原作サイドパラレル─真章─

□記憶喪失6
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「ヒュウ。そこのかわいこちゃん」
(…………)
「おーいっ」
(…………)
「おいっ!!。無視するなっ!!」
(…なに…?)
歩いてる時に横から聞こえた複数の男の人の呼び声。
それが遠退くにつれて段々苛つきを含んできて。
ついに怒鳴った事に、何を騒いでるんだろうと足を止めて振り向くと、その声の主らしき人達は私を見ていた。
(…………。私?)
辺りを見回しても、かわいこちゃんというか、私以外に女の人の姿がなくて。
『かわいこちゃん』とは誰か別の人を呼んでるんだと思ってたけど、どうやら私の事を呼んでいたみたいだった。
「相手にするな。行くぜ」
「え、あ、でも…w⊃⊃」
まだかなり前を歩く、足を止める事のないゾロさんの背中越しの声に、一度ゾロさんを見て、また後ろを見た。
私を見て苛立っている五人の人達は、すごく、ゾロさんより強面で、ゾロさんなんか目じゃない程人相が悪い人達で。
無視したら何をするか解らなそうなその見た目の人達に、何事もないみたいに歩いていくゾロさんとその人達を交互に見ながら困惑した。
「へっ、ようかわいこちゃん。ここらじゃ見ねぇ上玉だな。どうだ、俺達と遊ばねぇか」
私が足を止めた事で怒りを収めた人達がニヤニヤした笑いを浮かべて近付いてきて。
(う…w。やだっw)
「あっ!!。待ちやがれ!!」
下心見え見えのその顔に嫌悪感と不気味さを覚えて、思わずゾロさんの方に走ると、同時に男達も私を追って走ってきた。
「ゾロさんっw⊃⊃。あの人達付いてきたんですけどっw⊃⊃」
「みろ。足を止めるからだ」
「だってw⊃⊃」
私が追いついても歩くのを止めずに、目だけを私に向けて言ってきたゾロさんに焦りながら言葉を返そうとすると、ゾロさんの目が後ろを見た。
振り向くと、男達はまだ追いかけてきていて。
「…まぁ止まらねぇでもうるさそうだがな」
そう言って足を止めたゾロさんが顔も少し後ろに向けて、少し迷惑そうな顔をした。
「なんだ?。てめぇ、その女の連れか?」
「大人しくその女を渡しな。余計な怪我したくねぇならな」
道に広がって凄む男達。
その手には抜いた刃物が構えられて。
(………⊃⊃。…………)
でも、心配で見上げたゾロさんの態度は冷静で。
僅かな動揺もしていないのは、その表情を見て解った。
「…………。持ってろ」
表情の浮かんでいない、かなり乗り気のない顔で、ゾロさんが脇のお肉をまた渡してきて。
私の持つリンゴの袋の上に、そのお肉を置いてきた。
「相手にするの!?w」
「…向こうが向かってくるならな…。したくはねぇが、仕方ねぇだろ。それ持ってろよ。すぐ済むからよ」
相手を見たまま、残りの荷物を地面に置いて、腰の刀の一振りに手を掛けたゾロさんの言葉に、少し心配と動揺が起こる。
(…………w⊃)
初めて見る事になる、戦い。
彼の強さは何となく解る。
船であんなに重そうなバーベルを持ち上げられるんだから。
でも実戦を見るのは初めてで。
(…本当に大丈夫かしら…⊃)
多数を前に相手を見据えるゾロさん。
この彼は普段はいつも昼寝かお酒かトレーニングか釣りをしているかだけで。
船の中が大慌てでも寝てるくらい呑気で。
大酒飲みで方向音痴で、オヤジシャツに腹巻きと、服装も特質も頼りにならないイメージで。
だから不安で心配で。
「…………」
ゾロさんが手を掛けていた刀を抜いて、私の前へ二歩程出た。
(え……?……)
その景色に、前に立つ彼の後ろ姿に、ふいに妙な感覚に囚われた。
前にも一度見たような、知ってるような風景。
私は何かに乗っていて、あの背中を見ていたような。
「生意気なガキだな。彼氏気取りかぁ!?、ああん!?」
「…………」
(え?)
束になって襲い掛かってきた男達。
それに対峙していたゾロさんの足が動いた瞬間、ゾロさんの姿が消えた。
「な……っ……」
「が…は……」
(…な……)
急に一人二人と倒れていく男達。
その顔はみんな驚いたような顔をしていて、間を置かず五人全員が地面に倒れた。
そして、その倒れた男達の向こうにいる、ゾロさん。
刀を鞘に戻し、倒れる男達を目だけで振り返る。
「余計な怪我するのはどっちだろうな」
一言、何でも無いような声で言って、倒れる男達の中を歩いて戻ってきた。
「ほれ行くぜ。早く帰らねぇと、飯が遅れるとかってコックとルフィがうるせぇからな」
さっきの本当に一瞬、全く目で追えなかった瞬間の出来事に呆然とする私の手からお肉と、地面に置いたお酒やその他の荷物を持ったゾロさんがまた何事もなかったみたいに歩いていく。
(…あ……)
その彼の出した声で我に返って、振り向くとスタスタと歩いていくゾロさんの姿。
その後ろ姿から、また地面に倒れる男達を見た。
ぴくりとも動かない。
(…………⊃)
不安になって、かなり離れてしまったゾロさんの後を追った。
「殺したのっ?⊃⊃」
追い付いたゾロさんを早足で追いながら見上げて訊いて、また後ろを振り向いたけど、男達はまだ起き上がらない。
「いいや、ただ刃で殴っただけだ」
「刃で…殴った…?」
足を止める事なく、前を見たまま言ったゾロさんの意味の解らない言葉に声が傾いだ。
刀の刃が当たったら切れて当然の筈。
でも倒れた時のあの男達の体は、服すら切れていなくて。
「…………」
「…………」
どういう事か解らないからゾロさんの顔を見ていたら、私を見返していたゾロさんがほんの小さく息を吐いた。
「おめぇはアラバスタって国を取り戻す為に俺達の船に乗ったってのはあいつらから聞いただろ」
「…ええ」
その話はナミさんから聞かされた。
私がそのアラバスタって国の王女だって事、その国を乗っ取ろうとした、そんな力のある相手に私も、この彼やルフィさん達も挑んだ事。
そしてそのアラバスタを取り返した事。
それをナミさんから聞いた時、信じられなかった。
あのみんなが、あんな子供っぽいルフィさん達が、そんな相手に勝った事。
なにより、私がそんな巨悪に立ち向かっていった事。
信じられなかった。
そしてそれは今でも半信半疑だ。
「そのアラバスタで、俺はある男と戦った。全身鋼鉄みてぇに硬ぇ、体を刃物に変える能力者だった」
「…………」
能力者。
ルフィさん、そしてトニーくんも、悪魔の実という実を食べて、あの体になった。
そのクロコダイルって男も能力者だと聞いた。
そんな人間が、他にもいるなんて。
「そいつと戦った時に手に入れた力だ。斬りてぇもんだけを斬り、斬りたくねぇもんは斬らねぇ。それが出来る"ものの呼吸を聞く"力。ま…、完全にものにするにゃあ、かなり集中力を鍛えなけりゃならなかったが…」
「…ものの…呼吸…」
前を見ながら話すゾロさんの話を聞きながら、それでもよく解らない"ものの呼吸を聞く"って言葉を声に出すと、ゾロさんが顔だけを振り向かせて。
「あんな小物は斬る価値もねぇ。むしろ斬りゃあ血と脂で刀が汚れるだけだからな。一々あんな小物斬って刀の手入れはしたくねぇ。案外面倒だからな、あの作業も」
(…………)
後ろの男達を見ながら言って、一度私に顔を向けてきたゾロさん。
その顔を見返していると、またすぐゾロさんの顔が前を向いた。
「…面倒な刀の手入れはなるべく、斬り合うに相応しい相手と戦りあった時だけにしてぇんだ」
「…………」
言ったゾロさんの口の端は少し楽しそうに曲がっていて。
(…………あ)
彼らはその『斬り合うに相応しい相手』にはならなかったのかしらと、後ろを振り向くと、遠く小さくなった男達がムクリと起き上がる姿が見えた。
それに僅かな安堵を覚えながら、隣を歩くゾロさんの顔を見上げた。
その顔からはもう笑みは消えていて。
いつもの彼の顔に戻っている。
(………強いのね…)
その横顔を見ながら、彼がすごく強い剣士だった事に感心した。
(…………)
さっき光景に重なったデジャヴ。
あれは、記憶のなくなる前の私の記憶だったのか。
(…………)
『頼りにならない』と印象付いた彼。
でも強い。
すごく強い人。
その強さに少し尊敬に似た気分が湧いて。
(…………)
いつか感じた気がするみたいなその気分が、何故かとても不思議に感じた。


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