原作サイドパラレル─真章─

□記憶喪失
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「どうなってんだ!!。おいナミ!!」
シケ。
ナミの予報通り。
さっきまでは静かな海がいきなり大きく荒れて、激しい波に、かなり船が煽られる。
グランド・ラインの異常気象は、次の島がまだ近くにねぇ事を示していて。
だがこの嵐はデカすぎる。
「くっ!!。ここまで大きなのが来るとは予想外だったわ!!。余裕で進めると思ったのに!!」
予想が外れたナミが、航海士のプライドを嘲笑う海を睨んで悔しげに言葉を吐く。
「みんな船を漕いで!!。早くこの海域から離れないと船がもたないわ!!」
海の上で嵐に遭っても、いずれはその嵐も収まる。
だがこのグランドラインの海域の嵐は、向こうからは動かねぇ。
こっちが足を踏み入れたのなら、こっちが出ていかなけりゃ、いつまで経っても嵐の中に居なけりゃならねぇ。
「おわっ!!!」
「きゃあ!!」
「うわあ!!」
「うおっ!!?」
「グエッ!!」
オールに走る最中船が大きく揺れ、それぞれがバランス崩してよろけたり倒れたり。
「みんな!!、大丈夫か!!?」
ルフィが連中を見回して、それに続いて後ろを見ると、ナミは床に座り込み、コックがそれを抱き締めて支えていて。
ビビはカルーに体で支えられ、階段の手摺に掴まってしゃがみ込んでいる。
「チョッパー!!!、こっちに来れるか!!?」
「サンジ!!!、おめぇも漕ぐのを手伝え!!!」
「うっうん!!w」
「クソッ、しょうがねぇなっ!。ナミさんっ、どこかに掴まってろっ!?」
とにかくこの海域から出るのが先決だと、人型になったチョッパーと、コックも入って、五人でオールを手に取る。
「漕げーーー!!!」
ルフィの号令に男五人で波を掻き───。
「……ふう……w。なんとか抜け出せたな…w」
波に煽られ言う事を聞かねぇ船に悪戦苦闘しながらも、なんとか無事にシケ海域から脱っせられた。
「大丈夫か?、ビビ」
穏やかになった船の上で、サンジがナミに、ルフィが階段にしゃがむビビの元に走っていく。
「なんだ?、ビビ、怪我してるじゃねぇか」
(、)
オールを片付けていると聞こえたルフィの声にビビを見ると、ルフィがビビの右の額に手を持って行っていた。
「なんだって?。大丈夫かい?、ビビちゃん」
「…………」
「…ビビ?」
(…………)
ビビの怪我は気にはなりつつ、だが先にまた妙な海流に船が入らねぇように、錨を下ろしてからビビの所に向かうと、ビビの額に指先を当てるルフィのその手から、ビビが体を引いてその指先から額を離したのが見えて。
「どうしたんだ?、ビビ。なんか言えよ」
「おいカルー。ビビどうしたんだ?」
「グエ…w。グエエw」
誰が何を言っても返事をしねぇビビ。
それに異変を感じて、ウソップがカルーに訊いた。
「さっき倒れた時、手すりで頭を打ったみたいだって…w」
(…………)
ウソップの問いに答えたカルーの言葉を通訳したチョッパーの言葉に、まだ言葉を発しねぇで俺達を体を竦ませて見ているビビに目を向けた。
「……おい、大丈夫なのか」
「…………w」
(ん…)
訊いた俺にも微かに怯えたような顔で体を後ろに下げたビビが、目で俺達を見回した。
「ちょっと、ほんとにどうしたの?、ビビ」
訊いたナミにちぃとびびったみてぇにまた体を引いたビビの目には、困惑が混じっていて。
「……あなた達…誰…?w」
「「「「「え…?」」」」」
(え……)
微かに怯えの浮かんだ目で俺達を見ているビビの言葉に、俺を含めた全員が言葉を失って。
「…あ…わはははw、やるなビビw。こんな時にそんな冗談……」
「…………w」
笑って言ったウソップの言葉に、それでもビビは反応しねぇで、怯えの浮かんだ目を俺達から離さねぇで。
「……ほんとに解らないの…?w、ビビw。私達の事が…w」
「…………w」
(―――――)
返事はしねぇが、正に知らねぇ奴を見る目で俺達を見るビビの態度は冗談を言ってる風では全くなく、またこいつはそんな冗談を、その上こんな状況で言う奴じゃねぇ。
「グエェ……w」
「─────w」
顔を近付けたカルーに、逃げるみてぇに体を竦ませて身を引くビビ。
カルーにまでびびっているその様子が、ビビの異常を明らかにしていた。

「――――――」
甲板のマストの柱に凭れて、普段通りルフィ達といるビビをまだ抜けきらねぇショックを引きずりながら眺める。
俺達を忘れたあいつ。
俺達の事も、アラバスタや国王達の事も。
てめぇの事すら忘れた。
『記憶喪失』
チョッパーの出した診断結果。
医学書を見ながら、頭を打った事で脳みその記憶を司る部分がなんたら言ってたが、そんな専門的な事は解らねぇし、どうでもいい。
あいつが俺を、俺達を忘れた。
その事実だけが俺には重要で、そしてショックだった。
(……………)
そしてもう一つのショック。
今の時点で、俺を見るあいつの顔と態度には、怯えがはっきりと浮かんでいる。
専門的な事が解らねぇ俺と同じく、チョッパーの説明を聞いた後、『解らーん!!!』と叫んで、いつも通りのあっけらかんとした態度で、『ま、そのうち治るだろ』と、相変わらずの危機感のねぇ調子でビビに『なっ!!♪』と笑い掛けたルフィ。
俺を含めた他の連中も手の施しようがねぇから、様子を見る事しか出来ねぇで。
なるべくビビを不安にさせねぇようにといつも通りの態度で接する事に決めて、そのあいつらの調子にビビも緊張感を解いて、すっかり記憶がねぇとは思えねぇ調子であいつらの中に交わっている。
が…。
(…………)
他の奴らには早くも馴染んだあいつ。
だが俺にゃあ近付かねぇ。
アラバスタへ送り届ける為にこの船に乗せ始めたあの頃も、あいつは俺にはなかなか馴染まなかった。
『そりゃてめぇは悪人面だから怖ぇんだよ』
『雰囲気も堅いしね。近寄りがたいんじゃない?』
前のあいつも俺に馴染まなかった理由は、十中八九そういう事なんだろう。
そして今も。
「…………」
だが、あの頃よりも、今の方がひでぇ。
俺には近付きもしねぇ。
目も合わせねぇ。
目が合えば、見てはいけねぇもんを見たみてぇに慌てて逸らす。
そして離れた。
助けを求めるみてぇに、誰かの側へと逃げていく。
(…………)
あの頃も俺に近付きはしなかったが、それでも逃げたりゃあしなかった。
話し掛けりゃあ話し返してきていた。
そりゃあ、アラバスタに向かう手助けを受ける場に俺も居たから。
一応は、敵に狙われていたあいつを俺が助けたから。
だから俺も怖くねぇ存在だと認めていたんだろう。
だが今は違う。
今のあいつにしてみりゃあ、俺達は嵐の後からいきなり船に相乗りしている、知らねぇ海賊。
そしてあいつらには馴染んだ今も、俺だけは怖ぇ存在。
三振りも刀を持った、見た目も雰囲気も怖ぇ、近寄りがてぇ男。
だから怯えて逃げる。
てめぇの身を守る為に。
素性の知れねぇ、"怖ぇ"男から逃げる。
"怖ぇ俺"から逃げる。


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