原作サイドパラレル─真章─

□記憶喪失3
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ビビが記憶喪失になって5日が経った。
まだ私達の事も、自分の事も思い出さなくて。
でも別に不自由はなく、初日に自己紹介して簡単に事情とビビ自身の事も説明して、ルフィのあっけらかんとした空気にすぐにまた溶け込んでいたビビ。
でもそんな中でもゾロだけはまだ怖がられて逃げられていて。
まぁ、あいつも自分の見た目が人を怖がらせる事は解ってるみたいだし、ビビが初めて船に乗ってきてからもしばらくあの二人は馴染まなかったから、あいつもそこまでショックは大きくないみたいで。
でもやっぱり怯えて逃げられる事には多少哀愁を感じさせつつ、ビビが怖がって逃げるからあいつも怖がらせたくないみたいで、未だにビビに近寄れないでいる。

(………綺麗…)
サラサラツヤツヤの金の髪。
それが、体を動かす度に揺らいでキラキラとさらめく。
キッチンでお菓子を作っているサンジさんの後ろ姿を見ながら、胸が暖かくなる。
綺麗な金の髪、すらりとした体格に高い身長。
そして…。
「おまたせー、ナミさん∨、ビビちゃん∨。今日のおやつはアプリコットジャムのマカロンだぜ∨」
振り向いて見せてくる笑顔。
その笑顔に胸が高鳴る。
見た目の柔らかさと同じく、性格も優しくて紳士的で。
サンジさんの全てが、私の胸を暖かく高鳴らせる。
「ありがとう、サンジくん」
「ありがとう、サンジさん。いただきます」
食べた、彼の手作りマカロン。
アプリコットジャムが甘酸っぱくて、すごく美味しい。
お料理もすごく美味しいし、お料理の出来る男の人ってなんだかすごく素敵。
「……?。どうしたの?、ビビ。顔が赤いわよ?」
「あ…//////。な、なんでも//////⊃⊃」
ナミさんに指摘されて、恥ずかしくなる。
(…………⊃⊃)
マカロンを食べながら、チラリとナミさんを見る。
素敵な人。
明るいオレンジの髪に、明るい性格。
優しくて、記憶のない私をいつも気遣って、手を引いてくれる。
(…………)
知ってる。
サンジさんがナミさんの事を好きな事。
いつも、まずはナミさんから呼ぶから。
私とナミさんがいる時は、いつも決まってナミさんから先に呼ぶ。
私に対する態度より、ナミさんに対する態度の方が優しくて紳士的で。
そして崩れっぷりもすごい。
だから解る、サンジさんがナミさんを好きな事。
ナミさんはこんな素敵な人なんだから、サンジさんが惹かれるのも解る。
でも…。
(…………)
ナミさんはサンジさんの事を何とも思っていないみたいで。
いつも軽くあしらって、素っ気ない態度であっさりとサンジさんをかわしてる。
だから…、だから私にもチャンスはある気がする。
サンジさんの心を手に入れるチャンスが私にも。
「…あの…、あのね?、サンジさん…//////」
「うん?。なんだい?、ビビちゃん」
言おうと思った。
サンジさんにちゃんと、今告白しようと思った。
今しかない気がして。
気が焦った。
「あの…っ//////。私ね…っ//////⊃⊃」
"ガチャッ"
サンジさんの顔を正面に見ながら、恥ずかしいけど意を決して告白しようとした時、ふいにキッチンのドアの開いた音に言葉を止められた。
振り向いて見たキッチンのドアから入ってきたのは、上半身汗だくの緑の髪の人。
ゾロさんだった。
「なんだよ、汗くせぇ。レディーのおやつの時間に汗だくで入ってくるなよ。デリカシーのねぇ」
「うるせぇな。知るかよ、そんな事」
サンジさんの言葉に素っ気なく返しながら、水をコップに注ぎ始めたゾロさん。
…彼はまだ怖い。
やっぱりまず顔が怖い。
すごく強面と言うか、目つきは鋭いし、眉はいつもシャープな角度でつり上がってるし。
雰囲気も、どこかみんなとは異質で、性格もクールとは違う、なんだかドライな感じがして。
気が付いてこの船にいた時から5日間、私は彼の笑った顔を見た事がない。
今は持ってないけど、あの三振りの刀も、抜いた所をまだ見た事はないけど、でもいつも腰に携えて。
怒ったところもまだ見た事はないし、みんなも大丈夫だって言うけど、でも切りかかられる不安は消えなくて、気安く近付けない。
彼の機嫌を損ねないように、それには近付かない、関わらないのが一番だった。
「ん、ビビちゃん。それよりさっき何か言いかけてたよな。なんだい?。料理のリクエストならいくらでも聞くぜ?∨」
「あ…っ。うっううんっ//////。そうじゃなくて…っ//////⊃⊃」
訊いてきてくれたサンジさんと目が合って、恥ずかしさについ俯いてしまったけど、嬉しくて。
一人人が増えちゃったけど、思い切って言おうと、決心した。
「サンジさんっ!//////」
「うん?」
顔を上げて立ち上がって、一つ頭高いサンジさんの目を真っ直ぐ見た。
「私っ//////、サンジさんの事が好きっ!!//////」
「ぶっふ!!!w」
「え?//////w」
意を決して言った瞬間、後ろで水を噴く音(?)がして。
思わず振り向いたら、
「げっほ!!w、げほっ!!w」
後ろでゾロさんが噎せ返って咳き込んでいた。
(〜〜〜〜〜っっ)
せっかく勇気を出して告白したのに邪魔された気がして、噎せてる彼に少し腹立ちを感じて。
それでも気を取り直して、サンジさんに向き直った。
「お願いですっ!//////、サンジさんっ!//////。私と付き合ってくださいっ!//////」
少し驚いている顔のサンジさんに頭を下げて、お付き合いを頼み込んだ。
サンジさんがナミさんを好きな事は知ってるけど、ナミさんは何も言わなくて。
「え…∨、あ…いや…∨、で…でもビビちゃん…∨、き…気持ちは嬉しいんだけど…∨w、お…俺にはナミさんという最愛の女神が…∨w」
断りに近い言葉を言ってくるサンジさん。
でも声は嬉しそうに困惑していて、満更迷惑でもなさそうで。
「お願いしますっ!//////。私サンジさんの事本当に好きになったんですっ!//////。だからナミさんじゃなく私を好きになってくださいっ!//////。お願いしますっ!//////」
もう必死でお願いした。
知らないうちにサンジさんの手まで握り締めて、懇願に近い気持ちでサンジさんに詰め寄った。
「あ…はは…∨w、いや〜でも…∨w。ははは…∨w、ど…どうしようか…∨w、ナミさん、マリモ…∨w」
嬉しそうに困惑しながらナミさんとゾロさんに相談したサンジさん。
「さ〜あ。どうしようかしらねぇ…?、腹巻き剣士さん…?♪」
ナミさんは全然気にしてないみたいに、なんだか楽しそうにニヤニヤと私の後ろに目を向けていて。
それに振り向くと、
「─────」
(う゛…w)
キッチンの前で、驚愕してるような、ショックを受けているような、形容しがたい顔でこっちを見ているゾロさんがいて。
その顔に少し罪悪感が湧いた。
彼は私の恋人だったらしいから。
でも彼は何も言ってこない。
あのおやつでの件の時に私を呼んだだけで、あのあとからはまた何も言ってもしても来ないで、自分の時間を過ごしてる。
(…………w)
気まずさと共に恐怖が湧く。
彼は私を覚えている。
だから彼女の私が、記憶がないとはいえ他の男性に告白しているのを目の前で見て。
あの形容しがたい顔が怒りに変わるのが怖くて。
「────、──……好きにしろよ…」
(え…?w)
何か言いたげな顔が次第に普段の無表情に近い顔に戻って、静かな態度でキッチンから出て行った彼に、怒らなかった事に拍子抜けして。

(…………)
甲板で寝そべっているゾロさん。
彼女が他の人に心変わりしているのに、好きにしろなんて言って、本当に何も言ってこないし、しもしない。
普通彼氏なら必死で止めようとしてくるんじゃないかと、そう思うと、彼の私への気持ちなんてその程度だったんじゃないのかと思えて。
彼に感じていた少しの罪悪感もそう考えて消えていく。
(∨)
彼も諦めてるみたいだし、何も言ってもしてもこなさそうだから気も楽になって。
肩の荷が下りたみたいな清々しい気分で、サンジさんのお手伝いをしようとキッチンに戻った。


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