原作サイドパラレル─真章─

□保冷剤
1ページ/1ページ

(あちぃ……)
船を止めたのは、夏島の町。
だがアラバスタみてぇな乾いた暑さじゃねぇ、俺の故郷の梅雨に似た、湿気の多いジケッとした暑さ。
ビビとチョッパーと三人で留守番に残ったが、買い出しに出た連中も今頃汗だくで買いもんしてやがるだろう。
しばらくぶりの町だから、それだけ補給するもんも多く、あいつらが買い出しから戻るのは多分まだ時間が掛かるだろう。
どこに居ても暑さと湿気は酷くて、中に居るよりはマシかと集まった船首デッキの上もサウナ状態で熱気と湿気が立ちこめている。
「あちぃ〜〜〜……⊃」
「大丈夫?、トニーくん⊃⊃」
俺達の中で最も暑さに弱ぇチョッパーは、暑さに加えて慣れねぇ湿気で床にぐったりと俯せになっていて、それを気遣っている暑さにゃ慣れているビビも、俺と同じく湿気に巻かれて頭から汗がボタボタで。
チョッパーにも命に関わる程の暑さじゃねぇだろうが、やっぱり側で参ってるのを見ていると何とかしてやらにゃあって気にはなる。
「なんとかならないかしら…w。せめてちょっとでも冷やせれば…⊃。あ、氷」
「…………」
ビビの言葉にそれを思い付き、
「待ってろ。取ってくる」
「うん。じゃあついでに扇ぐものもお願い」
「ん」
ビビの要求に返事して飯場に入って、冷蔵庫の鍵を外した。
(ん…)
氷を手に取った時、横に纏めて入れてある数個の保冷剤が目に入って。
(…保冷剤か…。ん)
いい案を思い付き、手に取った保冷剤は確かに凍っていて冷たく、だが袋に入ってるから溶けても濡れもしねぇ。
それと脇にうちわにする古新聞を二つ挟み持って、左腕の手拭いを外しながらチョッパーとビビの所へ戻った。
「ほれ、ビビ。一個持ってろ」
「あ。保冷剤…?」
新聞二つと保冷剤一つをビビに渡し、あとの保冷剤二つを手拭いでくるむ。
「チョッパー、起きろ。こっち向け」
「…ゾロ…?。?」
床にぐったりと俯せになって舌を出しているチョッパーを起こさせて、自分の方に向けさせる。
その前にしゃがみ、チョッパーの後ろ首に保冷剤が来るように手拭いを掛けてみた。
「ん」
「ん…」
この『ん』てのはどこでも共通らしく、上を向けと喉を反らして顔を上げて見せると、それに従ったチョッパーの首元でその手拭いを括る。
「どうだ。それならちぃとはマシだろ」
「……あ、ほんとだ。冷てぇ」
毛が邪魔していても多少は違うらしく、まだぐったりとした顔つきはしていても、首元の手拭いを括った部分に両蹄を当てて顔を緩ませたチョッパー。
「ほれ、しっかりしろ」
ビビに渡した新聞を一つ取って扇ぎ、生ぬりぃだろうが風を送る。
ビビも頬に保冷剤を当てながら、さっきから新聞で扇いでいる。
「ビビ、おめぇはいいから自分を扇いでろ」
ビビを止めさせたが、それでも扇ぎ続けるビビに向けてる目に汗が入ってくる。
暑さと湿気に汗だくで、その上チョッパーを扇ぐから余計に汗が吹き出る。
「ん…」
不意にちぃと吹いた風。
だが生ぬるく、それでもねぇよりゃマシだった。

(まだ戻らねぇのか…)
あれから三十分はゆうに過ぎて。
チョッパーの首の保冷剤も二回程換え直し、顎から伝い落ちる汗を拭いながら町の方を見た。
「おおーい!!」
「!」
「あっ!。帰ってきた!」
丁度見た時に町への道の奥に黒い点が五つ見え、その中の一つがルフィの声と共に手を振り上げた。
やっとこの暑さから離れられると安堵して、あいつらが乗船したらすぐに発てるように、ビビにチョッパーを任せて碇を上げに腰を上げた。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ