはあるだろうが!!。それを見る為にレクチャーしてやろうって言ってんだ!!。だが決しててめぇの為なんかじゃねぇ!!。てめぇみてぇな女心の解らねぇ奴にぞんざいに扱われるビビちゃんを見たくねぇから教えてやるんだ!!。いいから座りやがれ!!」
「ぐ……w」
怒鳴ったサンジに、顔を迷惑そうに引きつらせ、突っ立つゾロ。
が、やっぱりその場から動く気はねぇみてぇで。
だが怒鳴ってくる事も、部屋を出る事もしねぇで。
「………。…ならここから聞いてやる。さっさと話やがれ」
サンジに従うのはやっぱり癪に障るらしく、冷蔵庫横の壁に腕を組んで凭れ掛かったゾロ。
「おいおい。それが講義を聞く生徒の態度か?」
「御託はいいからさっさと始めやがれ。始めねぇなら出て行くぜ」
気に入らねぇようなサンジに、それに対等に返すゾロと、飯場の空気はさっきよりも張り詰めて。
「…ち。だがまぁ聞く気はあるらしいな」
タバコを口から離したサンジがふー…っと口から煙を吹いた。
「ま、聞く気があるなら十分だ。俺の講義を大人しく受けようとしてるんだから、どうやらマジでビビちゃんに惚れてやがるらしいな」
「っ…w。いいからさっさと始めやがれ!!#w。マジでこっちは無駄な時間使わせてやってんだ!!#w」
(…………)
怒鳴りながらも出て行こうとはしねぇゾロ。
それが意外だった。
こいつが女の為に誰かに、しかもこのサンジに教えを受ける気でいるのが意外で。
そして普段からそんな素振りを見せねぇこいつが、大人しく(もねぇが)サンジの講義を聞く気でいる事に、そこまでマジでビビに惚れてるのかって、そこが一番意外だった。
「ふん…。講義を受ける生徒の態度にしちゃあちぃと気に入らねぇ態度だが、まぁいい」
(…………w)
"あの"ゾロが自分に教えを受ける事が満足なのか、ちぃと優越感に浸った顔でタバコを吹かすサンジに、ちょっと言葉が出ねぇで。
「なら先ずはレディーに対しての男としての最低限の思いやりだ。まず一つ目。レディーにゃ重い物は持たさねぇ。持たせる時は一番軽い、小せぇもんにする事」
「…………」
(ふむふむ)
講義を始めたサンジに、俺もいつかは役に立つだろうと、前で壁に凭れて腕を組んで立っている、無表情でサンジの話を聞いているゾロから顔を逸らして、ナミの航海日誌から白紙のページを一枚破って、そこに講義内容を簡単にメモった。
「二つ目。もし町中でレディーが変な奴らに目を付けられたら全力で護る。レディーにゃ髪の毛一筋の怪我もさせる事は許されねぇ」
「………おい…」
「三つ目。レディーが困っている時は、てめぇがどんな状態や状況にあっても手を貸してやる事。見て見ぬ振りなんざ御法度だ。それが男──」
「おい!!#」
ふんふんと、サンジが言う事をメモっていると、いきなりのゾロの怒声がそれを止めた。
「なんだクソマリモ。まだ講義の途中だ。黙って聞いてやがれ」
「それのどこが勉強だ!!。それくらいの事は解ってんだよ!!」
壁から背中を離して、組んでいた腕も解いたゾロがサンジに怒鳴る。
「いいから黙って聞いてやがれクソマリモ!!。レディーはバーベルとは違うんだからよ!!」
「ナメてんのかてめぇ!!#。バーベルと人間の区別くらいついてんだよ!!#」
(…………w)
それにサンジが返して、また始まった口争いに、講義の続きは聞きてぇが、止めるととばっちり食らいそうで何も言えねぇ俺w。
「てめぇの話をまともに聞こうとした俺がバカだったぜ!!。くだらねぇ!!」
思いきり気に入らねぇって表情で歯噛みしながら、また腕を組んで壁に背中を着けて横を向いたゾロに、サンジがまたタバコを口から離して煙を吐き出した。
「まぁ、解ってるなら上等だ。だがまぁ今のは人間としても当然の思いやり行動だからな。いくら脳筋バカのてめぇでもそれぐらいは人間として解ってて当然だな」
「〜〜〜〜〜#」
「なら次は上級者向けのレディーの扱い方だ。ゴリラ並の脳筋のてめぇにゃ難しいだろうが、しっかり覚えろ」
「────#####」
もう怒りを口に出すのも嫌になった程にムカついたらしく、眉を極限まで吊り上げて歯を食いしばり、腹から声を詰まらせるゾロ。
その怒りの度合いは、顔に浮かび上がる怒りの血管の数でも解って。
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